柳楽優弥が“世界的アーティスト”北斎役に挑む『HOKUSAI』撮影現場に潜入取材!<写真18点>

引用元:Movie Walker
柳楽優弥が“世界的アーティスト”北斎役に挑む『HOKUSAI』撮影現場に潜入取材!<写真18点>

代表作「冨嶽三十六景」などで知られ、“10世紀最大のアーティスト”と評される浮世絵師・葛飾北斎の生涯を、独自の視点と解釈をもとに描いた映画『HOKUSAI』(5月29日公開)。平均寿命が40歳と言われている江戸時代で、享年90歳という長寿人生を送った北斎の青年期を柳楽優弥、老年期を田中泯が演じることでも注目を集めている本作の、撮影現場を取材した。

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■ 柳楽優弥、阿部寛らの熱い演技合戦が繰り広げられる京都・太秦へ

潜入したのは、クランクインから2週間ほど経った頃、昨年6月某日の松竹京都撮影所。『探偵はBARにいる』シリーズの橋本一監督のもと、絵師として芽が出ずくすぶる北斎(柳楽)と、北斎の才能を目覚めさせた稀代の版元・蔦屋重三郎(阿部寛)の関係性を描く、青年期パートの撮影が行われていた。

この日の撮影場所は、スタジオ内に建て込まれた、重三郎が御用達にする吉原の遊郭・美乃屋のセット。“北斎ブルー”を彷彿させる波打った壁面と、窓から覗く満開の桜のコントラストが印象的な宴席だ。ここで撮影されるのは、青年期の北斎にとって重要なシーンの1つ。蔦屋耕書堂で作家や絵師たちの作品を巧みに売り出していた当時の“名プロデューサー”重三郎と、彼に見出された“美人画の天才”喜多川歌麿(玉木宏)、“歌舞伎画の新星”東洲斎写楽(浦上晟周)が集う宴席。そこで、北斎の絵師としてのプライドをへし折られる出来事が起こる。

どっしりとした佇まいで宴席の中心にいる重三郎役の阿部と、世間から脚光を浴び始めた写楽の初々しさを表現する浦上。そして、下座に座る柳楽は、鬱屈とした思いを抱える北斎を体現。そこへ、大人の色気を携えた歌麿役の玉木がやって来る。台詞の掛け合いよりも、表情や目線で感情を表現するカットが多いのが本作の特徴でもあり、様々なカット割りを試しながら入念に撮影は進んでいった。

企画から本作に携わっている作家・河原れんのオリジナル脚本は4章構成で、各章のコンセプトは当初、春夏秋冬を想定していたのだそう。「青年期は春をイメージして美術セットも用意したのですが、やはり役者たちの熱量がすごいので、すでにギラギラとした夏のような雰囲気を醸していますね」と、現場ならではのうれしい誤算を吐露したのは、中山賢一プロデューサー。「90年以上生きた人をどう描いていくのか、映画としてコントラストをつけるために、北斎が安定していた中年期の23年を敢えてすっぽり抜きました。その分、台詞もすごく端的なものになっているので、全部重みがあるんです。それをどう映像化するか、志を高く持っていないと上手くいかないなという難易度の高い脚本です」と語るとおり、橋本監督と試行錯誤を繰り返しながら、役者とスタッフが一丸となっている熱気が感じられる撮影現場だった。

■ 北斎の生涯を描くキーワードは“波”

様々な流派で絵を学び、生涯で3万点以上もの作品を描き残したという北斎。“赤富士”や「北斎漫画」といった世界的代表作がありながらも、本作でフィーチャーしたのは北斎の描いた“波”だと中山プロデューサーは語る。「企画・脚本の河原さんから『江島春望』、『冨嶽三十六景』の一つ『神奈川沖浪裏』と、『男浪』『女浪』の2連作からなる『怒涛図』の3つの作品で北斎の人生を描きたいと相談を受けました。歳を重ねる毎に迫力を増す“波”を3枚並べてみた時に『きっと当時、水を形にするという概念は北斎が初めてだったのではないか。そこで北斎は何を見てきて、彼には何が見えていたのか?』そんな視点から北斎を描けないかと考えました」。

本編のクライマックスに登場する『怒涛図』の場面では、照明の佐藤宗史氏の提案により、上から水槽を吊るしそこに光を当て「波の中で描いている感覚」を表現したという。ゆらめく光と筆の動き、鮮やかなブルーが“波”を形づくっていく様は圧巻で、力強い印象を残すシーンに仕上がっている。

フィーチャーされる3作品のほかにも、劇中では100枚以上の浮世絵が登場する。「本物をご提供していただけるという話もあったのですが、やはり年代が経っていて褪せてしまい当時の色とは違う状態でした。今回はアダチ版画研究所さんにご協力いただき、コピーではなく本作のために新たに浮世絵を版で刷ってもらい、特に北斎や歌麿、写楽らの作品は昔の技法に沿ってつくられたものを映しています」(中山プロデューサー)。

