ヒット映画「Fukushima50」よりも秀逸で見直されたNHKスペシャル

ヒット映画「Fukushima50」よりも秀逸で見直されたNHKスペシャル

【テレビが10倍面白くなるコラム】#39

 東京電力福島第1原発の事故を描いた映画「Fukushima50」は、新型コロナ騒動で映画館から足が遠のいているなかでヒット中だ。

 津波や水素爆発などのCG映像はダイナミックだし、人間ドラマも感動的に仕上がっていて、アクション映画として十分楽しめると好評なのだが、「なんか、見たことがあるシーンばっかり」という声も聞こえる。

 そうなのだ。NHKスペシャル「シリーズ メルトダウン」で、映画とそっくりの場面がこれまで何度も放送されているのである。Nスぺは事故のあった2011年の12月から、番外編も含めて、これまで10回ほどメルトダウンを取り上げてきた。事故の実態と原因を、メカニズムだけでなく、関係者の知識不足や危機感の欠如などまで深掘りしたドキュメンタリーとして、評価は高い。

 とりわけ、16年の「原発メルトダウン 危機の88時間」は、大杉漣を吉田昌郎所長役にしたドラマ仕立てで、地震発生からなすすべなく放射性物質を放出するまでの現場の大混乱を再現した。実際の映像や音声も挟み込んで、日本がいかに危機的な状況だったかが描かれた。「Fukushima50」はこのNスぺと、ストーリー展開も挿入されているエピソードもほぼ同じだ。

 同じ事故をテーマに、同じ関係者らから話を聞いて製作しているのだから、ストーリーが似るのはわかるが、カメラアングルまで同じシーンがいくつもあるのは鼻白む。打つ手がなくなり床にへたり込む吉田所長、放射線量が高くて開閉バルブまでたどり着けず泣き崩れる作業員など、テレビで見たまんまだ。内容的にもNスぺのほうが濃く、見ごたえもあるというのでは、映画としては失敗だろう。

 なにより致命的なのは、事故を天災として描いていることだ。地震と大津波は天災だが、事故は人災である。そこにウソがあるから、なぜ事故が起こったのかも、福島の現場が何と闘っているのかもわからない。映画のなかの男たちは、ただただ怒鳴りあっているだけである。

 Nスぺシリーズも東電や歴代政権の事故責任に迫っているとは言いがたいが、少なくとも映画よりは事故の実態に迫ろうとはしている。これまでの放送は、NHKのオンデマンド配信で見ることができる。

(コラムニスト・海原かみな)