『プリンス/パープル・レイン』プリンス自ら完成させた自伝映画の最高傑作

引用元:CINEMORE
『プリンス/パープル・レイン』プリンス自ら完成させた自伝映画の最高傑作

 プリンス。天才という言葉が相応しい唯一無二のミュージシャン。皇太子という意味を持つ名前だが、Googleで「Prince」と検索すると、皇太子の情報ではなく、ミュージシャン・プリンスの情報がずらりと出てくる。

 しかし我々は、プリンスのことをあまり知らない。正確にいえば、知っているようで知らないのだ。どことなくミステリアスで、掴み所がない。分かっているのは、プリンスの音楽と魅力に多くの人が惹きつけられているということだけ。そんな知っているようで知らないプリンスの人生を、プリンス自らの手によって語られるのが、本作『プリンス/パープル・レイン』(84)だ。

 ミネソタ州ミネアポリスのライブハウス、観客を熱狂的に沸かせていたバンド、ザ・レヴォリューション。そのリーダーでボーカリストのキッド(プリンス)は才能に溢れていたが、メンバーの話を聞かず孤立しようとしていた。しかも最近では、対バンのザ・タイムが人気上昇中で、ザ・タイムのリーダーであるモリス(モリス・デイ)がやたらとキッドをやり玉にあげてくる。

 そんな中、歌手になる夢をみてライブハウスにやってきたのが、アポロニア(アポロニア・コテロ)。目が合った瞬間から恋に落ちたキッドとアポロニアだったが、モリスがアポロニアを引き抜こうとする。そしてキッドは、喧嘩が耐えない両親の問題も抱えており…。 『プリンス/パープル・レイン』プリンス自ら完成させた自伝映画の最高傑作 (c)Photofest / Getty Images

自ら書いたプロット

 本作の大まかなプロットは、プリンス自身が手書きでノート11ページほどにしたためた。それは、こんな風に始まる。「これは、3人の夢と願望が描かれた物語」。本作にも登場するモリス・デイ、当時のプリンスの恋人ヴァニティ、そしてプリンス自身ーー。プリンスは、この3人を主役にした作品を考えており、当初付けられていたタイトルは『Dreams』。ちなみに、そのタイトルが暗示するように、プロットの結末は夢オチだった。もし読んでみたい方がいれば、プリンスの自伝「プリンス回想録 THE BEAUTIFUL ONES」(邦訳版は4/21発売予定)をおすすめする。

 その後、『ルーツ』(77)や『刑事スタスキー&ハッチ』(75-79)などのTVで活躍していたウィリアム・ブリンが脚本に参加して、プリンスのプロットを脚本に起こした。そして、大学を卒業したばかりのアルバート・マグノーリが監督・脚本で参加した頃に、当初出演を予定していたヴァニティとプリンスは別れてしまった。そこで抜擢されたのが、地元のミスコンテストで優勝し、NFLのチアリーダーをしていたアポロニア・コテロだった。

 同じ頃、本作の舞台ともなったクラブ、ファースト・アベニューにて、プリンスが「パープル・レイン」を披露していたこともあり、本作のタイトルが『パープル・レイン』となったという。

 本作の出演者たちは、実際にプリンスの周りにいた人々が多い。プリンスは「キッド」と役名に変えられているが、モリス・デイやジェローム・ベントンは本名で出演し、実際に「ザ・タイム」のメンバーである。クラブマネージャー役のビリー・スパークスも本名だが、実際にはプリンスの長年の友人でプロモーターだ。事実とフィクションが混在しているのが、本作の面白さの1つでもある。

 出演しているプロの役者は、プリンスの父役クラレンス・ウィリアムズ3世と、母役のオルガ・カルラトスくらいなものだ。クラレンス・ウィリアムズ3世は、60年代の人気TVシリーズ『モッズ特捜隊』(68-73)の主役の一人として人気の俳優で、最近ではデンゼル・ワシントン主演『アメリカン・ギャングスター』(07)にて、主役に大きな影響を与えるバンピー・ジョンソン役を演じていたので、覚えている方も多いだろう。