東山奈央がニューシングル「歩いていこう!」をリリース「楽しく歩いていこうという、スタートダッシュにピッタリな1枚になりました」【インタビュー後編】

東山奈央がニューシングル「歩いていこう!」をリリース「楽しく歩いていこうという、スタートダッシュにピッタリな1枚になりました」【インタビュー後編】

 『恋する小惑星』のOPテーマ「歩いていこう!」を歌う東山奈央がメガミマガジンに登場。自身も出演している『恋する小惑星』の魅力や、楽曲について語っている。「超!アニメディア」では、本誌で紹介できなかった部分も含めた、ロングインタビューをお届けする。今回はインタビューの後編をお届け。――カップリングは、歌うのが大変な部分もあったのですか?

 もともとアルバムみたいなシングルを作りたいと思っていることもあり、これまでもカップリングは振り幅のある曲を選んでいたんです。それに加えて、今回は自分が歌えるかどうかということよりも、まず気に入った曲を選ばせていただいて。なので結果、選んだはいいけれど、歌いこなせない、という事態に直面しました(笑)。

――なるほど。ぜひ、それぞれの曲について聞かせてください。まずは「Last season」から。

 この曲は、切なさとか夢の儚さみたいなものを表現しているんですが、主張がハッキリしていない曲なんです。行間を読ませる歌詞が気に入って選ばせていただいたので、なんとなく切ないとかなんとなく癒やされるとか、そういうアプローチに挑戦したいなとも思って。

――でも、声優としてのお仕事は、割とハッキリとした発音が求められることが多いですよね。

 そうですね。キャラクターソングを歌うときは、キャラクターの個性をいかに出すかが大事ですし、歌手活動でも自分がこれまで培ってきたものをどう出していくか、表現にどう味を濃くつけるかということを意識してきました。だから、今回のような引き算の歌い方は初めてで。ともすれば、棒読みのようにもなってしまいそうで、味わいのあるボーカルにするにはどうしたらいいかはすごく考えました。

――その結果は?

 どうやって答えを導いたかというと、なんとなく、なんです(笑)。いつも、歌うときはすごく考えるんですが、この曲はとても感覚的な歌になったなと思います。

――それだけ感覚的だと、テイクは重ねましたか?

 実は、そうでもなくて。練習をしていった成果が出たのか、比較的スムーズでした。この曲は、むしろ主旋律のレコーディングを撮り終えたあとに試行錯誤をしました。というのも、私から「ボーカルを二重にかさねたい」とお願いしたんです。ディレクターの方からは、全部じゃないほうがいいかもと言われていたんですが、「だまされたと思って重ねてみてください」とお願いしてやっていただいたら、「いいね」と採用していただけました。

――初回限定盤、通常盤に収録される「Lost Thorn In My Side」は、すごくおしゃれな曲ですよね。

 ダンスナンバーを1曲入れたいなと思っていて、その中でもこの曲はサビの歯切れがよく、声に出して歌いたいなと思ったんです。半音下がるフェイクがすごく艶っぽいんですけど、その大人っぽさをどう出すかというところでちょっと苦戦しました。強い曲ではあるんですが、「強いだろう」という雰囲気を出してしまうと、逆に底が知れてしまうんです。余裕のある大人っぽい強さをどう出せばいいのか、練習を重ねていきました。

――どういう歌い方に行き着きましたか?

 これも引き算でした。どうやったらカッコいい表情になるのかとにかくイメージして、言葉をあえてハッキリ発音しないとか。楽しい歌はハッキリと発音したほうが、メリハリが付いていいんですが、かっこいい曲でそれをやると幼稚に聞こえたりもするんです。

――それで、あえて曖昧に流れるように発音している部分もあるんでしょうか?

 そうです。細やかな発音ひとつひとつにも気をつけて、ちょっと曖昧にしてみたりもしたので、そこに気づいていただけてうれしいです。あと、間奏で電子加工をかけた長いフェイクを入れたんですが、そこは急遽レコーディングスタジオで、「入れたいんですが」と提案させていただいて。ディレクターの方と即興で作曲大喜利みたいな形で作りました。コード進行はすでに決まっていたので、そこにいろいろ案を出してメロディーを組み合わせながら作っていくのがおもしろかったです。

――この曲は、低いトーンで歌っていることも大人っぽさを感じられます。

 もっと太く、低くすることもがんばればできたと思うんです。でも、そこまで強い声質にしてしまうと、私ではない誰かが歌っているみたいになってしまう。あくまでも東山奈央が歌う範疇で説得力があるトーンを探した結果、この歌声になりました。

――ダンスナンバーということは、将来的にはステージで踊ることも念頭に置いている?

