【JAEPO 2020】“ゲーセンの未来”は体感できたのか? JAEPO 2020総括レポート

引用元:Impress Watch
【JAEPO 2020】“ゲーセンの未来”は体感できたのか? JAEPO 2020総括レポート

 2月7~8日の2日間にわたり開催された、年に一度のアーケードゲームの見本市、JAEPO2020(以下、JAEPO)。本稿では、今回展示された各ゲームやコーナーの内容とその特徴、および来場者の反応などから見えたこと、気付いたことなどをまとめて振り返ってみたい。

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■キャッチコピーとのズレにはやや疑問が残るも、新作マスメダルゲームの良作ラッシュは朗報

 今年のJAEPOのキャッチコピーは、「ゲーセンの未来を体感しよう」であった。だが、その言葉とは裏腹に新作タイトルの出展は少なく、すでに各地のゲームセンターで稼働しているタイトルばかりだった印象が強い。日々ゲームセンターに足を運んでいる者から見れば、「これのどこが未来なんだ?」と思わずツッコまずにはいられない出展内容だった。

 今回はとりわけ新作ビデオゲームの出展が少なかったものの、メダルゲームの新作が注目されて長蛇の列ができたことは、ひとつの大きな光明であったように思う。特にマスメダルゲームは良作ぞろいで、「海物語 ラッキーマリンツアーズ」(バンダイナムコアミューズメント)、「スマッシュスタジアム」、「DUEL DREAM」(ともにコナミアミューズメント)、「星のドラゴンクエスト キングスプラッシュ」(タイトー)は、ビジネスデイも一般公開日も多くの人を集めており、まさにジャックポット(大当たり)状態であった。

 また、ゲームセンターを経営するオペレーターにとっても、JAIAの統計資料によればメダルゲームのオペレーション売上高(※ゲームセンターでゲーム機を稼働させたことによって得た売上)は年々下がり続けていることもあり、新たな集客を見込める新作メダルゲームのリリースは、まさに願ったりかなったりであろう。

【新作マスメダルゲームは充実のラインナップに!】

 ちなみに今年の入場者数は、主催者であるJAIA(日本アミューズメント産業協会)の発表によると、2日間合計で15,241人。2016年の入場者数は17,053人なので、残念ながら4年前に比べて約2,000人減少したことになる(※)。今回に関しては、新型肺炎発生の影響は少なからずあっただろう。だが、今回から「闘会議」との合同開催をやめ、出展タイトルが既存のものばかりとなったことによって、長年のアーケードゲームファンにも、合同開催を機にJAEPOの存在を知った若い客層にも関心を持たれるイベントにはたしてなっていたのかどうか、主催者も出展者も検証する余地があると思われる。

※2017年~2019年の間は、niconico(ドワンゴ)やJeSU(日本eスポーツ連合)との合同開催・集計となったため比較対象から外した。ちなみに、昨年開催の「JAEPO×闘会議×JeSU 2019」入場者数は、3日間合計で84,214人。

【新型肺炎の影響も】
■3つのキーワードをもとに、今年のJAEPOを改めて振り返ると?

 JAEPOの開幕前日、2月6日に掲載した拙稿「いよいよ開幕! 新作アーケードゲームの見本市『JAEPO2020』」にてご紹介した、今年のJAEPOにおける3つのキーワードのうち、最初に挙げたのは「『eスポーツ』のムーブメントを取り込めるのか?」であった。

 今回の出展のなかで最も期待できそうなのが、今年5月に開幕予定のeスポーツプロリーグ、「BEMANI PRO LEAGUE」を紹介したコナミブースでのステージイベントと、本リーグに使用される「beatmania IIDX 27」の出展だった。音楽ゲーム初のプロリーグ開催という話題性だけでなく、プロゲーマーはゲームセンターを経営するオペレーターが作ったチームと契約することによって、メーカー、プレーヤー、オペレーターが三位一体となり、アーケードゲーム業界に新たなムーブメントを生み出す可能性を大いに示してくれたように思う。また、8日の一般公開日には毎年恒例の実力ナンバーワンプレーヤー決定戦、「『beatmania IIDX 27 HEROIC VERSE』The 9th KAC 決勝大会」が行われたが、こちらもたいへんな盛況で、来たるプロリーグの開幕がますます楽しみになった。

 だが、たいへん残念なことに、「BEMANI PRO LEAGUE」以外にeスポーツ関連でこれといった出展はなかった。奇しくも、初日のビジネスデイと同日には、同じ幕張メッセで「第3回 スポーツビジネス産業展」が開催され、eスポーツ関連団体やゲーミングPCメーカーなどが多数出展していた。さらに翌8日は、「LJL 2020 Spring Split」の開幕戦と日程が重なったという事情もあっただろうが、eスポーツ関連企業や団体の姿が見えないのはちょっと寂しかった。次回は彼らもJAEPOに取り込んで、アーケードゲーム業界は新しい遊びのトレンドを発信していることを、ぜひ多くの人たちに見せてほしい。

 筆者がアーケードゲーム関連機器の開発・販売会社の出展者に、「eスポーツ関連の需要は何かありますか?」と尋ねたところ、「最近はいわゆるアケコン用に、自分に合ったレバーやボタンなどの部品を購入する個人のお客さんが増えている」と教えてくれた。今やアケコンが接続できるアーケード用ビデオゲーム筐体が登場する時代になった以上、まずはアケコンの販売・プロデュースを手掛けるeスポーツ関係者からアプローチする手はあるかもしれない。

