【シネマ! ネタバレ注意】佐藤浩市、渡辺謙共演の映画『Fukushima 50

引用元:中日スポーツ
【シネマ! ネタバレ注意】佐藤浩市、渡辺謙共演の映画『Fukushima 50

 ふたつの災害に未曽有の規模で襲われた被爆国、地震国ニッポン。そのとき原発内部では何が起こったのか。インタビュー証言の原作をもとに可能な限り再現したのがこの映像だ。主人公は原発に残ったフィフティ―約50人の所員でもあるし、佐藤浩市演じる当直長でもある。でも、本当は人間の振る舞いに怒り狂った神ではないか。

【写真】海老蔵親子がシンクロ!?同じ仕草で… 【シネマ! ネタバレ注意】佐藤浩市、渡辺謙共演の映画『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』 3・11と同時代に生きる私たちは見ておくべき作品 映像モニター向こうの「本店」と激論を交わす渡辺謙演じる吉田所長  2011年3月の東日本大震災による福島第一原子力発電所事故。門田隆将さんのノンフィクション「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」を映画化。レベル7の大惨事の間近にいた90人以上への取材をもとにしている。「事実にもとづく物語です」と強調したエンドロールが制作陣がかけた思いを伝える。

 「俺はここで生まれ、ここで育った。何がなんでも守りたいんだ。最後になんとかしなきゃいけないのは現場にいる俺たちだ。原子炉の制御をあきらめちゃいけない。分かってくれ」

 「無駄死にする必要はない」と合理的に考える部下に、佐藤の当直長が頭を下げて絞り出す。スクリーンの前のあなたは、予想外の事態にどう対応するのか。ずっと突きつけられているような苦しさがある。

 佐藤には悲劇や苦しみがよく似合う。映像向けの俳優と舞台向けの俳優がいるが、佐藤は映像向けだ。かみつぶした表情が人間のやるせなさを伝える。水素爆発の最悪の事態を選ぶか、ベント作業で放射能の蒸気を放出させるもう1つの悪を選ぶか。誇張のない淡々とした言葉で苦悩を伝えられる数少ない俳優だろう。

 原作タイトルにある吉田昌郎さんは、当時の発電所所長。吉田所長ではなく、原子炉に近い制御室当直長に焦点を当てたのは、より最前線を描きたいという若松節朗監督の意向だ。

 「俺たちは自然の力をなめていた。自然を支配したつもりでいた。慢心だ」

 終盤、渡辺謙の吉田所長が当直長に送った手紙の一節だ。吉田所長は事故の2年後に亡くなっている。避難所の女性は「こんなとこに原発なんてつくっから」、幼少期の当直長は「父さん、もう出稼ぎにいかなくていいの?」。渡辺の吉田所長は「ふざけるな、死ねと言うのか」と「本店」に怒りをぶつける。原発を取り巻く何十年もの人々の思いを映画が代弁する。

 ベテラン俳優のフクシマ再現に、煙を上げる発電所、押し寄せる津波のリアルな描写。牙をむく一面を無視してなぜ原発は国の施策となったのか。事故後の9年間は正しかったのか。硬いテーマだが、3・11と同時代に生きる私たちは見ておくべき映画だ。