 はい。レコーディングでも「踊っているときのグルーヴ感も入れたいから、踊っているつもりで歌ってほしい」と言っていただきました。きっと、今後ライブ映えする楽曲に育っていくと思うので、そこは期待していただきたいです。

――アニメ盤に収録される「FLOWER」は、ポップなナンバーですね。

 この曲は、「歩いていこう!」のアナザーバージョンみたいな印象です。夢は明るいものだけど、切なさや迷いもあるという、両方を力強く歌っているんです。感傷的な部分と明るさのバランスが好きで、ひと聞き惚れをして選ばせていただきました。作家の皆さんからも妥協のない熱量を感じて、私もそれに応えたいという気持ちが強くなり、歌えば歌うほど底力みたいなものが出てくる不思議なレコーディングでした。「歩いていこう!」がやさしさと温かさを歌っているとしたら、「FLOWER」は挫折も知っているけれど力強い、そんな曲になりました。

――「歩いていこう!」のミュージックビデオ(MV)では、コンテンポラリーダンスを踊っているそうですね。

 踊ることは好きなんですが、いままでMVでは踊ったことがなかったんです。「歩いていこう!」はダンスナンバーではないけれど、コンテンポラリーダンスなら合うんじゃないかと思い立ち、提案させていただきました。

――なぜ、踊りたいと思ったのですか?

 リップシンクや表情で歌の世界を表現するのもいいけれど、動作に思いを込めることで、また違った伝わり方をするのではないかと思ったんです。実際に踊ってみて、身体すべてで曲を伝えることができたと思いますし、とても意義深い作品になりました。

――コンテンポラリーダンスの経験は。

 もともとジャズダンスを長くやっていたんですが、今回踊ってみて、どこかでかじったことがあるのかも、というくらいしっくりきました。身体で歌詞を表現することに集中できたのもよかったですね。こういった伸びやかな振り付けはいままでになかったので、視覚的に新しいものになったかなと思います。スカートがひらひら舞うような衣装で華やかさが増していますし、かつどこかで静謐さも感じられるような見応えのある作品になったと感じています。シングルの初回限定盤に付いているメイキング映像では、長尺で振り付けを見ることができるので、ぜひ細かく見たい方にはチェックしていただきたいです。

――東山さんは『恋する小惑星』に桜井美景役でも出演しています。

 桜先輩は、どこか演じていてしっくりくるキャラクターです。でも、性格は全然似ていないんですよね。桜先輩は人見知りがツンに出ちゃうけど、私はおどおどする。彼女は夢がなくて、みんなが夢を持っていることをうらやましく思ったり、自信をなくしたりするけれど、私は小さな夢も大きな夢もいつも持っている。だけど、彼女の行動には理解できないことがなく、言葉も行動も腑に落ちるので、演じていて共感できます。それに距離が縮まるにつれて天然なところが見えるところがかわいいし、地学のことを熱っぽく語る姿はすごく魅力的ですね。

――『恋する小惑星』は、美術的な映像も素晴らしいですよね。

 PVの段階でポップさよりも美しさをより強くしたいんだとわかりますよね。私は、人物の色が淡い感じでやさしい印象を持ちました。きらきらした星や宝石、歴史の感じられる石を見たりすると冒険心をくすぐられるので、この映像を1クール見られるのがうれしくてワクワクしています。

――メガミマガジンは3月号が2020年最初の号になります。東山さんの2020年の抱負は?

 2019年は、チョコがおいしかった、先輩と話せてうれしかった、スタッフの方に褒められた……そういう小さなことにときめきながら、毎日楽しく生きていくのが目標だったんですね。それを踏まえて2020年は……「なんとなく、グッとくる」かな。私は理屈人間で、いつも裏付けがほしいんです。キャラクターを演じるときも自分じゃないものになるんだから、いっぱい考えて練習をしなければと思ってしまう。でも、理屈が過ぎるとアドリブも生まれないし、さらっと考えずにやるほうがいいこともある。私はそれが苦手ですが、今年は計算せずに「なんとなく、グッときた」ことにあらがわない、そんな生活をしていきたいです。

――最後に読者へメッセージを。

『恋する小惑星』という、キャストもスタッフの方も熱意いっぱいの作品に関われたことを幸せに思いますし、みんなで高め合えることが素晴らしいなと感じています。そして、そんな作品のOPを歌わせていただけることがとてもうれしいです。奇しくも私の声優活動10周年のスタートでもあるということで、この1年間、楽しく歩いていこうという、スタートダッシュにピッタリな1枚になりました。シングルを聞いて元気になったり、聞いた方の癒やしになったらうれしいです。ぜひ、たくさん聞いてください。

PROFILE
とうやま・なお/3月11日生まれ。インテンション所属。2017年にシングル「True Destiny/Chain the world」でアーティストデビュー。これまでにシングル3枚、アルバム2枚をリリース。声優としての主な出演作は、『マクロスΔ』レイナ・プラウラー役、『俺を好きなのはお前だけかよ』ツバキ(洋木茅春)役など。

商品情報
『歩いていこう!』
フライングドッグより2月5日発売
初回限定盤:1980円(税込)
通常盤、アニメ盤:1430円(各税込) 野下奈生(アイプランニング)