サブタイトルで読み直す『いだてん~東京オリムピック噺』【金栗四三編】

引用元:オリコン
サブタイトルで読み直す『いだてん~東京オリムピック噺』【金栗四三編】

 NHKで1月から放送されてきた大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)』はいよいよ15日(後8:00 総合ほか)放送の第47回「時間よ止まれ」で完結する。土壇場で、制作統括の清水拓哉氏、演出の井上剛氏、一木正恵氏に集まってもらい、サブタイトルを切り口に全47回を振り返ってもらった。

【写真】ついに東京オリンピック開会式! 第47回の場面写真

――サブタイトルはどのように決めていたんですか?

【清水氏】宮藤官九郎さんも交えて台本の打ち合わせをする中で、古今東西の文学・映画・音楽の作品タイトルしばりでいこう、といった案が出たんです。主に各回の担当演出がネタを出して決めていきました。

【金栗四三編・前半】

■第1回「夜明け前」

 島崎藤村の小説から。近代オリンピックの創始者であるピエール・ド・クーベルタンの意向で、フランス大使から柔道の創始者、嘉納治五郎(役所広司)が、日本のオリンピック参加を要請されるところから始まりました。オリンピックに出場する前。スポーツという言葉すら知られていなかった当時を表すのに「夜明け前」という言葉はぴったりだった。

■第2回「坊っちゃん」

 夏目漱石の小説から。主人公・金栗四三(中村勘九郎)の熊本での少年時代を描いた回。1891年、嘉納治五郎が熊本市の第五高等学校(熊本大学の前身)の校長に就任。同年8月に四三は生まれた。1896年、同校に夏目漱石が英語教師として赴任する。これら史実がある中、夏目漱石っぽい“口ひげの青年”(ねりお弘晃)も登場した。

■第3回「冒険世界」

 1910年春、18歳の四三は東京師範学校に進学し上京。当時、冒険小説やスポーツ記事を中心に掲載して人気の雑誌名が「冒険世界」。

■第4回の「小便小僧」

 JR浜松町駅のホームに「小便小僧」が設置されている。劇中に登場した落語「芝浜」の舞台が現在の浜松町エリアとされている。

【一木】四三がマラソン選手として開花していく回。「Born to Run」(走るために生まれた)がふさわしいんじゃないか、という案も出たんですが、大河ドラマのサブタイトルで英語はわかりにくいということでやめました。四三が頭角を現すきっかけとなった校内マラソン大会で立ち小便をしていたエピソードは、タイトルが出る前に終わってましたが(笑)。「Born to Run」は第26回「明日なき暴走」として日の目を見ることになりました。

■第5回「雨ニモマケズ」

 宮沢賢治による詩。日本初のオリンピック予選会が開催され、途中から雨が降る中、金栗四三が激走。嘉納治五郎が「世界に通用する“いだてん”」を見つけた回。治五郎に抱っこしてもらう父のうそが真(まこと)になった瞬間が描かれた。

■第6回「お江戸日本橋」

 作詞・作曲者不詳の東京日本橋における民謡。柴田錬三郎の小説。同じ時代を生きる四三と美濃部孝蔵(後の古今亭志ん生/森山未來)が日本橋ですれ違うシーンがあった。

■第7回「おかしな二人」

【一木】ニール・サイモンの戯曲から。金栗四三と三島弥彦(生田斗真)だけでなく、可児徳(古舘寛治)と永井道明(杉本哲太)、大森兵蔵(竹野内豊)と妻の安仁子(シャーロット・ケイト・フォックス)、スヤ(綾瀬はるか)と実次(中村獅童)など、いろんな2ショットが登場する回だったので。

■第8回「敵は幾万」

 軍歌。ストックホルムオリンピックに出場する四三と弥彦が「敵は幾万」の大合唱に見送られたことが記録に残っている。一方、熊本ではスヤが村一番の名家・池部家の跡取り息子と結婚。池部幾江(大竹しのぶ)が姑に。

■第9回「さらばシベリア鉄道」

 大根仁氏の演出回。大瀧詠一さんの名盤『A LONG VACATION』収録曲。主にストックホルムに向けてシベリア鉄道で移動する車内の様子が描かれた。

■第10回「真夏の夜の夢」

 シェイクスピアの戯曲。初めて経験する白夜に悩まされる四三。外国人選手との体格差にがく然とし、徐々に自分を見失っていく弥彦。

■第11回「百年の孤独」

 ガルシア=マルケスの小説。「日本人に短距離は無理です。100年かかっても無理です」という弥彦のせりふにかかっていた。この回では、ストックホルムオリンピックの開会式で四三と弥彦らが入場行進し、日本人が初めてオリンピックに参加した瞬間が描かれた。

■第12回「太陽がいっぱい」

 アラン・ドロン主演の映画。四三が出場するマラソンの本番。スタートで遅れるも順調に順位を上げていったが、途中、記録的な暑さに見舞われる。

■第13回「復活」

 ロシアの作家レフ・トルストイの小説など。レースの途中で日射病になり、倒れてしまった四三。日本人初のオリンピックで惨敗を喫した四三が、ふたたび走り出す。

【井上】実は、最初は「不思議な少年」(マークトゥウェインの小説や、手塚治虫や山下和美の漫画)でした。ちび四三(久野倫太郎)とペトレ家の少年が出てきて、その二人に四三は命を救われる。一方で、ポルトガルのラザロ選手は亡くなってしまう。最終的に、シンプルな「復活」になりました。

【清水】SNSを見ているといろいろ深読みしてくれる人がいましたね。「復活」はキリスト教の復活とかけてあるんじゃないか、と。ラザロがキリストにしか見えないって。第10回から第13回までのストックホルム大会編のサブタイトルはどれもすてきだと思います。