負債1億円無観客ライブ 「BAD HOP」に広がる賛同、支援

負債1億円無観客ライブ 「BAD HOP」に広がる賛同、支援

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、各種イベントが中止・延期される中、川崎市出身の8人組ヒップホップグループ「BAD HOP」は横浜アリーナ(横浜市港北区)で「無観客ライブ」を敢行した。公演取りやめの代わりにライブ動画をインターネットで配信したが、チケット代は全額払い戻し、生じた負債は1億円を超える。「それでも希望を届けたかった」。困難をものともしない情熱とすがすがしさ。自粛、横並びの空気に異議を申し立てるように支援の動きも広がり始める。

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 1日夜、動画投稿サイト「YouTube」に息をのむような光景が映し出された。誰もいない広大なアリーナ。寒々とした空気をオープニングから畳み掛ける熱いリリック(歌詞)が吹き飛ばしていく。

 〈頭ん中で描くことは全てかなう物〉〈無理な事も口に出して自分にかける魔法〉

 リアルタイムの視聴者は3万人以上。「どうしようもなかった自分たちでもここまで来られた。希望を感じてほしかった」。曲の合間、リーダー的存在のYZERR(ワイザー)さんはインターネット画面の向こうに語り掛けた。

 「京浜工業地帯で育った不良たち」は事務所に属さず、独立独歩で成り上がってきた。2014年に無料ライブからスタートし、昨年は武道館単独公演を成功させた。降って沸いた疫病禍にも「こけるにしても俺たちらしさにこだわった」。会場をキャンセルするだけなら負債は3千万~4千万円で済んだが、無観客でも本番と同じステージを組んだことで1億円超まで膨らんだ。

 「枠に収まらない破天荒さが魅力」。岡山市から「旅費のキャンセル代がもったいなくて」やって来た会社員斉藤伊吹さん(19)は「支持者が多いからきっと大丈夫」。賛同はネット上でも広がり、ファンのアイデアで始めたクラウドファンディングには3日現在4千万円に迫る寄付が集まっている。

 「逆境をバネに」は自らの歩みそのものだった。在日コリアン集住地区の同区池上町で生まれ、貧しく複雑な家庭環境、少年院を経験したメンバーもいる幼なじみ同士。YZERRさんの双子の兄、T─PABLOW(ティー・パブロ)さんはライブ終盤、「コロナウイルスで中国人を悪く言う人がいるが、良くないと思う。ネガティブな感情が集まり架空の敵をつくられてしまう」と語り掛けた。はじかれる者の痛みを知るからこその「流されるな」「惑わされるな」の警句。「少しでもみんなが元気になってほしい。画面越しにでもポジティブなパワーを集められているなら、うれしい」

 会場の外では手にしたスマホに耳を澄ますマスク姿のファン十数人の姿があった。神戸市の元水博之さん(42)は「昔はワルだったかもしれないが、音楽で更生し、若いのにしっかりした考えを持っている」。閉塞(へいそく)を打ち破る音楽の力を今こそ─。妻の翔子さん(30)もうなずいた。「チケットの払戻金を寄付したい。公演中止は残念だが、ファンとグループの絆はかえって深まった」 神奈川新聞社