アカデミー賞「パラサイト」 成功の裏に韓国財閥の存在

引用元:産経新聞
アカデミー賞「パラサイト」 成功の裏に韓国財閥の存在

 米アカデミー賞の作品賞に外国語作品として初めて韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が選ばれた。浮かび上がるキーワードは、「半地下住宅」「格差」「巨額の投資」。これらの実情とは。(石川有紀)

 「韓流イメージとはかけ離れた通俗的な韓国の姿を描いた映画が、米アカデミー最高賞を受けるとは」。米国で18年間メディア研究を行った韓国・成均館(ソンギュンカン)大のイ・ジェグク教授は驚く。

 パラサイトは、韓国社会で広がる経済格差をリアルに描いた作品として、韓国でヒット。日本でも観客動員数は220万人を突破し、興行収入(33億円)はこれまで公開された韓国映画の首位に躍り出た。

 映画は、半地下住宅に住む全員失業中の一家の長男が、IT企業社長令嬢の家庭教師になり高台の大豪邸に通うところから始まる。

 映画公開後、格差の象徴として描かれた半地下住宅にも韓国内外から注目が集まり、ロケ地めぐりブームも起きた。日当たりが悪く、湿気や雨水が流れ込みやすいがゆえの格安物件。「低所得層だけでなく、地方出身の大学生や就職できない若者にとって身近な存在」とソウル市内の私大講師の40代女性は話す。

 ■80万人超が半地下生活

 半地下住宅は、緊張状態が続く朝鮮半島の歴史を背景に生まれた。1968年の北朝鮮による韓国大統領府への襲撃未遂事件を受け、政府は市民向け防空壕(ごう)として2階以上の建物に地下空間の設置を義務付け。倉庫などとして使用されたが、ソウルへの人口流入が加速すると、政府は住宅不足対策として住居転用を認めた。2015年の調査では、人口の約1・7%にあたる約86万人が半地下住宅に暮らす。

 「二極化の事実を暴きたかったというより、われわれが抱えている未来に対する不安や恐れを率直に映画の中で表現したかった」。作品についてポン・ジュノ監督はこう語っている。

 財閥企業グループ中心に経済発展を遂げた韓国。大企業10社が国内総生産(GDP)の4割超を占める一方、中小企業は育たず、給与格差が拡大した。就職競争が過熱し、大学卒業後も就職せずに大企業への就職活動や公務員受験を続ける若者が増加。経済協力開発機構(OECD)によると、19年の15~29歳の若年失業率は10・4%(日本は3・8%)に達した。

 「映画が描く韓国社会で顕在化したエリートと大衆の格差は、世界の資本主義社会が抱える本質的な問題として、大衆の共感を集めたのだろう」とイ教授は説明する。

 ■日本はまねできない?

 一方、アカデミー賞受賞には、作品の実力以外に、巨額の宣伝費やPR活動も欠かせない。ポン監督の映画製作やPRを後押ししたのは、韓国財閥のCJグループと李美卿(イ・ミギョン)副会長。李氏は1990年代からハリウッド映画に出資し、米国に韓国映画を売り込むなど米映画業界でも知られた存在だ。

 エンタテインメント産業に詳しい大阪商業大の崔圭皓(チェ・ギュホ)准教授は「CJのような投資家や政府の支援策が、世界に勝負をかける作品づくりを支えた」と語る。

 過激ともいえるリアルな描写が特徴的な他の韓国映画と同様に、パラサイトは格差といった実情だけでなく衝撃的なラストが印象的だ。崔准教授は多くの企業が出資する製作委員会方式で作る日本映画を引き合いに、「商業的に低リスクで効率的だが、作品内容への制約にもつながりやすい。その結果、作品も次第に角が取れて丸くなっていく」と資金調達環境が映画製作に与える影響を指摘する。

 格差を描いた映画作品を強力に後押ししたのが財閥というのは皮肉な現実だが、今回の受賞は韓国映画に海外からの投資を呼び込むことにつながりそうだ。