「BTTF」のオマージュも!?『ひつじのショーン』監督が最新作の秘密を語り尽くす!<写真30点>

引用元:Movie Walker
「BTTF」のオマージュも!?『ひつじのショーン』監督が最新作の秘密を語り尽くす!<写真30点>

第88回アカデミー賞において長編アニメ映画賞にノミネートされた『映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』(14)に続く、アードマン・アニメーションズの人気キャラクター「ひつじのショーン」シリーズの劇場用長編第2弾、『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』(12月13日公開)。本作で初めて、長編のメガホンをとったウィル・ベチャー監督は「これまでも『ひつじのショーン』の世界に関わってきたけれど、監督にオファーされたこと自体が本当に光栄なこと。僕にとってはあまりにも大きなチャレンジだった」と振り返る。

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アードマン初の長編作品となった『チキンラン』(00)で、クレイ・アニメーション班に参加してキャリアをスタートさせたウィルは、その後アードマンのアニメーターとして、第78回アカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞した『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』(05)や『ザ・パイレーツ!バンド・オブ・ミスフィッツ』(12)などに参加。その傍ら、『Off Beat(原題)』(06)と『The Weatherman(原題)』(07)という2作の短編を監督し、テレビシリーズ「ひつじのショーン」のシーズン5で10エピソードを監督。そして、昨年公開された『アーリーマン~ダグと仲間のキックオフ~』(18)でアニメーション監督を任され、アードマンで切磋琢磨してきたリチャード・フェランと共に、本作で待望の長編監督デビューを飾った。

「僕はアニメーション部門で20年、リチャードはストーリーボード・アーティストとして10年、アードマン作品に関わってきた。数年前にニック・パークに『監督業を勉強したい』と直々に頼み込んで『アーリーマン』やテレビシリーズの『ひつじのショーン』に参加させてもらった際に、プロデューサーのポール・キューリーが『リチャードと一緒に監督をしてみないか?』と提案してくれたんだ。僕は撮影現場やアニメーションのノウハウを深く知っていたし、リチャードはストーリーボードや物語を構築することに長けている。きっと僕ら2人の強みを活かしたら、素晴らしいチームになると思ってくれたのでしょう」。

アードマンの名前を世界中に知らしめた人気シリーズ「ウォレスとグルミット」の一編で、第68回アカデミー賞短編アニメ映画賞を受賞したニック・パーク監督の傑作『ウォレスとグルミット 危機一髪!』(95)で、主人公、ウォレスの家に迷い込む子羊として初めて登場したショーン。先日来日を果たしたアードマンの創設者、ピーター・ロードが「ショーンは2人の才能あるアーティストが作りだしてきたキャラクター」と語っていたように、2007年にリチャード・スターザック監督の手によってアレンジが加えられ『危機一髪!』のスピンオフとして製作された「ひつじのショーン」は、瞬く間に人気を集めシリーズ化。いまやアードマンを代表する人気キャラクターへとのぼりつめた。

「僕は、ショーンの人生に向き合う姿勢が大好きだ」とショーンの魅力について語るウィルは「彼は常に、何事も一番楽しいことがベストであると考えているし、とてもあたたかいハートの持ち主なんだ。友だちになったらしっかり面倒を見てくれる、そんなところがすごく好きなんだ」と笑顔を見せる。その言葉通り、本作はショーンが静かな田舎町モッシンガムに迷い込んでしまったいたずら好きの宇宙人ルーラと出会い、彼女を両親のもとへと帰してあげるために奮闘する姿が描きだされていく。「ショーンは言葉を発しないから難しいキャラクターだ。でも今回の物語は、前作以上に大きな世界を描きたかったので、ひとつひとつのサイドストーリーがしっかり観客に伝わるようにしたかったので、ストーリー作りには非常に時間がかかったよ」。

ストーリー構築の作業では、リチャードらと共にそれぞれが実際に体験した出来事を話しながら組み立てていったとのことで、ウィルは「僕の個人的な体験はとくにスーパーマーケットのシーンに反映されているよ」と明かす。それは劇中の中盤、ルーラのUFOを探すためにショーンとルーラが2人で町を訪れるシーン。ショーンが目を離した隙に、にぎやかなスーパーマーケットに興味を持ったルーラは店内に入り込み、キャンディやソーダを勝手に飲み食いした挙げ句、シュガーハイを起こして大暴れしてしまうというユニークなシーンだ。「僕には2人の娘がいるんだ。スーパーマーケットの一連のシーンもそうだし、彼女たちがどんな風に世界を見ているのか、どんなものに好奇心を抱くのか。それにちょっと生意気なところがあったり、時々ナイーブになったり。親として見てきた娘たちの行動を、ルーラというキャラクターに投影しているんだ」。

