命を賭して危機に立ち向かった人々の教訓 「Fukushima 50」

引用元:夕刊フジ

 日本人の価値観を一変させた福島第一原発の事故から9年。その内情を余さず活写した映画「Fukushima 50」の公開と、未曾有の新型コロナウイルスのショックが図らずも重なっている。「命がけ」という言葉をわれわれは安易に使いがちだが、本当に命を賭して危険に立ち向かった人々の教訓が、このヒューマンドラマにはあふれている。

 2011年3月11日午後2時46分、マグニチュード9・0、最大震度7という想定外の地震が原発を襲った。太平洋沿岸に押し寄せた巨大津波に飲まれ全電源を喪失する。原子炉の冷却装置が動かず、炉心溶融(メルトダウン)による水素爆発で列島に広範囲の被害が出る寸前だった。

 現場で陣頭指揮を執る吉田昌郎所長を渡辺謙が演じ、原子炉に最も近い制御室で「1・2号機」の作業員を束ねる伊崎当直長に佐藤浩市。2人の演技に当時の真実が宿る。怒りと恐怖を噛み殺しながら、冷静かつ大胆に、名も無き同士たちと危機に立ち向かう。

 政府や本店の無茶な指示に「現場の人間は体、張ってんだよ」とテレビ会議で抗う吉田。「最後になんとかしなけりゃいけないのは、現場にいる俺たちだ」と仲間を鼓舞する伊崎。「決死隊」が高い放射線量を浴び、余震と戦いながら手動で圧力を抜くベントに向かう場面は、涙なしでは見られない。

 政権の不甲斐なさや、自衛隊の奮闘、原発の怖さなど、余さず描かれている。(中本裕己)