全社員のうち2割の出社で放送決行…テレビ東京が見せつけた新型コロナに負けない底力

引用元:スポーツ報知
全社員のうち2割の出社で放送決行…テレビ東京が見せつけた新型コロナに負けない底力

 小池百合子都知事(67)による週末の外出自粛要請をにらんでの27日の金曜日。その独特の存在感を見せつけたテレビ局があった。

 26日、東京・六本木のテレビ東京で行われた小孫茂社長(68)の定例会見で思わず耳を疑う発言が飛び出した。

 新型コロナの感染拡大による放送への影響について聞かれた同社長はまず「昨夜(25日)の都知事の会見以降、バタバタになっていますが」と話し始めると、「首都圏が新たな動きに出始めた。ワンステージ、深刻な方に変わったと受け止めています。最悪の事態に備えて、テレビ東京の場合は(対策が)ステージ5の段階に入っています。在宅勤務、リモートワークの態勢を取っています。今日は4割が在宅勤務しています」と明かした。

 ビックリ発言は、その後だった。「明日はさらに強化し、外出禁止令がいずれ来ることを前提に、さらに強い在宅勤務にした場合にどうなるか放送を続けながらテストします。明日は全社員の2割強が出社。残りの8割が在宅で通常の放送をやってみます。最終的には1割の出社でできるかと思っています」と小孫社長。民放キー局としては前例のない全社員の2割、約100人での放送に踏み切ることを堂々、宣言したのだ。

 驚いた私はさっそく「テレ東社長、新型コロナの中、『27日は全社員の2割の出社、8割は在宅で放送に踏み切ります』」と題した速報記事を「報知WEB」にアップした。

 この記事は大きな反響を呼び、読者からのコメントも多く集まった。その多くは「さすがテレ東。やることがいつも斬新」などの称賛の言葉だった。

 2017年11月には「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」の平均視聴率が同番組最高の12・8%を記録。同時間帯のライバル・NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」を2放送回連続で上回った歴史を持つなど、いわゆる一点突破のワンコンセプト番組でヒットを連発してきたテレ東。他キー局と比べ、低予算ながら独自の企画力でヒット作を連発してきた局らしい斬新な挑戦と思ったが、反面、それだけ同局が追い込まれている証拠でもある。

 この日の会見では、同局が誇る看板番組の数々が危機的状況であることもまた明かされた。

 まず、地元住民との温かい触れあいで高い人気を誇る出川哲朗(56)の「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」(土曜・後7時54分)。1か月前の会見で新型コロナ余波の中、同番組のロケが一切行われていないことを明かしていた高野学総合編成局長に、私は聞いた。

 「その後もロケは行われていないのか。(ロケの)ストックが切れた場合、その後はどう制作、放送していくのか」―。

 時節柄、消毒されたマイクを握った高野氏は「コロナ感染の問題が始まってから、ロケはしていません。人情、触れあいが大切な番組ですから、今の状況は苦しいのですが、番組のファンの安全を第一に考えています」とした上で「ロケのストックがどのくらいあるかのお答えは差し控えさせていただきますが、番組のファンを裏切らない形での企画なども今、考えているところです」と答えた。

 出川自身とも「直接、話し合っているわけではないですが」としながら、「ご意向も受けて、内容も工夫した形で放送を継続していきたいと思います」とした。 他の人気番組も大変な状況だ。海外渡航及び入国制限の中、「YOUは何しに日本へ」(月曜・後6時25分)、「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜・後8時)などの外国人が主役の番組も大ピンチ。

 高野氏は「YOU―』については、訪日する外国人が激減しており、ロケはしていますが、撮れ高は取れない状態です。『ニッポン―』も渡航制限が出て、ご本人の希望もあり、来日できない取材対象者が出ています」と明かした。

 その上で「番組作りに制限がかかっていますが、番組のファンの期待を裏切らないよう、各番組でこの状況の中、何ができるかを考えて放送を継続したいと思います」とした。

 さらに「家ついていってイイですか」(水曜・後9時)についても、高野氏は「昨日の小池都知事の緊急会見を受けまして、この時期に『家ついていってイイいいですか?』は、ちょっとどうなの? ということで…」と沈痛な表情で話した上で「この週末に関してはロケを控えています」と明言。ディレクター約70人がそれぞれロケ隊を結成、1日10~15隊が主要な駅に繰り出す独特の取材態勢がストップしていることを明かした。

 街歩きロケで人気の「モヤモヤさまぁ~ず2」(日曜・後6時半)についても「ロケはやっていません」とした。

 新型コロナショックに加え、東京五輪も延期の状況に小孫社長は「昨年10月からの消費税の引き上げに加え、新型コロナが来て、その副産物として東京五輪の中止が来た。3つ重なって、スポット(広告)が去年の消費税引き上げ前から悪くなったところに、デジタル広告の攻勢もあり、結局、4つ重なった。はっきり申し上げて、少なくともリーマンショック並の厳しい状況だろうと思っています」と深刻な表情で話した。

 その上で「(リーマンショック時は)広告収入が全体として立ち直るまでに2年かかった。今回もそのくらいの影響は受けるんだろうなということを前提にしています。そうした覚悟のもと、新予算はそういう形で組んで週明けにはスタートします」と続けた。

 「五輪で予定した収入がなくなること以上にスポンサーをやっている企業はテレビの有力クライアントでもある。テレビ各社に与える影響は非常に大きい。オリンピックがなくなった後をどう乗り切るかは我々のような小さなテレビ局にとっては大きいのです」と話した後、「しかし、こういう時だからこそ、前を向いて、どうやったらデジタルなど新しいビジネスモデルを作れるかの大チャンスと思っている。そう考えれば必ず乗り切れると思っています。コロナに打ち勝ち、新しいテレ東という変身ぶりを見せたいと思っています」と小孫社長。

 そして、あくまで前向きな社長の陣頭指揮のもと、27日に同局は全社員の2割の出社、たった100人の人員で24時間にわたる放送を完遂して見せた。仕事の合間に深夜まで同局の番組を見続けた私は、ただひたすら「すごいな、テレ東」―。そう思っていた。

 「ピンチをチャンスに変える」企業力こそ「小さなテレビ局」の真骨頂。普通に、当たり前のように放送を続ける7チャンネル(関東地区)の画面を見ながら、私の心には小孫社長の「こういう時に新しいものが出てくるのがテレビ東京。追い込まれると何かが出てくるのが我が局です」と言う言葉が、こだましていた。(記者コラム・中村 健吾) 報知新聞社