大河史上最低視聴率で“完走”の「いだてん」…最後の最後に漏れたNHK制作トップの本音

引用元:スポーツ報知
大河史上最低視聴率で“完走”の「いだてん」…最後の最後に漏れたNHK制作トップの本音

 NHKにとって長い、長い1年間の旅が終わった。1年間にわたって放送された大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(日曜・後8時)が15日、最終回を迎えた。

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 最終回の平均視聴率は大河史上最低の8・3%。1年間の期間平均も8・2%と初の1ケタ。これまでの最低記録だった2012年の「平清盛」と15年「花燃ゆ」の12・0%を大きく更新してしまった。

 1月6日の初回こそ15・5%でスタートし、第5話までは2ケタを記録も第6話から1ケタに転落。最終回の第47話まで1度も2ケタ台に浮上することはなかった。これまでは単独回の平均視聴率の最低記録も12年11月18日放送の「平清盛」の7・3%だったが、「いだてん」は4月28日放送の第16話で7・1%、6月9日放送の第22話で6・7%、8月11日の第30話で5・9%、8月25日の第32話で5・0%、不運にも平均39・2%をマークしたラグビーW杯「日本―スコットランド戦」中継の“裏”となった10月13日の第39話で3・7%と、ワースト記録を5度に渡って更新してしまった。

 悪趣味かも知れないが、大河58作目として放送された「いだてん」が記録したワースト記録を列挙する。

 (1)最速1ケタ視聴率転落 第6話

 (2)最多1ケタ視聴率 全47話中42回

 (3)連続1ケタ視聴率 42週連続

 (4)単独回・歴代最低視聴率 3・7%

 (5)期間平均・最低視聴率 8・2%

 リアルタイム視聴率という数字だけを見れば、「史上最低の大河」と言われてもしようがない結果。18日、東京・渋谷のNHKで行われた同局の編成・制作の総責任者・木田幸紀放送総局長の定例会見でも「いだてん」に関する質問が当然のように集中した。

 「まず、おわびなのですが、この1年間、いろいろなことがあって、ご心配をおかけたことを申し訳なかったなと思っています」と頭を下げた木田氏。3月に足袋職人・黒坂幸作役で出演のピエール瀧(52)がコカイン使用による麻薬取締法違反で逮捕され、降板。終盤に東京五輪で女子バレーボール日本代表を率いた大松博文監督役で出演した「チュートリアル」徳井義実(44)も個人で設立した会社が東京国税局の税務調査を受け、18年までの7年間で約1億2000万円の申告漏れを指摘されるなど、キャストにスキャンダルが続出したことを謝罪した。

 「その上で内容についてですけれども」と続けると、「大変、見応えがあったと思っています。今までになかった大河を目指して、最後までそれを追求してもらった。脚本、出演、スタッフの皆さん、大変、おつかれ様でしたし、その努力を大いに評価したい」と話した。

 その後、「やっぱり…」と言葉をつなぐと、「序盤で時制が飛んだり、出演者がたくさん出てきたりと言うことで、複雑な展開についていけない視聴者が多かったのも事実かなと思います。その結果、視聴率が思うようにいかなかったというのは残念だなと思います」と正直に答えた。

 脚本を手がけたのは、13年の連続テレビ小説「あまちゃん」で社会現象を巻き起こした宮藤官九郎氏(49)だった。作品自体は、まさに「クドカン・ワールド」。史上初めて主人公が中村勘九郎(38)演じる日本初の五輪マラソン選手・金栗四三(かなくり・しそう)から阿部サダヲ(49)演じる五輪招致に尽力した新聞記者・田畑政治(まさじ)に途中交代した。

 物語の時制も金栗が出場した52年のヘルシンキ五輪から64年の東京五輪を行き来したり、語り部として出演の「昭和の大名人」と呼ばれる落語家・古今亭志ん生をビートたけし(72)と森山未來(35)という似ても似つかぬ2人が演じるなど、複雑な構成は序盤で大河のメインターゲットであるF4層(65歳以上の女性)、M4層(65歳以上の男性)中心に多くの“脱落者”を生んだ。木田氏の「複雑な展開についていけない視聴者が多かった」という言葉は、まさにこの点を指摘していた。

 1977年の入局後、90年の大河「翔ぶが如く」演出、97年の「毛利元就」制作統括など一貫して制作畑を歩んできた“NHK放送全体の顔”と言っていい木田氏は「ただ、僕も長いこと、大河ドラマに携わってきた経験からなのですが、宮藤官九郎さんが切り開いてくれた大河ドラマの新しい地平は本当に大事なものだと。NHKの大河ドラマにとって、本当に大きな財産になったと思います」と、その挑戦を評価した。

 リアルタイム視聴率の不振と裏腹の「視聴熱」(どれだけツイッターなどで番組についてつぶやかれたか、実況の盛り上がりなどで測る人気度)の高さ、最終回直後に「♯いだてん最高じゃんね」がツイッターの国内トレンド1位になるなどSNS上での「いだてん」人気は高かった。

