人気TikTokerでハンドボール日本代表キャプテン!? レミたん=土井レミイ杏利に聞く

引用元:TOKYO HEADLINE WEB
人気TikTokerでハンドボール日本代表キャプテン!? レミたん=土井レミイ杏利に聞く

 数ある球技のなかでも、日本ではずっと”マイナー”扱いされていたハンドボールに、新たな風を吹かせようと、その普及に一役買っている男がいる。それが、日本代表のキャプテンである土井レミイ杏利。彼は現在2つの顔でメディアに登場する。ひとつがハンドボール選手としての土井選手。もう一つは、若者に人気の動画SNS、TikTokでの「レミたん」だ。フォロワーの数は国内外合わせて46万人超。屈強なスポーツ選手でありながら、笑いを取る動画でネットを騒がせる彼の真意を聞いてきた。

TikTokもハンドボールも、熱量は一緒

□生粋のハンドボーラーがTikTokerになった理由

ーー9歳からハンドボールをやってきたという土井選手が、「レミたん」としてTikTokを始めたのはどうしてだったんですか?

 友達に勧められて、ノリで始めただけだったんです。だから、ハンドルネームも親しい友人からずっと呼ばれている、あだ名の「レミたん」。始めた当初は、まさか自分がこんなにバズるなんて思ってなくて。

 TikTokのすごいところは、その“爆発力”の大きさ。僕の場合、ずっと友人とつながるだけのSNSのひとつとして使っていただけだったのに、ある日何気なく公開した「パーカーの袖に足と腕を入れて歩いた動画」が急にバズって。そのひとつの動画だけで、いきなりフォロワーが4000人も増えたんです。その時に、他のSNSとは違う”爆発力”を感じて、「これをうまく利用すれば、ハンドボールの布教にもなるかも」と強く感じたんです。

 ハンドボールは国内ファンの少ないマイナー競技です。僕たちがSNSで発信しても関係者しか見てくれないと、ずっと感じていました。今までもTwitterやInstagramをやっていましたが、結局は身の回りに見せる日記としてしか利用できていなかった。でも、TikTokではハンドボールとは全く関係のない4000人が僕に関心を持ってくれたわけです。バズが起こってから、フォロワーを増やすためにTikTokのトレンドを追って日々動画をアップしました。でも、”ハンドボールをやっている”ということを、最初は言わなかったんです。その期間が長ければ長いほど、実は僕がハンドボール選手として活躍しているという事実の衝撃が大きいと思ったからです。だから、「レミたん=土井選手」だということを、動画上でカミングアウトしたのはTikTokを始めてから1年以上経ってから。その時はフォロワーも増えましたし、ハンドボールへの純粋なコメントがたくさん寄せられて、すごくうれしかったです。

ーー実際、ニュースで見かける土井選手の熱いまなざしと、レミたんのひょうきんすぎる動画の雰囲気はギャップがすごいですよね。

でも、僕の中ではレミたんもどちらも本当の自分なんですよ。レミたんを見てくれている人は、僕をすごくファニーな男だと考えてくれているでしょう。でも、試合中の僕は一切笑ったりしません。絶対に勝ちたい、だからこそ隙は見せられません。しかし逆に、ハンドボールのファンは試合でしか僕を見れないから、僕の試合以外の表情を知ってもらえないそういう意味では、本当の意味での僕を知ってもらえたのもすごく嬉しいですね。レミたんと土井選手は、どちらか一方しか知らない人からすれば多重人格級の真逆の性格の人間かもしれませんけど……どっちもすごく僕らしい一面の一つなんです。

□オリンピックの選手目線も、人々にシェアしたい

ーー実際、TikTokからハンドボール普及の手応えはありますか?

ありますね。少しづつですけど、TikTokで僕を知ってくれた若いファンたちも、試合を観に来てくれるようになって。けれど今、コロナの影響で試合のプレーオフができなくなってしまっていて、見せられる場が少なくなってしまっているのが非常に悔やまれます。僕の動画って、全然アンチがつかないんですよ。それはやっぱり動画でもハンドボールでも、熱い情熱が伝わっているんじゃないかなと思っています。

ーーオリンピックの開催自体にも、日本中不安に感じている人が多くいますね。

僕自身、すごく不安です。中止はやっぱり……イヤですね。絶対にやりたいです。僕、もしできるなら、会場の風景までシェアしたいんです。僕はサポーターや会場の運営の方々まで全員がチームメイトだと思っています。だからこそ、自分がオリンピックや、ハンドボールの試合を通して見るさまざまな「貴重な景色」も、自分のものだけにするのでなく、応援してくれる全ての人にシェアしたいんです。

会場から僕らを見てくれる人はたくさんいるだろうけど、コートから皆さんを見ることができるのは、僕ら選手だけです。とはいえ、ルールもあると思うので、本当にできるかは分からないんですけど。

