村上春樹を魅了するジャズ・ヴォーカル アニタ・オデイとスタン・ゲッツの粋なお話

引用元:TOKYO FM+
村上春樹を魅了するジャズ・ヴォーカル アニタ・オデイとスタン・ゲッツの粋なお話

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの特別番組「村上RADIO」。2月23日(日・祝)の放送は、ジャズ・ヴォーカルに焦点を当て、苦手な人でも楽しく聴けるような村上流の入門企画「村上RADIO~ジャズが苦手な人のためのジャズ・ヴォーカル特集」をオンエア。本記事では、後半5曲についてお話しされた概要を紹介します。

◆Anita O

次は2人の女性歌手によるヴォーカリーズとスキャットを聴いてください。1曲目は、スタン・ゲッツのソロをフィーチャーしたウディ・ハーマン楽団の演奏でヒットした「Early Autumn」(初秋)、これをアニタ・オデイが歌います。1958年の録音で、アレンジはマーティ・ペイチです。ほんとうに美しいメロディーですね。スタン・ゲッツは、この曲の演奏で一躍スターダムにのし上がりました。

それからバド・パウエルの作った「Parisian Thoroughfare」 (パリの歩道)です。この速い曲をスキャットで歌うのは、かなり難度の高い技なんですが、カリン・アリソンは見事にさらっとやり遂げています。現在活躍している女性歌手のなかでは、彼女は最も実力のある1人だと思います。ピアノを弾いているのは、伴奏の名手、ポール・スミス。1999年の録音です。

アニタ・オデイとスタン・ゲッツは、短い期間ですが、スタン・ケントン楽団で同僚だったんです。同僚といっても、そのときゲッツはハイスクールをドロップアウトした17歳。一方のアニタは、20代半ばで、既にスター歌手になっていました。ゲッツはまだ若造なので、なかなかソロをとらせてもらえなくて、お姉さん格のアニタのところに行って、「ねえアニタ、僕にソロをとらせてくれって、ケントンさんに頼んでもらえないかな」って甘えるんです。アニタは姉御肌の人だから、「いいよ、任せときな」みたいになるんだけど、さてどうなるか……。
結末は、僕が翻訳したスタン・ゲッツの伝記(『スタン・ゲッツ―音楽を生きる―』)を読んでみてください。