節操ない政権に危機感 言葉があまりにも軽いときこそ疑う

節操ない政権に危機感 言葉があまりにも軽いときこそ疑う

【エンタメ界激震 コロナショック】#2

 京都大学に現れたアニメ映画「AKIRA」を模した立て看板が話題になっている。京都・百万遍の角に立てられた看板は、作中のシーンをリアルに再現し「東京オリンピック開催迄あと147日」、その周りに「反対」のビラが多数貼り付けられ、「中止だ中止!」「粉砕」などの落書きがされている。アニメにはない「コロナ」の貼り紙もあった。先月末はまさに東京五輪まで「あと147日」で、僕が訪れたのは1日だったが、地元紙に紹介されたこともあってか携帯やら望遠レンズを持つ人まで立て看を撮影する人が途切れなかった。

 1988年に公開された同作は、2020年のオリンピック開催を控えた「ネオ東京」を舞台にしている。漫画家の大友克洋氏が30年も前に予言していたことは、政治や俗世間と一線を画しつつも核心を突く、エンタメの眼力として誇らしいものがある。

 SNSでは「#中止だ中止」がトレンドキーワード入りしている。僕自身は東京で開催してもらいたいと切に願うひとりだが、オリンピックを無観客で開催するというのも選択肢としてあり得ると考えている。プロ野球のオープン戦も無観客で行われ、今まで聞こえなかった球を打った時の音やベンチの話し声など新しい見方も出てきているし、実況を工夫すれば新たなエンタメの見せ方が構築できるのではないかと思う。もしかしたら東京五輪の放映手法が世界のニュースタンダードになる可能性だってあり得る。

 問題なのは、安倍政権が「オリンピックを開催しないなんてあり得ない」という前提で全てが進み、新型コロナ対策のためというよりも“何が何でもオリンピックを開催するために”イベントが突然中止になっているようにしか見えないことだ。コロナ対策を優先すれば、もっと前に計画的に進められていたはずで、エンタメ界も“日本は安全です”と言わんがために、ギリギリまで引っ張られて、シワ寄せを食った被害者のひとつになっている。一国の総理が自分の支持率を保つためなら学校を休校にし、出勤できない親から苦情が出たら、次は補助金を出しますと、猫の目のように節操なく対応を変えていく。安倍首相のやり方には「首相として東京五輪をやり遂げたい」という気持ちが透けて見える。

 エンタメは人寄せパンダなどと揶揄されることがある。それだけに送り手側が気を許したら利用されることは皆無ではない。社会はわかりやすさに流れがちで、難しいことを一言で言うことが社会ではもてはやされる。安倍首相と五輪界隈の参謀たちはわかりやすさに流れがちな国民の懐柔に長けている。本来、難しいものはそれなりに難しいものだ。言葉があまりにも軽いときこそ疑ってかからなくてはいけない。
安倍首相は吉本新喜劇の舞台に出演したり、エンタメを巧みに利用している。というより利用が度を過ぎているということに我々国民も危機感をもたなければならない。

(影山貴彦/日本笑い学会理事 構成=岩渕景子/日刊ゲンダイ)