REACTIONがシーンに送り出した金字塔的作品『INSANE』はヘヴィメタルが詰まったアルバム

引用元:OKMusic
REACTIONがシーンに送り出した金字塔的作品『INSANE』はヘヴィメタルが詰まったアルバム

3月8日がREACTIONのドラマーだった梅沢康博の命日だったということで、今週はそのREACTIONのデビュー作『INSANE』の紹介とした。1989年の解散後、2006年に新たなヴォーカリストが参加して再結成したものの、のちにギタリストの斉藤康之も鬼籍に入られたのでオリジナルメンバーでの再開は望めない状況ではあるが、この『INSANE』はインディーズながら1万枚を売り上げ、日本ヘヴィメタルシーンの金字塔的アルバムである。REACTIONの存在を風化させてはいけない。

梅沢の“高速ツーバス”が響く

速い。上手い。エモい──。牛丼の超有名キャッチコピーになぞらえるという超オヤジ臭い始まりで恐縮だが、ヘヴィメタルというのは煎じ詰めればそういうことになるのではなかろうか。今、REACTIONの『INSANE』を聴き終えてそう思った。ロックの中で先鋭的と言われたジャンルでも、これがパンクとなると、少なくともその初期においてはDIY的な精神からテクニックを重視しない傾向にあったので、上手くはない…というよりも、それを過度に感じさせないところはあると思う。ルックスが目を惹いたというところでは、グラムロック辺りもそうかもしれない。一方、ヘヴィメタルと同じくハードロックから派生したロックにプログレッシブロック…いわゆるプログレがあるが、こちらは技巧的ではあるものの、前衛的である分、分かりやすいエモーションからは若干かけ離れている感じもある。オルタナであったりグランジ、パワーポップなどもどこか決めてに欠ける印象だ。

まぁ、どれも私見なので異論を挟まれても困るのだけれど、ヘヴィメタルというロックはそういう分析ができるし、REACTIONとはそのヘヴィメタルの法則に準拠したバンド、もしくはヘヴィメタルの論理を体現したバンドであったと言うことができるのではないかと思った。以下、『INSANE』収録曲を、その“速い。上手い。エモい”に当てはめて解説していこう。

“速い”。これはテンポが速いということである。もちろんそれはBPM値が高いということではあるけれども、ヴォーカルを含む各パートが発する音符の細かさ(?)もかなり影響しているような気がする。BPMは決して高くないのに、そこに16分音符が詰まった状態で乗せられていると、どこかせわしなく追い立てられているような印象を持つことはないだろうか? 筆者にはある。話はREACTIONならびにヘヴィメタルから離れるが、例えばヒップホップでトラックは大分ゆったりした感じだけれどもラップの言葉数が多かったりすると、楽曲全体の印象が前のめりになっていくようなことは結構あるような気がする。

『INSANE』に関して言えば、スローテンポの楽曲はなく、M3「DON’T STOP」やM5「NOTHING」、M6「LET ME SHOUT」はミドルテンポと言えるが、それにしてもゆったり感は薄い。それはやはり楽器の手数足数が多いからだと思う。M5「NOTHING」とM6「LET ME SHOUT」はまさしくそれを地で行くようなサウンドで、M5はギターのザクザクとしたカッティングで楽曲が引っ張られていくし、M6はイントロでのベードラの8分の連打が響いている。どちらもリズム隊が全体的に前のめりで(M5の方がその傾向が強い)、聴き応えは実際のテンポよりもグイグイとした印象だろう。M8「DARK ILLUSION」はそれほどミドルな印象はないが、これもリズムが食い気味で、いい前のめり感が出ている。

そして、それら以外の収録曲はBPMが高めである。M1「JOY RIDE」、M2「ARE YOU FREE TONIGHT」、M7「LONESOME KNIGHT」、M9「INSANE」。問答無用のスピード感である。全体的に追い立てられる感じがバリバリある。その上、ギターは細かくフレーズを刻んでいるし、ベースは概ね8分音符以上であまり白玉がない印象。ドラムに至ってはベードラ連打が当たり前の上、ツーバスである。至るところで♪ドコドコドコドコと重低音が鳴っている。自然とペースが上がるのでジョギングのBGMには不向き…とこれまた思わずオヤジ臭いことを口走ってしまうほどの疾走感だ。

この梅沢康博(Dr)の“高速ツーバス”の効果効用は『INSANE』収録曲においてかなり大きなウエイトを占めている。楽曲途中で手数足数が減ってテンポが変わったように聴こえる箇所がいくつかあるが(M9「INSANE」の間奏とかがそう)、“高速ツーバス”があるからメリハリが強力に効いて、楽曲をよりスリリングに仕上げている。REACTIONサウンドのボトムをこれ以上ないかたちで支えているのは梅沢である。