「街をハックする」真鍋大度が、スクエアプッシャーのMVを監督した理由と、その技術

「街をハックする」真鍋大度が、スクエアプッシャーのMVを監督した理由と、その技術

渋谷が分裂。そんな未来がやって来そう。

「2~3年後の都市はどんな姿になるのか?」そんなごく近い未来を予想した、スクエアプッシャー5年ぶりのアルバム『BE UP A HELLO』のリード曲「TERMINAL SLAM」のMVが話題です(”Behind The Scene” 特設サイト)。

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その内容は、渋谷のスクランブル交差点で、とある女性がMR(複合現実)グラスをかけると、見慣れた街の様子が一変。街を構成する広告や人物にグリッチノイズがかかり、姿を変え、次第に街頭広告がスクエアプッシャーにジャックされていく…というもの。

この映像が見せる新しい都市の姿は、明るい未来なのか、それともディストピアなのか。テクノロジーと都市の関わり、そしてどんな技術が本作を可能にしたのか。本作の監督を務める、日本を代表するアーティストである真鍋大度さんにインタビューして来ました。

出発点は「今の広告が持つ問題」

──これまでも真鍋さんはスクエプッシャーとの関わりがありましたが、スクエアプッシャー本人名義作品のMVを監督することは初めてです。本作を手がけることになった経緯を教えてください。

真鍋大度
:WARP30周年での来日時、対談のために僕のスタジオに来てくれたのですが、そこで軽いブレスト的に、テクノロジーを用いた表現や広告の未来、今の広告が持つ問題についての話をしたんです。近い将来MRグラスやAirPods Proみたいなイヤフォンをつけたまま生活するようになると、現実を自分の都合の良いように書き換えられるようになるだろうという話題になり、「となると、街の広告も入れ替えられるね」と。

──まさに今回のMVに繋がるアイデアですね。

真鍋大度
:スクエアプッシャーも何でもかんでも広告でマネタイズすることについて疑問を持っていて、なんとなく話が盛り上がったんですよね。それが今回のMVを監督することになる最初のきっかけでした。

──となると今回のMVにテーマがあるとしたら、それは「広告」ということでしょうか?

真鍋大度
:「広告を含めた近い未来」ですね。そもそもMV自体がプロモーションのために作る映像でもあるので、そうした広告的側面のことも考えました。そのうえで「近い将来、こんなふうにプロモーションできるようになったらいいよね」という期待を込めた映像でもあります。

──それは“街を仮想的にジャックしたプロモーション”ということですか?

真鍋大度
:はい。僕は莫大なお金をかけて街中の広告をジャックするというのは、アイデアとしては陳腐化していると思っているので、「テクノロジーを使えば、もっとスマートに広告できるようになれるはず」と、従来の手法を皮肉るようなニュアンスも入っています。ウェブブラウザはすでに広告のパーソナライズが当たり前ですが、徐々にそれが現実世界にも降りて来るだろうというイメージです。

──真鍋さんとスクエアプッシャーは「大衆に向けた無秩序な広告が乱立するよりは、パーソナライズドされた広告の方がいい」と考えているということですか?

真鍋大度
:現在の渋谷は本当にめちゃくちゃな景観になっていますよね。それはそれで面白いけど、少なくとも広告の効率的には非常に悪いと感じます。渋谷駅前にはIT企業関連の広告が多く、少し離れると夜の仕事の看板がそこら中にある。そんな感じで、今までの看板や街頭ビジョンは、そのエリアにいる不特定多数の人に向けた雑なものになっているからだと思います。

──広告のパーソナライズにはプライバシーの懸念も含め“ディストピア的な未来”として悲観される部分もありますが、むしろ良い面に目を向けているわけですね。

真鍋大度
:そうですね。現実世界にインストールするのは面白くなるかなと思います。

──というと?

真鍋大度
:街中の広告をパーソナライズすることによって、これまでと違うダイナミックな都市の形が出てくるだろうし、それに僕はもともとソフトウェアのエンジニアとしてデジタルデータを扱ってきたので、都市そのものにアクセスするということはこれまでできなかったんです。しかしテクノロジーの進歩によって、今後は街をハックするようなことができるようになる。そう考えるとソフト化していくことで単純に「面白くなりそうだな」と感じています。

──なるほど。

真鍋大度
:まあ、この前そういうことを言ったら某ヨーロッパのメディアに「楽観的すぎる」と批判されたりもしたんですけど…(笑)。

──(笑)今回のMVには、街頭ビジョンや電車の広告をスクエアプッシャーがジャックするシーンがありますが、2020年現在スクエアプッシャーの日本におけるセールス規模ではああいう大々的な宣伝はまず不可能です。しかし本作を観て、パーソナライズド広告なら実際にああいうPRも不可能ではなくなると思いました。スクエアプッシャーの音楽が好きな人にとっては、無秩序に消費者金融や脱毛の広告を見せられるよりはワクワクする未来ですよね。

真鍋大度
:はい。2~3年後の未来を想像したMVなので、その頃には実際にこうしたことができているんじゃないかと思います。実際のところ、このMVでやっていることはすでにほとんどリアルタイムで再現できるので。