村上春樹「男女関係って、理解も大事だけど、誤解もほとんど同じくらい大事」ラジオ番組で語る

引用元:TOKYO FM+
村上春樹「男女関係って、理解も大事だけど、誤解もほとんど同じくらい大事」ラジオ番組で語る

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの特別番組「村上RADIO」。2月16日(日)の放送は、2月23日(日・祝)19時から放送される「村上RADIO~ジャズが苦手な人のためのジャズ・ヴォーカル特集」の“予習編”をオンエア。本記事では、前半2曲についてお話しされた概要を紹介します。

<オープニング曲> ◆Donald Fagen with Jeff Young & the Youngesters「Madison Time」

こんばんは、村上春樹です。村上RADIO、もう2月なんですね。困ったもんです。まあ、べつに困ることもないんだけど。

今夜は、ジャズがいまいち不得意な人のためのジャズ・ヴォーカル特集です。意欲的というか、なかなか大胆な企画ですよね。さて、うまく行くでしょうか。ジャズはむずかしい、敷居が高い、と思っておられる方も世の中には多いかもしれません。たしかに、なかにはちょっと取っつきにくいものもありますけど、いったん慣れると意外に親しみやすく、また奥の深いものです。だまされたと思って、ちょっと耳を傾けてみてください。今夜はできるだけ楽しい、親しめるジャズ・ヴォーカルをかけようと思います。だましませんから、ご安心ください。 

*  *  *

◆Arthur Prysock「I Could Write A Book」

最初に、僕が昔から愛好してる音楽を聴いてください。このレコードは、高校時代に買って以来、本当によく聴いていました。黒人歌手アーサー・プライソックが、カウント・ベイシー楽団をバックに歌う「I Could Write A Book」。“僕は文章を書くのは得意じゃないけれど、君についてなら、1冊の本だって書けちゃうよ”という歌です。

それくらい彼女のことをよく知っているわけですね。ロジャーズ&ハートの名曲です。これは、歌も素晴らしいんだけど、ここでとくに聴いてもらいたいのは、カウント・ベイシーのピアノと、フレディ・グリーンのナマのリズム・ギターの絡みです。こんな素敵な音が出せるのは、世界中探しても、この2人組しかいません。心地よくレイドバックしていて、しかもがっつりスイングしています。しびれます。高校生のときもしびれたけど、今でもまだ、ちゃんとしびれます。

(これはモノラルのほうだね、こっちがステレオで……2枚あると面倒だね)

僕はこのレコード、ステレオとモノラル、両方持っているんですけど、今日は高校時代に買ったステレオ盤でかけます。

(えーと、33回転のスタートで、何曲目だっけ。「I Could Write A Book」……あ、ちょっと待って……3曲目ですね。)

高校時代に聴いていて、店をやり始めてからもずっと聴いてて、それで、これだけまだきれいに聴けるのはすごいですよね。ジャケットはずいぶん傷んでいるけどね。レコードに押してあるスタンプはうちの店のマークで、僕が書いたんだと思う。そのスタンプをゴム判にして押してたんです。
  

でも、僕は思うんだけど、1人の女性について1冊の本を書くことはできても、その内容がどれくらい真実かというのは、ちょっと疑わしいところがありますよね。男女関係って、理解も大事だけど、誤解もほとんど同じくらい大事ですから。そうですよね、猫山さん?(にゃー)、羊谷さんはいかがでしょう?(めぇー)