世界観を最重視するゲーマーに強く推奨したいゲーム『ジラフとアンニカ』レビュー

引用元:IGN JAPAN
世界観を最重視するゲーマーに強く推奨したいゲーム『ジラフとアンニカ』レビュー

ときどき、ずっと優しい笑顔を浮かべながらプレイしてしまうゲームがある。例えば『ゼルダの伝説 夢をみる島』はそんなゲームだったのだが、『ジラフとアンニカ』も僕にとってはそんなゲームになった。簡単に言えば、僕はこのゲームに恋してしまった。

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本作は国産のインディーゲームで、猫耳少女のアンニカとしてスピカ島という舞台を冒険するアクションアドベンチャーゲームだ。このクオリティーの3D環境を自由に歩き回れる日本のインディーゲームは珍しく、メトロイドヴァニア(探索型横スクロール)のようにどんどん広がる箱庭のデザインも極めてタイトに練られている。決して広いマップではないし、島の人口密度も低い。住民は10名程度だし、建物は住民の数よりもさらに少ない。
だが、ゲームとしてみたときに、むしろ密度の濃いマップとなっている。調べられるオブジェクトは豊富にあるし、インタラクションも多い。ゲームの冒頭でベンチを見つけて、近づいてみると座れることがわかった。この時点で少し珍しいが、座るとアンニカが足をぶらぶらさせるリッチなモーションが入り、しばらく待つと可愛らしい鳥がベンチの背もたれに乗ってきた。なるほど、と僕は思った。

ゲームを起動してほんの数分で、『ジラフとアンニカ』がどういうゲームであるのか少しわかった気がした。ベンチがあれば座れるし、太鼓があれば叩ける。楽譜があれば歌を歌えるし、畑にニンジンが育っていれば引っこ抜ける。こうしたインタラクションはゲームをクリアするためにやらなくていいし、特に意味をなさない場合が多い。だが、その1つ1つがアンニカというキャラクターの可愛らしさを描写しており、楽しそうに太鼓を叩いている姿を見守るだけでなんだか幸せな気分になれるゲームなのだ。

操作性の良さやアクションの面白さにフレームレートなどに関して言えば、『ジラフとアンニカ』はやはりインディーゲームであり、大手デベロッパーによるゲームと比べると明らかに見劣りする。だが、それはさほど重要ではない。雰囲気作りの圧倒的なセンスが欠点を十分にカバーしているからだ。顔出しパネルに顔をはめられる時点で、勝負はついていたように思う。
家の前に干してある洗濯物を調べるという些細なディテールを1つとっても、探索による雰囲気作りの秀逸さがわかる。最初に訪れる家の前に干された服は紫色のものが多いので、アンニカは「紫が好きなのかな?」とコメントする。だが、大家族が住む別の家の前に干してある服を調べると「カラフルだね~」という感想になる。調べられるオブジェクトの1つ1つについてアンニカは唯一無二の感想を言い、たとえ本棚であっても同じ感想は1度も見ていない。各地に配置されている、しゃべる猫の彫刻のセーブポイント「セーブさん」でさえ、すべて違うセリフが用意されているし、やりこみ要素として30個隠されている「猫絵」についても見つけるとアンニカはそれぞれオリジナルの感想を言う。些細なことに聞こえるのかもしれないけど、丁寧に用意されたセリフの数々によって、アンニカというキャラクターは立ってくるし、環境も生きてくる。

モーションも豊富で、船に乗っていると遠くを眺め、大雨の中を進むと手をかざしながら歩く。待機モーションもシチュエーションに応じたものがいくつもあり、細かいディテールが好きな人にはたまらないだろう。
アンニカだけでなく、島や住民も生きている。それは、時間がリアルタイムで経過するおかげだ。ゲームの途中からは懐中時計を入手することもでき、装備すれば何時になっているのかがわかるのだが、キャラクターたちは時間帯によって別の場所にいることも多い。時間が変われば瞬間移動するのではなく、彼らが歩いて目的地へ向かう姿を見ることもできる。朝、砂浜で日が昇る絶景を満喫するアンニカの後ろに、うさぎのキャラクターがぴょんぴょんこちらへやってくる姿を見ていると、それはただの絵ではなく、生きた世界になる。NPCの歩くモーションが少し粗いのは残念だが、それでも十分に説得力のある描写だ。天候はもちろん、音楽も時間帯と合わせて変化していき、スピカ島の様々な「顔」を見せてくれる。ただでさえ幻想的な美しさの景色や可愛らしいキャラクターたちに加え、優しい音楽でさらに癒やされることとなった。

時間システムは雰囲気作りに貢献しているだけでなく、特定の時間帯でないと会えない人や発生しないイベントも多い 。