桂文珍、芸歴50周年に「面白いじいさんになりたい」国立劇場で異例の20日間独演会

引用元:スポーツ報知
桂文珍、芸歴50周年に「面白いじいさんになりたい」国立劇場で異例の20日間独演会

 落語家・桂文珍(71)が芸歴50周年記念として国立劇場の大劇場で20日間独演会(2月28日~3月8日、15~24日)を開催する。東西の人気落語家を日替わりゲストに迎え、計3万2000人を動員するビッグイベントだ。文珍はこのほどインタビューに応じ、若くして数多くのテレビのレギュラー番組を持つ活躍から、落語に軸足を移すことになったきっかけや、上方落語家としての誇り、所属する吉本興業への思いなどを語った。(高柳 義人)

 半世紀、トップランナーとして走り続けた桂文珍は感慨深げに振り返った。「あっという間の50年ですね。売れるには3つの要素があると思うんです。運がいい、落語が好き、センスがある。センスは分かりませんが、運が良くて、落語好きなのは間違いないです」

 若くしてテレビ番組で売れた。東西で最大17本のレギュラーを持ち、テレビで見ない日がないほどの“売れっ子”でもあった。そこから落語に重心を移した。「落語に帰依したというか戻ったのは阪神淡路大震災がきっかけですね」。自宅も半壊した。ちょうど25年前。折り返し地点になったように、落語家としての比重が増えていった。

 決断には芸能界の大御所の言葉があった。藤山寛美さんが1990年に亡くなる直前、雑誌で対談した。テレビのレギュラー本数を聞かれ答えたところ、寛美さんは「はよ、辞めなあかんで」。思いがけない言葉だった。「ほめてもらえると思っていたので、エエッ?って思いました」。寛美さんは「熟成した芸をしようと思ったら今からしっかりやらな遅いで」と諭した。「あれだけの達人に言われて目からうろこでした」。

 文珍の落語は、古典はもちろん、現在を切り取り、未来を扱う新作など、振り幅が大きい。イラストレーター・山藤章二氏は「文珍の落語はバリアフリーだ」と称し、立川談志は「あいつは“妖怪”みたいな男だ」と言った。「だんだん、こっちも年がいって、ようかいご(要介護)になるまで頑張りたいね」と笑う。文珍にとってジャンル分けは意味をなさない。「面白ければいい。笑いには普遍的な部分と流行の部分がある」

 大阪では寄席「天満天神繁昌亭」が開場する2006年までホームグラウンドがなかった。そんな環境で育った。主戦場となる「なんばグランド花月」では漫才、新喜劇と並び競い合った。「若い時はアウェーな感じがありました。でもずっと聞いていると、笑いの提供の仕方が似通ってくる。例えば同じテイストの料理ばかりだと、ちょっと違う料理がおいしく感じる。それをやればいいんだと思ってから、劇場に出るのが楽しくて仕方なくなった。(気がついたのは)3年前ですかね。伝統芸能として落語の地位を上げたいと思ってやっていました」。

 文珍は観客の反応に敏感だ。落語も反応により手を加え修正する。新作でも当初の狙いとは離れて、全く違う新作が生まれることもあるという。「私の下半身は…、いえ体の半分はお客様が作られた」

 吉本への思いも強い。昨年は闇営業問題で揺れた。岡本昭彦社長の5時間会見での「芸人ファースト」の言葉に苦言を呈した。「あれは大きな間違いです。『お客さまファースト』でないといけません。あれは考え方が狭い。お客さんがステークホルダー(利害関係者)のトップ。そのためにどうするか、古手は言ってあげないと…」と語気を強めた。