■ “新しい時代劇”を象徴するような美術セット

そんな本作が目指すのは“新しい時代劇”とあり、美術セットでは、従来の時代劇にはない鮮やかな色づかいが用いられている。「時代考証とは合っていない部分もありますが、きっと江戸時代はもっと派手であったろうという思いでつくっています」と話す中山プロデューサーらのオファーで、本作の美術監督を務めたのは、『累-かさね-』、『OVER DRIVE』(共に18)などの相馬直樹氏だ。

この日公開された美乃屋の宴会場と、喜多川歌麿が住まう座敷は「和のテイストをあえて意識せず、波を模したスウェーデンの外壁や、プラハにあったピンクの内装のカフェを参考にしています」という相馬氏。歌麿の部屋は、内壁が全面ピンクで塗られ、カラフルな孔雀の絵がダイナミックに天井まで伸びており、この内装で美人画の才能に長けていた歌麿の“色気”を表現しているのだそう。

“新しい時代劇”の風は、見たこともないようなカメラアングルや動きのある画面からも感じることができる。「相馬氏が手掛けたデザインをいかに撮りきるか」をテーマにしていたという橋本監督と撮影チームは、ぐるりとカメラを180度回転させて、その美しい孔雀の間全体をスクリーンに映しだす。

一方、数えきれないほどの引っ越しをしていたと言われる北斎の部屋も「彼の心情を表したものにしたい」(相馬氏)ということで、青年期は芽が出ずもがいている苦悩を、老年期は様々なものをそぎ落としたような心情を表現したセットを制作。有名になり始めた頃の北斎が住む長屋の部屋から部屋を俯瞰で捉えた壮観なショットは、本編の見どころの一つと言えるだろう。「冨嶽三十六景」でも有名な“北斎ブルー”の色づかいは、晩年の家で登場する。どのように扱われているのかは、ぜひ劇場で確認してほしい。

■ 「阿部さんは目指したい俳優」、「柳楽くんは吸収力が高い」と互いの印象を明かす

「阿部(寛)さんから、志津屋のパンの差し入れをいただきましたー!」という掛け声と拍手が鳴る中、撮影は昼休憩へ。その合間に、青年期の北斎を演じる柳楽と、蔦屋重三郎役の阿部にも話を伺った。

「北斎の若い頃の史料ってそこまで残っていないので、どんな人物だったのか最初は迷いました。でも、監督と『今回の作品なりの北斎像をつくっていきましょう』と話していろいろ試しています。撮影前には、絵の練習もけっこうしました」という柳楽と、「侍役は何度も演じているけど、町人役というのは非常に新鮮でした。“はんなり歩く”というのが得意じゃないと自分でもわかっていたので、粋な風情を出すために日本舞踊を少し習いました」と語る阿部。北斎を題材にした作品で、青年期の北斎や蔦屋重三郎との関係にスポットが当たるものは珍しく、2人共に撮影前に役へ入る準備を済ませたうえで、現場で試行錯誤を繰り返しているのだそう。

今回、意外にも初共演となる2人。阿部が柳楽の印象を「“目”がいいですよね。本番になると急にスイッチが入って、スポンジみたいに吸収して柔軟に対応できる。本当に芝居が好きなんだな、と感じますね。柳楽くんの『誰も知らない』(04)を観て、しばらくしてから僕も是枝(裕和)監督の作品に出させてもらっていたので、そういう意味では少しシンパシーを感じます(笑)」と語ると、柳楽もうれしそうに「(阿部主演の)『海よりもまだ深く』(16)が大好きなんですよ。表情がアル・パチーノに似ているんですよね!阿部さんは、『ここどうしたらいいですかね?』といろいろ相談できる、目指したい俳優さんです」と自然体な姿をさらけ出してくれた。

是枝作品といえば、昨年『万引き家族』(18)で脚光を浴びた事務所の後輩・城桧吏も出演している。「僕に『似ている』と言われることが多くて、撮影したシーンの映像を見せてもらったら、『言おうとしていることはわかるな』と(笑)。現場では会えていないので、いろいろ話してみたい。魅力的な雰囲気の子だと思います」と柳楽。一方で、老年期を演じる田中泯に対しては「泯さん演じる晩年の時代が、世間一般によく知られている北斎像なのかなと思います。まだ老年期は撮影前ですけど、泯さんが北斎を演じている画がすぐイメージできました。なので、そこに引っ張られず僕は青年期をどう演じられるかに日々向き合っています」と、あえて意識はせず演じているそうだ。

「北斎は日本人で唯一、(米LIFE誌で)1000年で偉大な業績を残した100人のうちの1人に選ばれたというすごい存在。そんな人を演じさせてもらっていて、本当に光栄です」(柳楽)、「いま北斎ブームが再来しているので、そういった作品に携われることがうれしい」(阿部)と、日本が誇る世界的アーティスト・葛飾北斎を描いた作品に参加している喜びと緊張感の両方を抱えながら、撮影に臨んでいる様子の2人だった。

2020年は北斎の生誕260周年という記念イヤーでもあり、世界からも注目を集めるであろう本作。“新しい時代劇”を目指すスタッフと役者たちの熱量が注ぎ込まれた、『HOKUSAI』の公開を楽しみに待ちたい。(Movie Walker・取材・文/トライワークス)