矢崎広に生駒里奈「負けないぞ!」難しい再演舞台への挑戦

引用元:Lmaga.jp
矢崎広に生駒里奈「負けないぞ!」難しい再演舞台への挑戦

宇宙飛行士・毛利衛原作の『モマの火星探検記』に劇団・少年社中の宇宙ファンタジー作品の要素を織り込んだ同タイトルの舞台が全国を巡回。大阪公演が、2月7日より「サンケイホールブリーゼ」(大阪市中央区)で幕を開けた。

【写真】自分の思いを話す矢崎広と生駒里奈

父親との約束を果たすために火星探査に出かけたモマを演じるのはグランドミュージカルでも活躍する矢崎広。行方不明になった父にメッセージを送ろうと仲間とともに小型ロケットを飛ばそうと奮闘するユーリを演じるのは、乃木坂46を卒業した生駒里奈。

2017年の上演から3年が過ぎた今、再演という形での新たな役作りに挑むふたりは、「再演は難しい」と声をそろえながらも、今だから見えるものがあると「2020年宇宙の旅」へといざなう。

取材・文/岩本 写真/渡邉一生

「以前の自分がベース、すごく苦しい」(生駒)

──まずは再演が決まったときの印象と、東京公演を終えてみてのご感想を教えてください。

矢崎「またあの世界に戻れるといううれしさと喜び。と同時に、今度自分が挑戦するときにどういった『モマの火星探検記』になるんだろうという・・・。不安ではないのですが、今、演じたら自分はどういうモマを作れるのだろうかと、何か自分に期待するような思いでした」

──「自分に期待する」とは?

矢崎「役者としていろんな戯曲や作品に出て、年齢も当時の自分よりは歳を取っているところで、単純に言えば20代にやっていたパフォーマンスじゃないものにしたいなっていう思いが強くありました」

──生駒さんはいかがですか?

生駒「再演があると聞いたときは純粋にうれしくて。また挑戦できてうれしかったですが、稽古に入って恐れていたことがあって」

──それはどんなことが?

生駒「2020年バージョンの稽古をやっていくうちに、2017年は自分がとてつもなく純粋で、一生懸命やっていたんだなって。当時は芝居の技術もないですし、大きい声を出すっていうことだけも精一杯で。でもそれがすごくユーリらしさにつながっていて。今回、あのときの自分がベースになっていたから、稽古もすごく苦しくて」

──2017年のユーリに引っ張られていると。

生駒「再演ということが私は初めてだったので、ベストを出した自分の役をどう良くしていくかが難しかったです。でも、それを助けてくれたのが新キャストのみなさんで。私は子どもチームですけど、宇宙飛行士チームの稽古を見ながら、『全部つながっている』をキーワードに、また新しくつながりが見えてきました」

──なるほど。矢崎さん、先輩から再演に挑むアドバイスはありますか。

矢崎「再演は僕もあんまり得意じゃなくて。初演は別の俳優さんが演じられていれば、自分の得意分野で勝負できるんですけど、前回と勝負する人が自分となると、自分の方向性を突きつめていくしかなくて。それは自分否定でもある。毎日、『本当にその表現で大丈夫か』と自問自答の繰り返しでした」

「勝手にテンションが上がります」(矢崎)

──先ほど生駒さんから「つながり」というキーワードが出ましたが、ユーリはお母さんとの関係性も描かれてますよね。

生駒「自分が中学生のときを思い出すと、ユーリのことがすっごい分かっちゃって。大人の考えも分かっちゃうけど、子どもだから分からないこともある。『お父さんの話をするとお母さんは不機嫌になるけど、それ以外は超仲良しなんだろうな』とか、そういうことを考えてながらやっています。でも、そう考えても全然、通用しない日もあります」

──そうなんですね。なぜ通用しないんでしょう。

生駒「お母さん役の大竹えりさんとのその日のフィーリングもあるし、私の考え方もあるし・・・」

矢崎「お客さまの反応によっても全然違いますよね。僕も『オープニングチェイス』でスタートが決まっちゃうところがあって。このシーンでは宇宙飛行士役の出演者がばーっと集まって踊るんですけど、それでみんなの感じが分かるというか。俺もそれに乗って『今日はこんな感じで行くからよろしく!』って」

──オープニングチェイスは圧巻ですよね。ダンスもあるし、輪になって声をそろえて、ケチャのような恍惚感もあります。

矢崎「オープニングチェイスは宇宙にロケットを飛ばすというシーンで、『モマの火星探検記』の見せ場でもあります。それを楽しみに来てくれるお客さんもいるぐらいで。僕も、その日嫌なことがあっても忘れられるくらい、勝手にテンションが上がります」