 この点について、木田氏は「大河ドラマだけでなく、NHKの番組については視聴率も大事な要素ではありますが、それだけでなく、番組の質です。これからはネットの世界でどれくらいの評価があるかも参考にしながら、総合的に番組を評価していく。それで番組のパフォーマンスを高めていきたい」と答えた。

 そして、この直後に制作トップとしての本音中の本音がその口から漏れた。

 「僕の個人的な考えですが、もし機会があれば、宮藤さんにまた大河ドラマに挑戦してもらってもいいな。でも、今度はもうちょっと分かりやすく書いてもらえると、ありがたいなと思います」―。

 どうだろう。苦笑しながら漏らした「今度はもうちょっと分かりやすく」の部分に宮藤脚本への鋭い本音が漏れていると、私は見る。

 この4年間、木田氏の定例会見をずっと取材し続けてきた。2月10日に史上最短での1ケタを記録してしまった時も「物語の山場に合わせてプロモーション番組なども増やしたい」「『いだてん』というドラマは今までにもない、これからあるどうかかも分からない、見たこともない大河ドラマの作りをしてます」とエールを送り、6月の会見では「視聴率が全てということではない」という視聴者の受信料で制作しているNHKのトップとしては、やや波紋を呼ぶ発言までして擁護してきた木田氏。

 そんな制作トップが最後の最後に漏らした本音。そう、宮藤氏が「いだてん」で試みたのは、たとえるなら伝統のある大衆料理店で、あえてクセのある創作料理を出してみる―。そんなことだったのではないか。

 私自身のことも書いておく。「あまちゃん」でクドカン・ワールドに魅了された私は全47話をリアルタイム視聴ではないのだけが申し訳ないが、録画して全て見てきた。

 勘九郎演じる金栗、阿部演じる田畑という両主人公にも大きな魅力を感じたし、元から大ファンだった役所広司(63)演じる嘉納治五郎には「嘉納先生物語で大河が1本作れるな」と思うほどの存在感を感じた。最低視聴率をたたき出して話題となった反面、SNS上では、その感動的な内容から「神回」とも言われた第39話では、ある登場人物の死に本気で涙が出た。

 録画視聴、自分の好きな時間にタブレット端末などで見るオンデマンド視聴も増えている上、日曜午後8時の裏番組は強力そのものだった。常に平均視聴率15%以上の日本テレビ系「世界の果てまでイッテQ!」に加え、平均視聴率20%台を連発し、9月29日の放送では、ついに20・8%の番組最高視聴率をたたき出したテレビ朝日系「ポツンと一軒家」も気がつくと、強大な敵に成長していた。

 そんなさまざまな逆風のもと、視聴率というどこか取り留めのない数字に敗れたかにも見える宮藤氏は、16日放送の自身がパーソナリティーを務めるTBSラジオ「ACTION」(月~金曜・後3時半)でリスナーから集まった「いだてん」称賛の声に対して、こう答えた。

 「視聴率で負けたくなかったんですけどね」―。

 ポツリと漏れた本音。蛇足ながら一視聴者として、“完走”した私の感想もたった一つ。「やっぱり、クドカンはすごい」―。だからこそ近未来のクドカンの大河再挑戦に心の底から期待している。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆「いだてん」の視聴率推移

 ▽第1話 15・5%

 ▽第2話 12・0%

 ▽第3話 13・2%

 ▽第4話 11・6%

 ▽第5話 10・2%

 ▽第6話 9・9%

 ▽第7話 9・5%

 ▽第8話 9・3%

 ▽第9話 9・7%

 ▽第10話 8・7%

 ▽第11話 8・7%

 ▽第12話 9・3%

 ▽第13話 8・5%

 ▽第14話 9・6%

 ▽第15話 8・7%

 ▽第16話 7・1%

 ▽第17話 7・7%

 ▽第18話 8・7%

 ▽第19話 8・7%

 ▽第20話 8・6%

 ▽第21話 8・5%

 ▽第22話 6・7%

 ▽第23話 6・9%

 ▽第24話 7・8%

 ▽第25話 8・6%

 ▽第26話 7・9%

 ▽第27話 7・6%

 ▽第28話 7・8%

 ▽第29話 7・8%

 ▽第30話 5・9%

 ▽第31話 7・2%

 ▽第32話 5・0%

 ▽第33話 6・6%

 ▽第34話 9・0%

 ▽第35話 6・9%

 ▽第36話 7・4%

 ▽第37話 5・7%

 ▽第38話 6・2%

 ▽第39話 3・7%

 ▽第40話 7・0%

 ▽第41話 6・6%

 ▽第42話 6・3%

 ▽第43話 6・1%

 ▽第44話 6・1%

 ▽第45話 6・1%

 ▽第46話 6・9%

 ▽第47話 8・3%

(数字はビデオリサーチ調べ、関東地区) 報知新聞社