山下洋輔「僕には『面白い』が降ってくる」 「こりゃ無理だ」と思っても断らない―それが“山下流”

引用元:夕刊フジ
山下洋輔「僕には『面白い』が降ってくる」 「こりゃ無理だ」と思っても断らない―それが“山下流”

 ■4月4日「春のソロピアノ・コンサート」(晴海・第一生命ホール)開催

 毎年、恒例の春がやってくる。桜が咲きまくるころの、ソロピアノ・コンサート。しかし、昨年は恒例ではなかった。

 「あせったり、わめいたりはせず、大人しく。何か新しいことを考えるよりも、コンサートがキャンセルや中止になってしまったことを申し訳なく思い、これからできることをやろうと思い、過ごしていました」

 一昨年11月22日に自宅の階段で転倒し、全身を強く打ちつけ入院する大ケガを負った。昨年、企画していた大きなライブはすべて日にちの変更を余儀なくされ、ソロピアノ・コンサートも例外ではなかった。2カ月余りのちに復帰したものの、心配する声は多かった…。

 ところが、そんな不安もサラリと吹き飛ばしてしまうのが無手勝・山下流。「復帰できてうれしかった。1回1回の演奏がより大事になった気がします」と精魂込めて弾き続け、9月に延期されたソロピアノ・コンサートでは以前にもましてエモーショナルな演奏を見せ、続く暮れの一大イベントに臨んだ。

 山下洋輔トリオ結成50周年記念コンサート「爆裂半世紀!」。中村誠一(ts)、森山威男(ds)、坂田明(as)、小山彰太(ds)、林栄一(as)。トリオを支えてきた歴代の面々と楽しく過激に演奏した。

 「その時々にやれることをやってきたら、いつの間にか50年。その時々でメンバーも変わりましたが、少ない人数で50年もやってきたとは驚きです。コンサートではすべてやり尽くしました。でもみんなはコーナーごとの出演で、全編を通して出ていたのは私だけ。神経も体力もすり減らし、打ち上げはパスさせてもらいました(笑)」

 50年長続きした要因は演奏以外にも。トリオの輪の中にはゲスト出演した麿赤兒、三上寛、そしてタモリもいた。

 「何だか面白いヤツばかりが次から次へと集まってきて。坂田明はハナモゲラ語、小山彰太はハナモゲラ和歌なんてものを作ったり。タモリに至っては出会いからして不思議。僕らがホテルで騒いでいた部屋に突然入ってきたのは有名な話だけど、タモリがそのことを話すといつでも大笑いできる。すごいよね」

 坂本龍一もシークレット・ゲストで登場。

 「龍一さんにはソロ・コンサートのゲストに招かれたことがあって。僕のアルバム『asian games』や、NHKの番組で共演してくれたり、交流は続いていました。50周年の企画が産まれたときにすぐにオファー。その龍一さんが自分のプロジェクトを持ち込んでくれたんです」

 “プリペアド・ピアノ”は、グランドピアノの弦に、ゴムや金属など異物を乗せたり挟んだりして、打楽器としての響きを変えさせるもの。現代音楽の手法のひとつだ。

 「龍一さんとすごいことをやっちゃいました。中身は全部即興。とにかく初めてでしたから、すごく刺激を受けた。新しいことを知る面白さを改めて感じました」

 喜寿にして新たな挑戦を喜んで受け入れるのも山下流。思えばこの半世紀、ずっとそうだった。

 「面白いのが一番。“なんじゃこりゃ”みたいな、次にやることが面白くないと前に進めない。黙っていても、僕にはそんなことが降りかかってくる。こりゃ無理だと思っても、断らない自分がいる。早稲田大学のバリケードの中で弾いたり、燃えているピアノを弾いたり。あれも、『やれ』と言われてやっただけ」

 “洋輔さんならこんなこともやってしまうのでは”。“洋輔さんならこれをどうやるかな”。依頼するほうも面白がって挑んでいるのだろう。

 「あっ、そうかもしれませんね! それで分かってきた。みんなが僕を面白がらせている。それが秘訣で50年来ました」

 今年もビッグイベントがそろう。4月4日の“恒例”「春のソロピアノ・コンサート」(晴海・第一生命ホール)は、「その日になったとき、そのときの自分を表現したい」という自然体。

 2年に一度。7月4日に新宿文化センター大ホールで行われる「山下洋輔スペシャル・ビックバンド・コンサート」(6月20日びわ湖ホール、6月21日春日井市民会館でも開催)には大胆な挑戦が用意されている。

 「ついにベートーヴェンをやります。ピアノソナタ“悲愴”。ベートーヴェン生誕250周年の年に『やれ』と言われてまた新境地ですね」

 その9日後の7月13日は、東京五輪の聖火ランナーとして東京の立川市内を走る予定。先月26日に78歳となったが、あきれるほどアクティブだ。

 「78といったって、大先輩の渡辺貞夫さん(87)は今もバリバリだし、ハンク・ジョーンズは90歳でも弾いていた。僕なんてまだまだです」。次にはどんなことが? 面白さを求め続けるジャズメンの挑戦をいつまでも楽しみたい。(ペン・秋谷哲/カメラ・寺河内美奈)

 ■山下洋輔(やました・ようすけ) 1942年2月26日生まれ、東京都出身。1969年に山下洋輔トリオを結成し、フリーフォームな演奏でジャズ界に衝撃を与える。ジャズ以外も、和太鼓やシンフォニー・オーケストラとの共演など活動の幅を広げ、2016年にはウィーン楽友協会ホールで佐渡裕指揮のトーンキュンストラー管弦楽団と共演した。18年にニューヨーク・トリオで国内ツアー。19年に山下洋輔トリオ50周年記念「爆裂半世紀!」開催。99年芸術選奨文部大臣賞、03年紫綬褒章、12年旭日小綬章受章。国立音楽大学招聘教授。演奏活動のかたわら、多数の著書を持つエッセイストとしても知られる。15、18年に夕刊フジ主催のコンサートに出演。