残念な「テセウスの船」のメーク 「麒麟がくる」のこだわりとは対照的

残念な「テセウスの船」のメーク 「麒麟がくる」のこだわりとは対照的

桧山珠美【あれもこれも言わせて】

 どうにもこうにも納得できないのがTBS系ドラマ「テセウスの船」。

 平成元年に起きた謎の連続毒殺事件の犯人として逮捕された父親の、無実を信じて息子が立ち上がるストーリー。過去と未来を行き来する、いわゆるタイムスリップものだ。

 主人公の田村心を演じるのは竹内涼真。そして事件後、殺人犯として逮捕され、現在も無実を主張する父・佐野文吾に鈴木亮平。他に上野樹里に榮倉奈々、麻生祐未、安藤政信……キャストも豪華で見応え十分だ。

 納得いかないのは特殊メークだ。事件当時、主人公は母親のお腹の中にいる。当然、現代では父親の鈴木亮平も母親の榮倉奈々もみんな31年分年を取っていることになるが、それを本人たちが老けメークでやっちゃっている。突然、コントが始まったかと思った。

 体重を自在にコントロールし、役になりきる鈴木は特殊メークに頼らずとも、どうにかできたと思うし、現代のシーンはダブルキャストで相応の年代の女優が演じた方がよかったのでは。

 この雑な仕事はなんだと思って調べたら、担当はハリウッドでも活躍する特殊メークのパイオニア・江川悦子というから2度びっくり。さてはTBSがギャラをケチったか。

 アカデミー賞で2度目のメーキャップ&ヘアスタイリング賞を受賞したカズ・ヒロが「日本の文化が嫌いになった」とコメントしたとか。この特殊メークを見てどう思うか、聞いてみたい。

■衣装は性格や過去も物語る

 そういえば、衣装がカラフル過ぎると批判の声もあるNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。担当しているのが巨匠黒沢明監督の長女・黒沢和子。16日に放送された「黒子の美学『“麒麟がくる”衣装デザイナー・黒澤和子の世界』」は、そんな黒沢に密着するドキュメンタリーだった。その徹底したこだわりに感心した。さすが、夕日を撮るのに屋根が邪魔と家を壊した黒沢明のDNAはしっかり受け継がれている。

「麒麟がくる」の衣装については、チーフ演出の大原拓が風水の五行相剋説のアイデアを出し、それをもとに武将のカラーを決めたうんぬん。例えば、明智光秀は成長の象徴である青、やがて光秀を討つことになる秀吉は白というように。気に入った色がなければ布から染め、出来上がった衣装には経年変化をつけるため、汚しの作業を行う……。黒沢には大切にしている父の言葉がある。

「神経を細かく使って自然の汚れや生地の古びを出してもらいたい。衣装はそれを着ている人の性格や過去の生活も物語る。これは大切なことだ」

 4Kが出たからカラフルにしたとか、そんな単純なものではない。手間暇を惜しまず満足いくものを追求する。それがプロ。「テセウス」がなぜ残念な仕上がりになったのか誰か教えてほしい。

(桧山珠美/コラムニスト)