ユースケ・サンタマリア起用に見え隠れする現場の「意地」

【人気ドラマ「ドクターX」の宿命】(下)

 ユースケ・サンタマリア(48)も「ドクターX」(テレビ朝日系)の第6期に初参加。毎年コンスタントにドラマ出演し、今年も「わたし、定時で帰ります。」(TBS系)で、パワハラ上司でありながら、心の奥底に過去の失敗から抜け出し、必死に生きようとする仕事人間の悲哀を好演した。

 ユースケはテレ朝との縁も深い。同局の深夜バラエティー「『ぷっ』すま」で、元SMAPの草彅剛(45)と一緒に20年にわたって、MCを務めてきた。番組が終了した際は「草彅剛が退社した所属事務所からの圧力ではないか」と、ネット上で話題になった。

 そんな“いわくつき”の番組が1年9カ月ぶりに復活する。12月19日から草彅とユースケ・サンタマリアの新番組「なぎスケ!」が「Amazon Prime Video」で独占配信されるのだ。

 テレ朝の動画配信といえば、サイバーエージェントと共同出資して設立した「AbemaTV」が存在する。開局以来、3年連続で年間200億円もの赤字を叩き出すAbemaにすれば、一定のファンがいる「『ぷっ』すま」の後継番組は、自社のコンテンツにするのが自然だが、なぜか「Amazon」で復活するのである。しかも番組制作は、「『ぷっ』すま」と同じ制作会社ケイマックスの担当だ。

「なぎスケ!」の制作経緯には、「『ぷっ』すま」の終了時と同様、いろいろな想像を巡らせたくなる。それはさておき、「ドクターX」にユースケが出演する話に戻そう。

■草彅剛とのコンビは配信ライバルで復活

 1年9カ月ぶりに「なぎスケコンビ」が復活するとはいえ、ライバル「Amazon」の番組に出演するのはユースケと大手事務所から独立した草彅だ。テレビ局は、退社した事務所からの影響力を否定するものの、草彅を地上波ゴールデンのドラマに迎え入れる状況ではない。公正取引委員会に「芸能人に関する移籍制限が独禁法違反にあたるとの見解」を示されたほど。むろん、今後このような状況が変わる可能性もゼロではない。

 ひょっとすると、制作現場サイドには、大手芸能事務所や上層部からの有形無形の圧力に対し、ユースケの起用により暗に意地を見せ、配信開始に合わせた露出に協力したのかもしれない。

 もちろん、単に所属事務所からの売り込みにより、「わたし、定時で帰ります。」で好演したユースケを起用したに過ぎず、たまたま、ネット配信のタイミングと重なっただけかもしれない。

 ちなみに、ユースケの所属事務所は「ドクターX」で共演中の市村正親(70)の妻・篠原涼子(46)も所属する大手芸能事務所「ジャパン・ミュージックエンターテインメント」だ。「なぎスケ!」の配信開始に合わせ、地上波でユースケの露出を目論むのは当然である。

■豪華出演陣は、人気ドラマの宿命

 これまでの記事は、周辺状況から読み解いた「かもしれない」の推論であり、他にもさまざま要因が複雑に絡み合った、いわゆる「事務所行政」の結果なの「かもしれない」。

 人気シリーズとなった「ドクターX」には、各事務所から、あの手この手の売り込みがある一方で、旬なキャストを起用したい制作サイドの思惑もある。「引く手あまたのうれしい悲鳴」と、「事務所行政という宿命」が生じるのは、当然の帰結だ。

 ただ、今後の続編を期待している視聴者としては、ドラマの裏側の思惑よりも、純粋にドラマ自体を楽しみたいのがホンネである。気がつけば、多くなり過ぎた出演者ごとに「見せ場」を作らざるを得ない状況も垣間見える。

 人気シリーズに対し「大いなるマンネリ」と「新しい刺激」を期待する視聴者のため、ドラマの持ち味を損なわせないようバランスをとりつつ、面白いドラマ作りに苦心する制作陣には脱帽だ。特に、中園ミホ先生を中心にした林誠人先生、香坂隆史先生による脚本家陣には、足を向けては眠れない。

 人気ドラマが「ペット多頭飼いの悲惨な末路」のような状況にならないことを切に願うばかりである。なお、出演俳優陣をペット扱いする意図ではなく、多過ぎる出演者についての状況を説明するための比喩表現であることを、くれぐれもご理解願いたい。

 芸能事務所が所属タレントをペット扱いしているかは分かりませんけどね……。

(ライター・田丸大志)