三池崇史と窪田正孝、2人の男が『初恋』に至る10年の道のり

引用元:Movie Walker
三池崇史と窪田正孝、2人の男が『初恋』に至る10年の道のり

昨年の各国映画祭での好評を追い風に、2月28日よりついに公開となった三池崇史監督の新作映画『初恋』。主人公の才能あるプロボクサー・葛城レオを窪田正孝が演じる本作の舞台は、様々な事情を抱えた人間たちが流れ着く新宿歌舞伎町。余命宣告を受けたプロボクサーがモニカという少女と出会い、アンダーグラウンドな世界を舞台に巻き起こる濃密な一夜が描かれている。

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カンヌ、トロント、マカオなど海外の映画祭で世界中のファンを熱狂させた三池監督にとって、初のラブストーリーとなる本作。作品に込めた想いや撮影現場での様子、テレビドラマ「ケータイ捜査官7」以来10年ぶりに監督・主演としてタッグを組んだ心境について、三池監督と窪田に聞いた。

「ケータイ捜査官7」のときに、「10年後に窪田を選んだ理由がわかる」という言葉を残していた三池監督は、10年を経た窪田をどのように感じたのだろうか。「役者としてコツコツと積み上げてきたな、と感じました。自分で一つ一つの役に正面から取り組んでいくなかで、成長してきたという印象を受けました。いそうでなかなかいないタイプの役者だと思います。普通はそういうコツコツと打ち込んだのが顔に出るものだけど、窪田くんにはそれがまったく見えない。若く見えるのは得だよね」

一方の窪田は10年ぶりのタッグを待ちに待っていたという。「『ケータイ捜査官7』に出演したのはデビューして2年目の頃でした。そこから10年経って、『やっと(オファーが)きた!』という印象です。純粋にうれしかったです。現場を共にできる、呼んでもらえることが本当にうれしかったです。この10年、三池監督が残してきた作品のなかに自分がいないという悔しさはありました。でも、またいつか会える時のためにコツコツ頑張るしかないという思いでやってきました。この現場の楽しさはほかでは味わえませんし、節目の30歳のタイミングでご一緒できたのはすごく大きいことでした。自分にとってある種の1つの起爆剤として、チャレンジしたいという気持ちにつながっていきました」

撮影現場では、10年前の自分を思い出すこともあったという窪田。「三池監督の、『役はあなたのもの。僕は撮るだけ』というスタンスは変わっていませんでした。モニカ役の小西桜子ちゃんに演出されているのを常に隣で聞いていたのですが、ワクワクすると同時に自分にも言われている気になっていました。三池監督に奮い立たされて、自分を追い詰めていく彼女を隣で見ていて、『この子の純粋さには勝てないな』という気持ちにもなりました。自分が10年前に持っていた気持ちを真正面で見せつけられたような気がして、一緒に芝居をするのが怖いことも、正直ありました。経験を重ねたなかで身についたテクニックは限られた時間での撮影のためには必要なことですが、僕にとっては役者として理想の形ではありません。「ケータイ捜査官7」の頃の純粋な感覚が一番の理想なので、それを目の前でバンバン正解のように出されてしまったら、ちょっと目を背けたくなりました(笑)」

プロボクサーを演じた窪田に役への取り組みについて聞いた。「僕は純粋に役者として、ヤクザを演じている染谷将太くんがうらやましかったです。内野聖陽さんが刀を“シャキーン”と抜くシーンなんかもずるいくらいかっこよくて。でも不器用ゆえに拳でしか人と語れない、ボクシングでしか生きることができない、そういう葛城の生き様をどれだけ魅力的にできるのかが、僕の役割と思い演じていました。僕もマシンガンとかをぶっ放したかったですけどね(笑)」

三池監督が本作に寄せた「さらば、バイオレンス」という言葉にはどのような想いが込められているのだろうか。「僕たちが観てきた映画のなかのアウトローたちは、いまの時代では映画のなかでさえ住む場所を失っています。この作品のなかの彼らも歌舞伎町にかろうじて生き残っている、いわば絶滅危惧種に近い存在です。結果的に二人が恋に落ちるのは、自分を貫いた彼らがいたおかげ。彼らの死こそがこの二人の恋を生みだしています。いまは昔のようにしがらみなくアウトローたちを描くことはできませんが、彼らをなかったもののように扱うわけにはいかない。どうしようもない人間たちも、生き方によってはピュアな恋を生むこともできると思うんです。僕は彼らに哀愁や愛情を感じていますし、この映画の役柄、設定、そして演じてくれた人すべてが、かつて映画に登場した魅力的な男たちへのレクイエムのようなものですね」

原作のないオリジナル作品である本作。三池監督に手応えを尋ねた。「手応えって本当に難しい。世の中に完璧なエンタテインメントは存在しないと思っていますし、「よし、これだ!」と思ってしまったら、それは引退が近いことを意味するんじゃないかな。それでも好きか嫌いかという判断はできるわけで、そういう意味では大好きな作品です。オリジナル作品ではあるけれど、自分で作りだしたというよりこのキャスト、スタッフと出会えたから出来上がった作品だと思っています。彼らそれぞれの経験や運命みたいなものが、直接ではなくてもどこかに反映されていて、役や作品が膨らんでいったのだと思っています」

日本公開に先駆けて上陸した海外でも評価の高い本作。完成した作品を観た、率直な気持ちを窪田に聞いてみた。「これまでドラマ出演のほうが多かった僕にとっては、このような挑戦的な映画に久しぶりに出会えた喜びが大きく、役者冥利に尽きると思いました。ここまで“媚びていない”作品にはなかなかお目にかかれませんし、監督がおっしゃっていたように、絶滅危惧種になってしまった人たちにしかない魅力がしっかりと反映されていると思います。海外の映画ファンには、日本映画といえば往年の侍、ヤクザ、忍者が出るような映画というイメージがありますよね。そのジャンルの新作が海を越えて今回のような評価をしてもらえたことは、シンプルに凄いことだと思います。日本でも、こういうジャンルを懐かしいと感じる世代と、新感覚と思える若い世代、様々な世代の人に楽しんでもらえたらうれしいです」

三池監督にとって“窪田正孝”はどんな役者なのだろうか。「僕と彼の関係はあくまで監督と役者。頻繁にメールしたり電話したりはしません。窪田くんと同じ現場です、というスタッフに『よろしくって言っておいて』っていうくらいですよ。ただ、彼にとって必要な監督であり続けたいとは思っています。『窪田くんを主役にすると企画が通るから出てよ』みたいな関係にはなりたくありません。映画業界はそんなに広い世界じゃないから、お互いが必要な時には今回のように機会がやってくるんです。それこそ10年前のオーディションのように。あの頃はまだ窪田くんも若かったし、このまま役者を続けていいのだろうかと悩んでいました。でも、それが10年後、こうしてまた一緒に作品を作ることになるのだからね。監督は役者の人生の面倒をみる立場にはありませんが、出演してくれた人が『やってよかったな』と感じてもらえる作品に仕上げることには、全力を尽くしています。もちろん『こんな役者になってくれたらいいな』なんて想像することはあるし、心の奥で応援もしていますけどね」

(Movie Walker・取材・文/タナカシノブ)