ミュージカル女優・葵わかな「音楽の力ってすごい」

引用元:Lmaga.jp
ミュージカル女優・葵わかな「音楽の力ってすごい」

NHK連続テレビ小説『わろてんか』(2017年)で、主人公・藤岡てんをほがらかに演じた葵わかな。同ドラマの後に出演したミュージカル『ロミオ&ジュリエット』(2019年)では、可憐なジュリエット役が評判を呼び、ミュージカル女優・期待の星のひとりだ。1997年のアニメ映画にインスパイアされ制作された日本初演の『アナスタシア』で、再びミュージカルのヒロイン(木下晴香とのWキャスト)に挑む葵に、ミュージカルへの思いや、今後の意気込みを訊いた。

【写真】インタビューに応じる葵わかな

取材・文/吉永美和子 写真/木村正史

「音楽の力ってすごく大きい」(葵わかな)

──『ロミオ&ジュリエット』では、ジュリエットのはかなさと芯の強さを、演技力と歌唱力の両方でしっかり表現して、とても初舞台とは思えない存在感でした。

ありがとうございます。私は仕事の幅を狭めたくないというのもあって、「こんな役をやりたい」とはあまり考えないようにしていたのですが、この舞台を観たとき、初めて「あ、ジュリエット役を何が何でもやりたい!」と思いました。そのためには歌の稽古をしなければ、とすぐに撮影の合間を縫いながら自主的にボイストレーニングに通うようになりました。

──初めての舞台、しかもミュージカルはあまり映像ではやらない表現なので、とまどったことも多かったのではないでしょうか?

よくミュージカルが苦手な方って「お芝居の途中で、急に歌がはじまるのが理解できない」っておっしゃるじゃないですか? でも、私も同じことを感じることもあります。

──「今ここで歌う?!」という、ノリツッコミみたいなことが。

やっぱり演技の途中で急に歌い出すのって、すごく難しいんです。でも舞台で活躍されているミュージカルスターの方々は、演技と歌をなじませるテクニックを常に考えて、実践して、観る人を感動させるお芝居をされているんです。

──確かに上手な俳優さんは、演技から歌、さらに歌から演技に移るのが自然に見えます。

そうですよね。『アナスタシア』では「お芝居のなかに歌があること」と「歌のなかにお芝居があること」、この両方の側面を自分なりにどうなじませるか、もっと考えながらやっていきたいと思ってます。

──とはいえ、歌があることで演技が助けられる部分も、きっとありますよね。

すごくあります! 音楽があった方が、シーン的にも、観ている人の気持ちも盛り上がりますから。映像だと音楽は後から付きますが、ミュージカルは自分のなかから奏でていける。それによって、より自然と涙が出たり、気分が高まったりしますし、物語自体を支えることすらあるんです。音楽の力って、すごく大きいです。

「脚本に書かれてない所をいかに想像できるか」(葵わかな)

──『アナスタシア』は、記憶喪失の娘・アーニャが、自らの過去と本当の望みに向かい合う物語です。題材となっているアニメと筋はほぼ同じですが、異なる点も多いですね。

そうですね。(アーニャと敵対する)魔法を使う人(ラスプーチン)も出ないですし、もう少し現実に寄せた世界です。

──ラスプーチンの代わりにアーニャを追い詰めるのが、ロシア政府の将官・グレブです。舞台版は彼の存在によって、シリアスな人間ドラマの側面が浮かび上がっています。

アーニャや(彼女に同行する)ディミトリやヴラドが、希望に向かって走っているのに対して、革命の残酷さや冷酷さを体現している人物です。明るい話にひとつ影を加えていて、それによって物語に立体感や、現実味が生まれているという気がします。

──アーニャは勝ち気でたくましいけど、随所で記憶がないことの不安や、「本当にアナスタシアかもしれない」という気品を見せなければならないので、難しそうな役ですね。

一番課題になりそうなのが、アーニャの強さと弱さの案配。ディミトリやグレブのセリフや歌で「こんなに震えて怖がる彼女を、僕が守らないと」というのがよく出てくるので、本当は普通の子だけど、自分に活を入れて強く見せてるだけじゃないかな? と感じています。さらにこの2人には、女性として意識されないといけないんです。

記憶がないことに真実味を持たせることも含めて、アーニャのキャラクターがハマらなかったら、全体の説得力がなくなってしまう。だからただの「強い子」ではなくて「こういう事情があって強い子」という、その背景をどういう風に表現するか。それは脚本に書かれてない所を、いかに想像できるかにかかっている気がします。

「あの頃に戻るような錯覚がある」(葵わかな)

──ミュージカルを始めたことで、身体や喉のケアの意識が、大きく変わりましたか?