 なお、「BEMANI PRO LEAGUE」については、別途取材した内容をまとめた記事を近日公開する予定なので、こちらも掲載された際は、ぜひご覧になっていただきたい。

 前述の拙稿で挙げた2つ目のキーワードは、「メダルゲームの“電子化”がさらに進むのか?」であった。活論から言うと、昨年11月から稼働を開始し、業界初の完全電子化を実現したセガの「スターホース4」以外の出展はまったくなかった。

 今のところは、「スターホース4」が稼働してから日数がさほど経過していないこともあり、セガもそれ以外のメーカーも、まずは「スターホース4」の稼働状況を見たうえで、これから完全電子化タイトルを出すかどうかを検討するという段階なのかもしれない。とはいえ、プレーヤーから見れば重たいメダルを持ち運ぶ手間が省け、店舗側にとっては、メダルの管理コストを削減したり、スタッフの人員不足を助けるなどのメリットが得られるであろう、メダルの完全電子化は今後も大きな業界のテーマになると思われる。

 前述したように、新作マスメダルゲームが豊作で、またコナミブースではパチスロ系のシングル(1人用)メダルゲームにも長蛇の列ができ、大手メーカー以外のキッズ用メダルゲームを並べた各社のブースも総じてにぎわっていた。電子化の有無はさておき、メダルゲーム全般の出展状況という視点で今回のJAEPO振り返ると、総じてポジティブであったと言える。

 3つ目に挙げたキーワードは、「現代のゲームセンターの“命綱”、プライズゲームの未来やいかに?」であった。

 筆者が見て回った限りでは、今までにない遊び方やサービスを実現させた、新作プライズゲームおよび景品は特になかったように思う。だが、毎年恒例のプライズゲームが無料で遊べる「プライズフェア クレーンゲームフリープレイコーナー」は今年も大盛況で、元現場経験者である筆者としても実に喜ばしかった。

 また、前掲の拙稿では、PCやスマホ用アプリでプライズゲームを遠隔操作して遊べる、オンラインクレーン(プライズ)ゲームと競合した場合は、業界全体がたいへんな危機に陥るだろうとも述べた。この点について、数社のプライズゲーム出展担当者に話を伺ったところ、いずれも現段階では「脅威にはならない」との見解だった。また某社のスタッフは、以前にオンラインクレーンゲームの運営会社から、「中古のプライズゲームを売ってくれないか?」という商談を実際に受けたことがあったそうだが、「オンラインクレーンゲームとゲーセンとの間で、ユーザーの取り合いにはならないと思う」とも話してくれた。

 その一方、「最近はプライズゲームが増え過ぎて、小さい子供でも遊べるようなゲームが減っている」ことを指摘する出展者もいたが、幸い近年のプライズゲームのオペレーションを売上高は、JAIAの統計資料を見ると上昇傾向にあるというデータが出ている。実際、大手メーカー以外の小規模なブースでも、キャッチした景品が実際にもらえる、もらえないにかかわらず、プライズゲームには多くの来場者が遊んでいた印象を受けた。

【今年も大人気の「プライズフェア クレーンゲームフリープレイコーナー」】
■次回からは「ゲームセンター体験コーナー」の開設を!

 繰り返しになるが、新作メダルゲームと、「プライズフェア クレーンゲームフリープレイコーナー」の盛況は、まさに大収穫であった。またメダルゲームにおいては、企業ブースとは別に用意されていた、新旧メダルゲームが無料で遊べる「メダル体験コーナー」にも多くの来場者が参加したようだ。このようなフリープレイや体験コーナーは、とりわけ普段アーケードゲームに興味がない、あるいは遊びたくても近所にゲームセンターがない人に対して、ゲームに直接触れて興味を持ってもらうためのきっかけ作りには大いに役立つと思われるので、今後もずっと運営を続けてほしい。

 来年の2021年は、空前の対戦格闘ゲームブームを巻き起こした「ストリートファイターII」が登場して30周年となる節目の年にあたる。これを機に、次回はプライズ、メダルゲームにビデオゲーム、さらにはシール機やキッズ用乗り物なども加えた、オールジャンル対応の「ゲームセンター体験コーナー」に拡充すのもひとつの手かもしれない。町のゲームセンターをそのまま再現したコーナーを設けることで、初心者でも親子でも楽しめる、アーケードゲームならではの楽しさとはいったい何なのか? その原点を体験できるようなアーケードゲーム、あるいはゲームセンターの過去と現在、未来をつなぐ場をぜひ作っていただきたい。さらに、来場者が自宅の最寄りのゲームセンターはどこにあるのか、あるいは興味を持ったゲームはどこの店に行けば遊べるのかを、その場で検索ができるコーナーも設けられれば理想的だ。

 今後もJAEPOには、現代のeスポーツを代表とするトレンドもしっかりと取り込みつつ、アーケードゲームは多くの人にとって手軽で楽しい娯楽であることを、展示イベントを通じて末永く広め続けてほしい。

【「メダル体験コーナー」】 GAME Watch,鴫原盛之