ーーそれはTikTokを飛び抜けて、ネット全体でも話題になりそうですね。しかし、オリンピック開催そのものが議論されるなかで、チームのモチベーションはどうですか。

1月のアジア選手権でも、メインラウンド全勝を収めることができていて、チームの仕上がりも好調です。オリンピックに向けてずっとこのチームでやってきているので、コロナくらいでモチベーションが下がったりはしませんよ。というか、そんなことくらいで下がる士気じゃダメだと思うんで。しっかりレベルアップしていっている実感がありますね。チームメイトとはすごく仲がいいですね。試合以外の時はレミたんに近い性格なので、普段はすごくなめられてますよ(笑)。でも一度コートに立ったら急にアツくなっちゃうので、僕がマジメにやってる時は周りもその空気に着いてきてくれます。そういう意味で、バランスの取れたいいチームですね。

ーーチームの練習もお忙しそうですが、TikTokはどういう時に撮るんですか?

1週間毎日練習して、週末は試合があって遠征ということも多いですし、合宿があると1カ月くらい監禁状態になっちゃったりもするので、撮りたい時は時間を捻出するようにしてます。動画のネタはすっごいあるんですよ、今も撮りたいものが50個くらいあって。でも合宿中は撮影が禁止されてたりするので、も~撮れないのが本当に悲しい!

ハンドボールの普及になるっていうのもモチベーションの一つではあるけど、やっぱりそもそもめっちゃ楽しいから、時間作っても撮りたいって思うんですよね。TikTokを見た誰かが動画を見て笑ってくれて、それが僕もうれしくて、その上ハンドボールの普及にまでつながるっていうのが、動画を撮る原動力ですね。

□TikTokもハンドボールも、熱量は一緒

ーーレミたんはまるでアニメのような、なめらかな動きの表情が魅力的ですよね。そういうものはやっぱり、ハンドボールで培った体のしなやかさから来るものなんですか?
昔からカートゥーン系のアニメが好きだったんです。顔だけで喜怒哀楽を表現できる、あの世界観が好きで。表情が豊かってよく言われるけど、ハンドボールの練習で表情筋が鍛えられるってことはないですね(笑)! 日本代表どころか、もうちょっと幅を広げて世界単位で見ても、表情筋においては世界的なんじゃないかなと自負しています。最近では、普通に生活してるだけでもチームメイトから「TikTokっぽい動きやめろ!」と言われることもありますね。

ーー日本国外からも反応があったりするんですか?

TikTokって、AIが動画を判別して、別の文化圏でも評価されそうな動画を、海外のおすすめ欄に載せてくれるアルゴリズムがあるんです。例えば、この前、ジム・キャリーの映画『MASK』のものまねをしてマラカスを持ってルンバを踊る動画を取ったら、南米からのファンがめっちゃ増えたんですよ! やたらスペイン語でコメントがくるなって思ってたら、コロンビア、メキシコ、ペルー周辺でもバズってたみたいなんですよね。日本と海外の面白さって全然違うから、全く違う動画で反応があるのも面白いです。

ーーレミたんとしては、TikTokはこの先どうなって行くと思いますか?

TikTokはもっとすごいことになっていくと思いますよ。この先、5Gの開放でさらに動画向きの時代になっていくでしょう。多くの人がTikTokを始めると、いろんなアイデアが生まれる。それを見た誰かが、「あの人よりいいものを作りたい」と思うと、また新しい面白いアイデアが生まれる。そうするとまた新しい人に面白さも伝わる。面白さがどんどん洗練されていくためのサイクルが、TikTokにはあると思っています。

ーーありがとうございます。最後に、直近でなにか目標としていることがあれば、教えて下さい。

僕は完璧主義なので、好きなものにはやっぱり情熱を向けたいんです。TikTokとハンドボールは、”笑い”と”スポーツ”という遠いジャンル同士のもの。だけど、僕自身にとっては、どちらもやっていて楽しいという気持ちと、どちらにも真剣に向き合っているという点では一緒です。

今は、街中を歩いていてもハンドボーラーの土井としてより、レミたんとして声をかけられる時の方が多いけど……この先はハンドボール選手ある僕の認知度も、レミたんとイコールにして行きたいです。でも、現時点では存在を知ってもらっていることだけでも価値があるから。直近の目標は、いつものふざけた動画だけじゃなくて、レミたんからは想像つかないようなまじでかっこいいハンドボール動画で、日本中をギャフンと言わせることですね!

(取材と文・ミクニシオリ)

※このインタビューは、東京五輪の延期決定前に行われました。延期決定後、以下のコメントをいただきました。

今回オリンピックが予定通り行われることを信じて合宿をしてきましたが、
延期に伴いそれも打ち切りとなりました。
ですがそういう状況だからこそ志高く、
しっかりとした対策をチーム全体で続けながら毎日練習をすることで、
このチームのオリンピックに向けての強い気持ちを再確認しました。

1年間程度の延期が決定しましたが我々がそれで挫けることはありません。
むしろこれをさらなる成長への好機とし、日々全力を尽くしていきたいと思います。