変わりましたね。ミュージカルの俳優さんたちは、喉に効く飴やマスクなどの情報に詳しいので、いろいろ教えてもらいました。歌には生肉がいいとか。

──馬刺しですか?

お肉全般です。『ロミジュリ』親睦会のときに、テーブルに生肉がいっぱい並んでいて「なんでこんなに? みんな生肉好きなの?」と思ってたら「生肉は喉にいいから、食べた方がいいよ」と言われて。生肉は得意じゃなかったんですけど、『ロミジュリ』で食べる機会があって、それですごく好きになりました。

──それが一番大きな変化かもしれない。

そうですね。あとはお水のなかにハチミツを入れて飲むと、喉が乾かないとか。1回ハチミツを入れない水を飲んで舞台に立ったら、歌おうと思って息を吸った途端に、口のなかがカラカラになって「あ、ダメだこれ」って(笑)。ハチミツ水はすごく大事です。ハチミツを毎日食べたら、風邪をひかないとも言われてますし。

──歌手じゃなくても、今の季節に良い情報ですね。あと大阪の町は『わろてんか』で長期滞在して、いろいろ思い入れがあるかと思いますが。

新幹線で新大阪駅に着いて、街の風景を見ると、あの頃に戻るような錯覚があって、今でも感慨深い気分になります。そして、『ロミジュリ』の大阪公演では、お客さんのリアクションに驚きました。東京と全然違う! ってなりました(笑)。

──大阪の方が熱っぽいとか、前のめりで観てくれるとか、よく言われますよね。

東京公演は最初(の公演)なので、まだ観る方も私たちも、お互い探り探りだったからかもしれないですが、拍手とか笑い声とか、泣いて鼻をすする音が、(ツアーで)西に行くほど大きくなってくるなあと思ってました。

──演じる側にも、結構聞こえているものなんですね。

「あ、今日すごくいっぱい泣いてくださってるなあ」とか。でも、その客席の悲しい空気がすごく伝わって、こっちも悲しみが倍増して、自分が今まで出せなかったぐらいの悲しさを表現できたりしました。それが不思議だし魅力的で、またあの感覚を感じながら演技をしたいと思っていたので、『アナスタシア』に出演できるのは本当に嬉しいです。

──2020年はこの作品を含めて、ミュージカルファンが悲鳴を上げるほど注目作が目白押しの年です。ミュージカルを観る人も増えてくると思いますが、『アナスタシア』は初めてのミュージカル体験に、すごくピッタリな作品ではないかと。

本当にそう思いますし、何と言っても、今回が日本初演になります。ミュージカルって再演の作品が結構多いので、私たちもですが、初演に立ち会えるのは意外と奇跡的なんです。そういう意味でも、ぜひ「初演」を観ていただきたいです。あとは歌や物語だけでなく、衣裳や舞台装置にも驚かれると思います。

──ブロードウェイ版の舞台ダイジェストを見ると、衣裳や美術は古典的で繊細なのに、そこにダイナミックな最新映像技術が絡んできたりして、かなりビックリしました。

そうなんです、その融合が素晴らしいです。そんなブロードウェイ版を、そのまま持ってきた世界になると思います。あと、この作品は4歳から観ることができるんです。おとぎ話の要素もあって、お子さんにもすごくオススメなので、ショーを観に来るような気持ちで、劇場に来てくださったらと思います。

本作は東京(3月1日~28日)を経て、「梅田芸術劇場メインホール」(大阪市北区)にて4月6日~18日に大阪で上演。チケットはS席13500円、A席9500円、B席5500円ほか(発売中)。