そうして完成したストーリーを具現化していく上で、ウィルとリチャードは共同監督としてある取り決めをしていたという。それは「なにもかも一緒に作業していく」ということ。「すべてのことを、お互いがちゃんと意思疎通を重ねて賛成した上で進めていったので、2人のカラーがバランス良く反映されているんだ」と語りながらも、「でも、監督としての細かい部分のエッセンスは違うから、それぞれの個性が反映されている部分はあるかもしれないね」と告白。実は本作では、一度実写で撮影した動きをもとにして、キャラクターのアニメーションが作られていったとのことで「リチャードは牧場主、僕は牧羊犬のビッツァーを演じるのがとくに上手かったんだ(笑)」と、意外なところにそれぞれの監督の個性が現れていることを明かした。

また本作では、アードマン作品としては『ザ・パイレーツ!』以来となるシネマスコープサイズのアスペクト比が採用されている。「前作からクリエイティブ面で意識的に大きな変化をさせようと思ったのがアスペクト比だったんだ」と明かすウィルは、その理由としてもうひとつ「シネマスコープは最もSF映画に向いているアスペクト比だからね」と、本作がSF映画であることを強調する。「僕やリチャードは80年代に映画を観ていた子どもたちだったから、古典的なSF映画のアスペクト比、とくにスティーヴン・スピルバーグ監督の映画の空気感を意識していたんだ。冒頭のシーンで牧場にミステリーサークルが現れるのをワイドな画面で見せるのは、とても魅力的なオープニングになるだろ?」。

そのミステリーサークルのシーンでは、M.ナイト・シャマラン監督の『サイン』(02)を意識したとのことで、劇中には他にも数多くのSF作品のオマージュが見受けられる。『未知との遭遇』(77)や『E.T.』(82)といったスピルバーグ作品はもちろんのこと、『2001年宇宙の旅』(68)や『エイリアン』(79)といった往年の名作から、「X-ファイル」に至るまで。そこでウィルが一番好きなSF映画を訊ねてみると「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だよ。初めてテレビで観た時に、とにかくマジカルで楽しくてグッときたんだ!」と即答。もちろん『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)のオマージュも本作にこっそりと隠されているらしく「牧場主が作ったテーマパークを訪れるお客さんに注目してほしい。それと宇宙船の壁もよく見るとデロリアンのエンジンをモチーフにしているんだ」と楽しそうに教えてくれた。

さらに劇中には、“アードマンSF”の代名詞とも言える『ウォレスとグルミット<チーズ・ホリデー>』(89)の映像が一瞬だけ登場するというファンにはたまらないサービスに加え、ルーラたちを追うエージェント・レッドの相棒ロボット“マギンズ”にも既視感を覚えることだろう。「マギンズは旧式のなんの役にも立たないロボットというコンセプトで、かつてはハイテクでイケていたのに、いまではただのファイリングキャビネットになっているというユニークな設定なんだ」と明かすウィル。本国イギリスで公開された際に、このマギンズの動きや見た目、引きだしのギミックが『チーズホリデー』に登場する月の管理人こと“オーブンレンジ”に似ていると言われ、ハッとしたという。

「作っているときにはまったく意識していなかったけど、やっぱり小さいころに『ウォレスとグルミット』を観て育ってきているから、計り知れない影響を受けているんだと思う」と、ニック・パークとピーター・ロードの偉大さを語る。「2人は最初から最後まで、本作に深く関わってくれたんだ。この『Farmageddon』(本作の原題)というタイトルも、話し合いの最中にダジャレ好きのニックが言ったものなんだ(笑)。それにニックもピーターも、そしてデヴィッド(アードマンの共同創業者で本作で製作総指揮を務めているデヴィッド・スプロクストン)も、半年ごとに進捗を確認しに来てくれて、その都度感想を言ってくれるんだ。本当に緊張したよ!」。

そしてウィルは「『ひつじのショーン』のようなスラップスティック作品はとにかくタイミングが重要なんだ。僕自身も短編を手掛けてきたことでそのタイミングを磨いてきたけれど、やはりその背後にはニックとピーターが持っているコメディセンスから受けた大きなインスピレーションがあったと自覚している。だから今回の作品は、僕たち監督だけじゃなく、いろんなアーティストや多くのスタッフが提案してくれたギャグやアイデアの中でもベストなものばかりを取り入れているんだ」と、本作がSF映画であると同時にコメディ映画でもある、まさにアードマンの総力が結集した作品に仕上がっていることをアピールした。(Movie Walker・取材・文/久保田 和馬)