 ふと漏らした。「生きてるだけで『面白いなこの人』って言われたいなぁ。面白いじいさんになりたいな」。自然体にそして貪欲に笑いを追求し続けている。

 ◆桂 文珍(かつら・ぶんちん)本名・西田勤。1948年12月10日生まれ。71歳。篠山鳳鳴高から大阪産業大に進み、69年10月に3代目・桂小文枝(5代目・文枝)に入門。毎日放送「ヤングおー!おー!」で桂きん枝(現・小文枝)、月亭八方、林家小染と「ザ・パンダ」を結成し人気を博す。シンセサイザーを用いた革新的な落語を演じる一方で1988年から16年間、関大の講師を務めた。飛行機の操縦資格を持ち、コンピューターに精通するなど多彩な趣味を持つ。上方落語協会顧問。

 〇…独演会では1日2席ずつネタだしをした。「2020年なので(20+20の)40の噺をしたら面白いでしょう」と文珍。ゲストも自ら口説き落として東西の人気落語家を集めた。「素晴らしい先輩と同期の方と、いいなと思うちょっと後輩の方。落語大好きおじさんとしても楽しみ」と言う。開口一番では、二ツ目を中心に期待の若手を起用。長年、NHK新人落語大賞の審査委員を務めており「いいものを持っている若い人にチャンスを与えたい。伸びていく人ばかりですよ」と太鼓判を押す人選だ。

 ◆桂文珍 芸歴50周年記念 国立劇場20日間独演会

 【2月28日】▼演目 らくだ/新版・豊竹屋 ▼ゲスト:笑福亭鶴瓶 ▼開口一番:桂楽珍

 【29日】▼演目 けんげしゃ茶屋/新版・七度狐 ▼ゲスト:桂南光 ▼開口一番:桂米輝

 【3月1日】▼演目 はてなの茶碗/くっしゃみ講釈 ▼ゲスト:林家木久扇 ▼開口一番:春風亭昇々

 【2日】▼演目 寝床/老楽風呂 ▼ゲスト:柳家喬太郎 ▼開口一番:林家けい木

 【3日】▼演目 帯久/お血脈 ▼ゲスト:桂文枝 ▼開口一番 桂三語

 【4日】▼演目 不動坊/憧れの養老院 ▼ゲスト:林家正蔵 ▼開口一番:立川志の春

 【5日】▼演目 三十石夢之通路/天狗裁き ▼ゲスト:柳家花緑 ▼開口一番:桂文五郎

 【6日】▼演目 庖丁間男/商社殺油地獄 ▼ゲスト:立川志の輔 ▼開口一番:桂華紋

 【7日】▼演目 猫の忠信/セレモニーホール旅立ち ▼ゲスト:春風亭小朝 ▼開口一番:三遊亭一太郎

 【8日】▼演目 たちきれ線香/ヘイ・マスター ▼ゲスト:三遊亭小遊三 ▼開口一番:雷門音助

 【15日】▼演目 地獄八景亡者戯/風呂敷間男 ▼ゲスト:柳亭市馬 ▼開口一番:桂竹紋

 【16日】▼演目 算段の平兵衛/稽古屋 ▼ゲスト:立川談春 ▼開口一番:春風亭正太郎

 【17日】▼演目 三枚起請/心中恋電脳 ▼ゲスト:柳家三三 ▼開口一番:三遊亭わん丈

 【18日】▼演目 胴乱の幸助/星野屋 ▼ゲスト:春風亭昇太 ▼開口一番:柳亭市弥

 【19日】▼演目 愛宕山/不思議の五圓 ▼ゲスト:林家たい平 ▼開口一番:柳家寿伴

 【20日】▼演目 饅頭こわい/そこつ長屋 ▼ゲスト:桃月庵白酒 ▼開口一番:入船亭小辰

 【21日】▼演目 天神山/老婆の休日 ▼ゲスト:柳家権太楼 ▼開口一番:春風亭ぴっかり☆

 【22日】▼演目 船弁慶/新版・世帯念仏 ▼ゲスト:神田伯山 ▼開口一番:林家たま平

 【23日】▼演目 へっつい幽霊/花見酒 ▼ゲスト:春風亭一之輔 ▼開口一番:瀧川鯉八

 【24日】▼演目 百年目/スマホでイタコ ▼ゲスト:三遊亭円楽 ▼開口一番:桂宮治 報知新聞社