映画コメンテーター・有村昆が選ぶ、ホアキン・フェニックス映画3選

映画コメンテーター・有村昆が選ぶ、ホアキン・フェニックス映画3選

第92回アカデミー賞で自身初の主演男優賞に輝いたホアキン・フェニックス。「ジョーカー」(’19年米)での歴史的な名演につながる3本を有村昆さんが語る。

【写真を見る】「8mm」より

狂っているのは俺か、世間か—-。観客をゾクゾクさせるような演技で狂気のヴィランを創り上げたホアキン・フェニックス。”いま最も見るべき俳優”が「ジョーカー」で結実させた演技の片鱗は、過去作にも隠されていると有村さんは指摘する。

「『グラディエーター』(’00年米)が彼のブレーク作ですが、直前の『8mm』でも輝きを放っていました。ホアキンって、貧困で苦労した幼少時代、兄リヴァー・フェニックスの急逝など、悲しい過去の幻影が漂っていて、観客もそのバックボーンを知っているから、見ていて胸騒ぎを覚える。『8mm』はエロ本屋の店員・マックス役で、出演シーンは多くないですが、彼にしか醸し出せない”喪失感”がありましたね」

そんな独自の空気感をベースにしながら、世間を巻き込むような仕掛けもホアキンの特徴。「容疑者、ホアキン・フェニックス」はその真骨頂だ。

「『ジョーカー』とのつながりで外せないのが『容疑者–』です。俳優として一目置かれる存在になったホアキンが突如として引退、ヒップホップアーティストに転向する…というフェイク・ドキュメンタリー。2年間にわたって世間をだまし続けて、『ウソでした~』と発表する…さすがに悪ノリが過ぎていますよね(笑)。案の定、叩かれてしばらく干されましたけど、世間を欺くこんな大芝居は彼にしかできません。その後、復帰作『ザ・マスター』(’12年米)でのシリアスな演技が評価されますが、バカな仕事と天才的な仕事を行き来するダイナミックさに、『ホアキン、次は何をやるんだろう?』とドキドキさせられますね」

「ザ・マスター」以降は充実したキャリアを重ねているが、「her/世界でひとつの彼女」のホアキンには円熟味すら感じる。

「これ、彼のキャリアで一番まっとうな仕事かもしれない(笑)。AIに恋する中年の役で、ひとり芝居のようなシーンが多いんですけど、余裕で成立させちゃう。普通にやって、世界最高水準という恐ろしさ。やはり子役時代から培ってきた経験値と、そもそもの演技力がめちゃくちゃ高いんですよね。『ジョーカー』では彼の〝狂気〟に目が行きがちですけど、それを支える基礎の部分が過去作から見えてくるはずです」

ありむら・こん●’76年7月2日生まれ、マレーシア出身。年間500本の映画を鑑賞。最新作からB級映画まで幅広い見識を持つ。YouTubeでは「有村昆のシネマラボ」で本音の映画批評を配信中。

聞き手=山崎ヒロト(Heatin’ System) HOMINIS