生駒「あのオープニングチェイスの後に、私たち子どもチームの芝居が始まるんですけど、毎回、「ふ~」って呼吸を整えます。気持ちを作らないとあの熱い空気に負けちゃうんです」

矢崎「ロケットがドカーンと飛んで、暗転を挟んで子どもチームの静かなシーンが始まりますもんね」

「負けないぞ!って思いながら(笑)」(生駒)

──この作品は、子どもチームの「ユーリの物語」と、宇宙飛行士チームの「モマの物語」が交互に進みます。交互にバトンを渡す空気はどのように作られているんですか?

矢崎「次のシーンに空気を置いていくつもりでいます。引き継ぐときは前のシーンにあった空気を使ってどうするかと考えますね」

──どういうふうに置いていくんですか?

矢崎「子どもチームのコンディションなどを加味して。たとえば、笑いのシーンだとしたら、次に自分が笑いを取らないといけないときは前の場面でちょっと温めておいてくれた方が助かるな~とか(笑)。でも、盛大に空振りしたら『よーし!』って気合が入るし、逆に自分がスベったときは『はい、後はよろしくお願いします』って丸投げするみたいな(笑)」

生駒「私は何も考えていないです(笑)。ただ、それはユーリだから。ほかの作品で主演とかだったら違うと思いますが、今回はもう何も考えないで、まずユーリに集中してやらせてもらえます。特に『モマ』では、前のシーンからもらいすぎるとダメなんです」

──ダメ?

生駒「気持ちをもらいすぎるとダメになっちゃうから、袖で待っているときも目をつぶっていることがあります。でも反対に、なんとかこの流れを掴んで、空気を上げなきゃ、責任をもってやらなきゃって思う日もあります。客席がモマに持っていかれている状態で子どもチームの世界を描かなきゃいけないときは、『負けないぞ!』って思いながら(笑)」

矢崎「何で『負けないぞ!』って思うのよ(笑)。勝ち負けじゃないから、手と手を合わせようよ!」

生駒「手と手は合わせてるんですけど(笑)、生駒里奈として『負けないぞ!』と。ただ、ユーリは自由に駆け回ることができていますし、ユーリが調子悪いときはお友だちが助けてくれて、お友だちが大変そうだったらユーリが助けたりと、役の上でのチームワークもあるし、役者+役でのチームワークも出来上がっていて、そういうことを毎日やれるのもすごく楽しいです」

矢崎「確かに、今回のメンツは本当に頼もしくて。2017年は自分を見せたい、自分のモマを見せたいという思いがとても強かったんですけど、それが一切、なくなって。みんなでモマを作りたい、みんなに僕のモマ像を作ってもらいたいと。サッカーで例えるなら、生駒ちゃんがそういう思いでフォワードをずっと走ってくれているからこそ、僕が司令塔として後ろから見ているという感じがします」

「パワーアップした生駒里奈がいる」(矢崎)

──3年の間に生駒さんの成長ぶりも分かりますか?

矢崎「はい。生駒里奈という女優は、舞台であがいている昔の僕にすごく似ていて。そのうちここに来ると思うのですが(笑)。お客さまともいい会話の仕方をしていて、どんどん殻が破けているし、そこは見ていて楽しいですね。あと、僕が持っていないことを彼女は持っていたりするので、純粋にすごいなって、その部分は普通に盗んでます。似てるっていうのは、今のところ似てるっていうだけだよ!(笑)」

生駒「矢崎さんもそうだと思うのですが、自分が間違っているときにちゃんとだめだよって言ってくれる先輩たちがいるからこそ、暴れられるというか。試していいよ、やりたいようにやりなさいっていうところがあるから、やれていますね」

矢崎「自分にはこれだけの幅があると思って、その幅をぶち壊そうと一生懸命やっているけど、そもそもの方向が違っていることもあります。でもそれって、やってみないと分かんない。そうやって生駒ちゃんがあがいている姿はとてもユーリに似ているし、2017年とは明らかに違う、パワーアップした生駒里奈がいるなと思って見ています」

宇宙空間にいるモマと、北国という地上で暮らすユーリという、ふたりの世界を交互に描きながら、まるで惑星の配列が一直線になるように、それぞれの思いが重なりあってゆく同作。大阪公演は「サンケイホールブリーゼ」(大阪市北区)にて、2月7日から11日まで。チケットは8800円。