シンガーソングライターのさかいゆうが3月4日、6thアルバム『Touch The World』をリリース。昨年に発表した『Yu Are Something』は日米を股にかけて作られたユニークな作品だったが、デビュー10周年を経た彼は更に広い世界へ旅立った。LA、ニューヨーク、ロンドン、サンパウロを巡り、各地のミュージシャンと作り上げたドキュメンタリーとも言えるのが今作。制作を終え、リリースライブも控えるさかいは「大衆音楽でいたい」と話す。世界を股にかけて感じた日本のポップス、未来へのビジョンとは。Jポップの枠におさまらない大作『Touch The World』について、さかいゆうに話を聞いた。【取材=小池直也/撮影=村上順一】 さかいゆう(撮影=村上順一)
思った通りにいかないことも楽しめた制作――前作『Yu Are Something』は日米で制作されましたが、今作はロンドンとサンパウロにも足を運ばれています。「世界を旅する」という構想はどのように生まれたんですか?
「世界を旅しながら音楽を作っていく」というドキュメンタリーなアルバムになりそうですよね、とはスタッフと話していました。でも結果的にそうなった感じです。旅しながら共演するミュージシャンが決まっていきましたし、できあがるまで分からない部分もありましたから。でも、その時のベストを尽くそうと思って取り組みました。日本の常識とは違いますから、思った通りにいかないことも楽しめた制作でした。
――思った通りにいかなかったこととは?
当初にお願いしていたものと楽器が違ったり、スタジオを1日しか押さえてなくて完成できなくて「いつやるよ?」って感じになったり。単純にミュージシャンのプレイがイメージと違うこともありました。そんななかでも限られた時間のなかで作り上げることができたと思ってます。
――これだけの作品を作るには制作費など、ゴーがなかなか出づらいような気もします。
本当ですよね。それは僕にもわからないです(笑)。スタッフさんが頑張ってくれたとしか言いようがない。
――日本ではできなかったなと感じることはありますか。
単純にスタジオによって音が違うんです。国ごとに電圧も違うし、どれも日本にはない環境なので、その響きをゲットできたことは良かったです。日本でやるとフィーリングやタイミングをコントロールはできるんです。でも正解を弾いてくれる人が多いのでハプニングが起こりづらい。サンパウロやロンドン、LAに行くと、好き勝手やってくれるというか、僕のディレクションからはみ出た予想外のものになるんです。もう1曲目からイメージよりも素晴らしいものになりましたから。
――なるほど。
日本にいると「自分が思っているものを実現する」という感じになるから、「良いものができたな」と思って安心する感じはあります。今までやったことない人と一緒になるのは面白いです。彼らのなかには日本人と制作するのが初めての人もいるだろうし、セッションの緊張感が素晴らしかったです。お互いが、その瞬間を音楽に捧げるために集中力を出し合っている様でした。
英語は喋れるんですけど、流暢に話せないことが功を奏しましたね。日本からわざわざ来てて、このレコーディングに賭けてるという気配をみんなが察知してくれたんです。上手く英語が話せていたらネイティブじゃないアメリカ人だ、と思われた可能性があります。本当に今、自分にしかできないことができてラッキーでした。
――各地のミュージシャンと楽曲のコンセプトについて細かく打ち合わせたりしました?
それはします。プロデュースは各地の方の名前をクレジットしてますけど、自分が総合プロデューサーですから。演奏する前の会話でどういうことを喋るかとか、既にそこからがスタート。もっと言うと、デモテープから始まっています。それを渡して「これはこういうスケッチなんだけど…」と。
例えば「想い出オブリガード」はサンパウロで「これはサンバにするにはテンポが速すぎる。もう少し落とした方が盛り上がるから」とアドバイスをもらいました。「もっと遅くすると、女の子が踊るよ」と話してくれて。最初は理解できなかったんですけど、実際落としたら良くなりました。速いとグルーヴがなくなるんです。サンパウロではライブもして、それも良かったです。
――すごい盛り上がったそうですね。日本の楽曲として「ふるさと」を歌われたとか。
歌詞の意味がわからないはずのに、泣いているおじさんもいました。やっぱり大事なことを歌っているように聴こえるんじゃないですか。あと海外にはJポップの感じとかを面白がる人がいるんです。「僕らはこういうメロディに行かないけど、日本人は結構行くよね」とか。でもそれって海外のメロディを取り入れた日本人の味だからと思いました。
――それはインコグニートのブルーイ(Bluey)氏の発言ですよね。それを聞いて、どう思われましたか。
ふーんって(笑)。「She’s Gettin’ Married」は「サビがめっちゃJポップだな」って言われたんですけど、僕は分からなくて。他の部分について質問すると「ここのメロディは僕らでも書いたりする」「ここはどちらかと言うとカーペンターズっぽい」と教えてくれました。僕は別にJポップを意識して書いているわけではないですけど。もっと話すタイミングがあれば色々な人に聞いてみたかったです。
大概Jポップを聴かせると「Yeah, this is good」みたいな感じで言います。(山下)達郎さんとかを聴かせると洋楽っぽいし「Funky!」と言われるに決まってるから、もっと分かりやすいJポップを聴かせるんですけど。海外でも特にジャズミュージシャンは聴いたことがないと思います。
さかいゆう「ポップでキャッチーな大衆音楽でいたい」世界を旅して得たもの:インタビュー
引用元:MusicVoice