『レイジング・ブル』スコセッシ、デ・ニーロ、ジョー・ペシの黄金チームはいかにして最初の一歩を踏み出したか?

引用元:CINEMORE
『レイジング・ブル』スコセッシ、デ・ニーロ、ジョー・ペシの黄金チームはいかにして最初の一歩を踏み出したか?

 現在、マーティン・スコセッシ監督の最新作『アイリッシュマン』(19)が大きな注目を集めている。この映画は間違いなくスコセッシの集大成的な作品だ。それに、鑑賞中、様々なスコセッシの過去作の呼吸や感触が蘇ってくるという魅力もある。例えばマフィアが絡む一大絵巻という点では真っ先に『グッドフェローズ』(90)や『カジノ』(95)が彷彿させられるし、これらはデ・ニーロ、ジョー・ペシ、スコセッシという黄金トリオを強烈なまでに印象付けた作品でもあった。

 そして全くタイプは違うが、『アイリッシュマン』の余韻に浸りながら筆者の中でじわじわと思い出された作品がもう一つ。1980年公開の『レイジング・ブル』である。

 本作は歳を重ねた主人公の元ミドル級チャンピオン、ジェイク・ラ・モッタの独白で幕を開ける。その姿ときたら、でっぷりと太ってデ・ニーロかどうかも判別しにくい中年オヤジ。それが回想シーンに突入すると顔も肉体も全てが剃刀のように研ぎ澄まされた姿へと変貌を遂げる。また、家庭を顧みずに取り憑かれたように稼業に打ち込む姿や、時を経たところで我が身に去来する“贖罪”もどこか『アイリッシュマン』との共通性を感じさせる。さらに言えば、この伝記映画でもやはりデ・ニーロ、ジョー・ペシ、スコセッシの濃厚な絆は健在なのだった。


『レイジング・ブル』スコセッシ、デ・ニーロ、ジョー・ペシの黄金チームはいかにして最初の一歩を踏み出したか?


(c)Photofest / Getty Images

デ・ニーロ&ペシのコンビ、最初の作品

 最新作『アイリッシュマン』は、とうに俳優業から遠ざかっていたジョー・ペシをなんとか復帰させようと、スコセッシとデ・ニーロが何度も彼と会って説得を続けたことで知られる。

 遡ることおよそ40年、『レイジング・ブル』で初めて彼らが組んだ時にも、ペシをキャスティングするのには大きな苦労が伴った。

 最初にペシの才能を見つけたのはデ・ニーロだった。ビデオでたまたま出演作”The Debt Collector”を見ていて彼の演技に釘付けになり、「こいつは面白い!」とスコセッシに教えたのが始まりだとか。

 だが、当のペシはその頃、俳優をやめようと考えていた。子供の頃から舞台に立ち続け、もう俳優という仕事に疲れ果てていたらしい。演技が嫌いだとかそういうのではない。彼の気質上、お偉いさんに頭を下げたり、顔色を伺ったり、自分が悪くもないのに下手に出たりしなきゃいけない業界そのものに嫌気がさしていたようだ。

 彼はもっと自分が人間らしく扱われる場所を求めて、仲間と一緒にレストラン経営などの事業に着手していた。そんなスタンスだから、初めにスコセッシが声をかけた時も全く耳を貸さなかった。しかしどうにかなだめて話を聞いてもらったり、試しに演じてもらったりしたところ、やはりこの男、ただ者ではない。しゃべり方も最高。即興演技も見事だった。そんなジョー・ペシ本人もスコセッシの熱意に触れ、「これまでの奴らとはちょっと様子が違うぞ」と感じ始めたという。

 蓋を開けてみると、彼はカメラの前でデ・ニーロと相性抜群だった。当代随一の演技力を誇るデ・ニーロだが、今回はさらに役作りを徹底させ、見ての通り、身の毛のよだつほど絞り込まれた肉体である。つまりペシは、あんな獰猛で野生的な“怒れる牛”と見事に渡り合ったのだ。それができるのは映画界をどれだけ探しても彼くらいしかいないだろう。