小島秀夫監督、水口哲也氏が語る「生きた証」の残し方とは。トークイベント『trialog vol.9』レポート

引用元:IGN JAPAN
小島秀夫監督、水口哲也氏が語る「生きた証」の残し方とは。トークイベント『trialog vol.9』レポート

2020年2月19日、ゲームクリエイターの小島秀夫監督、水口哲也氏を招いたトークイベント『trialog vol.9「クオリティとミッション」』が東京・TRUNK BY SHOTO GALLERYにて開催された。

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司会進行を務めたのは、trialog代表である若林恵氏。日本版WIREDの元編集長を務めたこともある若林氏は、定期的にクリエイターやアーティストを招いてトークイベントを主催している。今回は「クオリティとミッション」というテーマで、小島監督と水口氏から、ものづくりの真髄を語られる。
小島監督は『DEATH STRANDING』や『メタルギアソリッド』シリーズなど、映画的な手法をゲームに持ち込みつつ深い思想性に飛んだ物語を、プレイヤーにアクションを通じて体験させるクリエイターだ。一方で、水口氏は『Rez』や『テトリス エフェクト』など、抽象的な光や形の映像と、テクノ音楽を高度に組み合わせて、プレイヤーの感覚を刺激させてグルーヴ状態に誘うアプローチを取る。非常に対照的なゲームクリエイターといえるだろう。
この二人が揃ったこのトークイベントでは、両者からどのような言葉が飛び出すのか。今回は、その会場の模様をお届けしよう。
二人の親睦は故・飯野賢治氏から

まず小島監督から、水口氏との出会った最初のころが語られる。時期は96年に小島監督が神戸から東京にゲーム開発の軸足を移したときだったという。そのときに小島監督と仲が良かったのは、『Dの食卓』のクリエイターである故・飯野賢治氏。小島監督が飯野氏の事務所に遊びに行くと、そこには水口氏がいて、3人で遊んで親睦を深め合ったのだという。
そんな古くから仲が良いクリエイターだが、小島監督は二人の違いを「僕は押したら押し返す、でも水口さんは押したら引く。僕が固体だとすると、水口さんは気体のようなもの」だと評する。一方の水口氏は共通点を挙げる。小島監督とは世代が近く、影響を受けたものや環境が似ているという。たとえば、ゲーム黎明期は、テクノロジーが表現したいものに追いついていないため、フラストレーションを抱えながらものづくりをしていた点は共通しているという。水口氏は『DEATH STRANDING』の表現力をみて、「ここまできたんだと少しウルッときた」と感慨深げに感想を述べた。

若林氏は、そんな小島監督の最新作『DEATH STRANDING』について、苦労した点やこれまでと変わった点を聞きだそうとするが、小島監督は、ゲームを作ることはずっとやってきたことで、そこに苦労は感じなかったという。独立したとはいえ、ゲーム開発の本質は変わらなかったようだ。だが銀行に行って、人を募集して面接して、インテリアをどうするかなど、会社を作ることは新鮮に感じたという。
「ゲームが完成したら次の日から遊べない」
ただ苦労とは違うが、ゲーム開発に関して、小島監督はスケジュールがあるからこそ、ある種の「妥協の産物」として作品が出来上がるものだと説明。それに対して水口氏は「(我々はゲームを)完成させたくない病気がある」と補足した。たとえば、ゲーム開発は、映画や音楽などは2時間や4分などの一般的なボリュームがあるが、ゲームだとその枠組みがなく体験そのものを作っているので、作っていても際限がないという。しかも、それを調整している作業は、楽しいものなので作業が永遠に終わらないという。小島監督は「ゲームが完成したら次の日から遊べない」と笑いつつ、ゲーム開発を「遊び」と表現した。ゲーム開発が楽しくて仕方がないことが伝わってくるエピソードといえるだろう。

しかしそれでもゲームは完成させなければいけない 。 そこで必要なのは「ビジョン」だ 。 ビジュアル、サウンド、ストーリー、様々なものがあるなかで、どこにラインを引いてバランスを取りながら、スケジュールを守って完成させていくか 。 ゲームは、プラモデルと違ってパーツが組み合わさったら自然に完成するものではない 。 個々のパーツを作りつつ、それが組みわせたらどのようなものが出来るのかを見据えなければいけない 。 しかもテクノロジーに拠っているので、毎秒毎分と問題が起きてしまう 。 そのために小島監督がビジョンを維持するために心がけているのは、外注に依存しないこと 。