2月大歌舞伎は松嶋屋父子3代魅せる めったにない演劇体験

2月大歌舞伎は松嶋屋父子3代魅せる めったにない演劇体験

 今月の歌舞伎座は昼の部で、十三代目片岡仁左衛門の27回忌追善として、「菅原伝授手習鑑」のなかの、菅原道真一家に関係のある「加茂堤」「筆法伝授」「道明寺」を続けて上演している。

 十五代目仁左衛門が父を継いで菅丞相を初めて演じたのは1995年、孝夫の時代。以後、5年に一度くらいのペースで演じてきた。

 仁左衛門、その息子・孝太郎、孫の千之助と父子3代が揃い、さらに兄の秀太郎と、長く共演してきた玉三郎も加わる。舞台上の一族と、役者たちの人間関係はそのまま同じではないが、息の合う仲の役者たちによる座組だ。しかし、馴れ合いにはならず、適度な距離と緊張感がある。

 若い2人の密会という、ほほ笑ましいシーンで始まった物語は幕が進むにつれて深刻になり、「道明寺」でそれは頂点に達する。静かなシーンが続き、まさに針が落ちても聞こえる感じ。客席も緊張感で張り詰める。

 歌舞伎ではなく、ストレートプレーを見ている感覚になる。極度に抑制され、大げさにならない。歌舞伎特有の誇張がない。それでいて、やはり歌舞伎以外のなにものでもない。

 めったにない演劇体験が得られる。最近は空席の目立つ歌舞伎座3階席も埋まっていたから、ファンは見逃してはいけないと分かっている。

 仁左衛門の菅丞相そのものが5年に一度なのだから、今回見逃すと、次は5年くらい先だろう。千之助の苅屋姫は今回が初役。まだ大学生で、今後、立役になるのか女形になるのか、模索している時期だ。自分のせいで養父である菅丞相が失脚し、責任を感じながらも何も出来ない苅屋姫の心情が、多分、千之助のいまの心境とシンクロしている。

 そして玉三郎の覚寿。菅丞相の伯母であり苅屋姫の実母という老婆の役なので、いつもの「美しい玉さま」ではない。演技力で見せる。

 菅丞相と覚寿は、ほとんど視線を合わせない。それなのに、統一感のある舞台になる。半世紀にわたる共演の積み重ねが可能にした「距離感のある共演」である。

 夜の部は片岡我當が久しぶりに出る「八陣守護城」、玉三郎と勘九郎の舞踊劇「羽衣」、菊五郎の「人情噺文七元結」、梅玉・秀太郎の「道行故郷の初雪」と、盛りだくさん。

(作家・中川右介)