64年東京パラ五輪記録映画、55年ぶりに公開 20年大会も公式映画の製作決定

引用元:スポーツ報知
64年東京パラ五輪記録映画、55年ぶりに公開 20年大会も公式映画の製作決定

 来年8月25日から開催される東京パラリンピックの公式映画が製作されることが12月11日、発表された。製作段階からIPC(国際パラリンピック委員会)が関わる映画は今大会が初めてだが、実は前回の1964年大会でも複数の記録映像が撮影されていた。そのうちの一つ「東京パラリンピック 愛と栄光の祭典」の上映が来年1月17日から東京・江東区のユナイテッド・シネマ豊洲で決定。半世紀以上前の選手たちの環境や思いを知ることで、来年の大会観戦にも、より深みが増すはずだ。(高柳 哲人)

 下半身まひを意味する「パラプレジア」と「オリンピック」を組み合わせた造語として生まれたとされる「パラリンピック」。今でこそ多くの人が知る言葉となったが、一般的に使われ始めたのが前回の東京大会だったことを知る人は少ないかもしれない。その様子が映し出された映像が、55年ぶりにスクリーンによみがえる。

 63分のモノクロ作品「東京パラ―」は、1965年5月15日に公開。その後は配給した大映が倒産したこともあり、長らく倉庫の奥にフィルムが眠ったままの状態になっていた。

 今回の公開にあたり、プロジェクト担当となったKADOKAWA映像統括センターの野久尾悟さんは「フィルムのリストに作品名は掲載されていたのですが、ドキュメンタリー作品ということもあり、アーカイブ担当者も『その他多くのうちの1本』という感覚でした」と振り返る。だが、2013年に20年の東京開催が決定。そこで「うちの会社として何がやれるのか?」と考える中で、この作品の上映に思いが至ったという。

 ただ、フィルムとスチール写真、当時のポスターの原版は存在したものの、詳細な情報は残っていなかった。そこで、「まずは見てみようか」と野久尾さんを含めた関係者で試写を実施したところ、その完成度の高さに驚かされた。

 「今でこそ、五輪とパラリンピックは“セット”として考えられていますが、半世紀前の障害者に対する考え方などを勘案すれば、当時はそのような意識は希薄だったと思います。その中で、『参加者、そして大会そのものをカメラを回して残さなければいけない』という映画人としての矜持(きょうじ)を感じ取りました」。調べていくうちに大映から独立したプロデューサーの上原明氏が私財をなげうち、資金集めに奔走したことを知り、更に尊敬の念を抱くと同時に「絶対に公開したい」と考えた。

 作品は、出場が決定した女性選手が療養所のような場所で生活し、トレーニングする様子から始まる。開会式が始まるのは、全体の半分ほど、30分を過ぎてからだ。そこまでは、大会に向けて準備を続ける関係者や選手たち、海外から到着した外国人選手を迎え入れる様子などが映し出される。

 「単なる記録映画ではなく、参加しているアスリートにどんな背景があり、何を考えているかがしっかり描かれています。同時に時代背景も伝わって来る。当時は、障害者への偏見もあったし、実際に宇野重吉さんが担当したナレーションには『かわいそうな人』という言葉もある。その中で、登場人物の心の動きが丁寧に紹介されているのです」

 市川崑監督がメガホンを執った「東京オリンピック」は、一見すると五輪の「ドキュメンタリー」とはいえないようなドラマ性が「記録か、芸術か」と賛否を巻き起こしたが、現在では高い評価を得ている。野久尾さんは、「東京パラ―」にも、同様の価値があるとみている。

 現在、一般的にパラリンピックの第1回と定義されているのは、1960年のローマ五輪と同時期に開催された「第9回ストーク・マンデビル競技大会」。その後、88年ソウル大会から、五輪開催地と同都市で開催されるようになった。つまり、来年の東京が世界初の「パラリンピックを2度開催した都市」となる。

 「その上で、この作品の意義は大きいと思います。1964年の様子を映像で知り、半世紀を経て大会がどのように成熟したかを知る。さらに、来年の大会の記録が残されることで、あるかもしれない3度目に向けて課題を投げかけることができるのではないでしょうか」と野久尾さん。年明けに正月映画のヒット作を見るのもいいが、パラリンピックの歴史を振り返ってみるのはいかがだろうか。

 ◆20年パラ映画はNHKとIPC製作

 20年の東京パラリンピックの公式映画は、NHKとIPCが共同で製作。NHKが撮影した映像を100分ほどのドキュメンタリー番組にまとめ、大会後に放送する予定。一方、IPCはNHKの映像素材を元に映画の形にし、世界各国で公開する。

 撮影は年明けからスタートする予定で、大会の記録映像的な要素だけではなく、個々の選手にクローズアップした内容も含まれる予定。11日に行われた会見でNHKの上田良一会長は「レガシーとなるような作品作りを目指したい」と意欲を見せた。

 なお、東京五輪はカンヌ国際映画祭の常連として知られる河瀬直美さん(50)が公式映画の監督を務めることが既に発表されている。 報知新聞社