佐藤浩市&渡辺謙、7年ぶり共演「一緒に走る」覚悟…3月6日公開「Fukushima 50

引用元:スポーツ報知
佐藤浩市&渡辺謙、7年ぶり共演「一緒に走る」覚悟…3月6日公開「Fukushima 50

 俳優の佐藤浩市(59)と渡辺謙(60)が出演する映画「Fukushima 50(フクシマフィフティ)」(若松節朗監督)が3月6日に公開される。東日本大震災で被害を受けた福島第1原発で命懸けの対応をした作業員たちの物語。主演の佐藤は中央制御室(通称・中操)で現場を指揮した当直長・伊崎利夫役、渡辺は吉田昌郎所長役を演じた。事故対応だけでなく、家族や仲間との絆を描いた人間ドラマでもある。日本映画界を代表する名優2人が、作品に込めた思いを語った。

 ―出演オファーを受けた時の心境は。

 佐藤(以下、佐)「そこ(福島第1原発)で起きたことを、知らない人たちにどう伝えるのか。下手に変調したり偏ったものにしてはいけないと強く思いました。若松監督を信頼して、次の世代に語り継ぐバトンを渡す意味で、この映画に参加しようと決めました」

 渡辺(以下、渡)「脚本を読むと再現ドラマでもドキュメンタリーでもない。何に苦しんで、何に立ち向かっていったのか、人間たちのドラマがバックグラウンドを含めて、しっかりと描かれている。だからこそ、より多くの人たちに届けられる映画になるだろうと思いました」

 ―同世代で「浩ちゃん」「謙ちゃん」と呼び合う仲。2013年公開の「許されざる者」以来、7年ぶりの共演となる。

 佐「震災で大切な人を失ったり、傷を抱えている人もいる。俳優の中には出演を悩んだ人もいるでしょう。そんな中で謙ちゃんが一緒に走ってくれる。これは大きい。力強い。手を挙げて『一緒にやろう』と言ってくれたのがうれしい」

 渡「実は『吉田所長役をやりませんか』というオファーは以前からあった。でも、原発と一緒に育って、原発を背負っている伊崎という男を中心に、家族とふるさとも描く。その伊崎役を浩ちゃんがやると聞いたので、『ついていきます』と、すぐに気持ちは固まりました」

 ―撮影に参加して、お互いの印象は。

 佐「吉田所長は、当時のテレビを通じて知っている人が多い。謙ちゃんは単純にマネするのではなく、渡辺謙なりの吉田所長をつくり上げた。独自の吉田所長をつくる苦労があったはず。そこはやっぱり、ミュージカルスターだな(笑い)」

 渡「それ全然、関係ないでしょう(笑い)。浩ちゃんの奮闘ぶりは、僕がクランクインする前から聞いていました。まず、飲み会から始まるんだよね。そのあたりは、地元からの雇用が多い中操っぽいな。ふるさとを背負う感じでね」

 ―若松監督は「中操は浩市さん、緊対(緊急時対策室)は謙さん。みんな両雄の背中を見ていたから、ワンチームになれた」と2人のリーダーシップに感心していた。

 佐「この年になるとね、演じる役柄が中間管理職だったり、どうしても上に立つ人間が多くなる。根が単純なんでね、とりあえず飲み会から始めようと。『これから1か月、2か月よろしくね』と。若い子には、そんなの必要ないよと言われるかもしれないけど。そこは昭和の人間なんで、そこで過ごした時間が、どこかで生かされるんじゃないかと。旧知の間柄という設定だからね」

 渡「緊対では初日に俳優、エキストラがそろったところで意思統一できればと思って『我々の熱量をしっかり映像に刻みましょう』とあいさつしました」

 佐「エキストラも同じ思いでいないと、どこかで破綻していくんですよ。昔、ある映画監督が『邪魔なやつだけ目に入る』と言ってた。そうならないように、最初に、撮影前に言った謙ちゃんの一言がパッと胸に響いた。伝わりましたね」

 渡「エキストラの方々も日を重ねると、ぐたーっと疲れてきた。それが震災直後の原発内みたいにリアルに見えました」

 ―どんな思いで日々、撮影に臨んでいたのか。

 佐「中操は停電で真っ暗の中、防護服でセリフも聞き取りづらい。いろんな悪条件が現場の緊迫感につながった。セリフが不明瞭でも、光る目だけで意思が伝わった。映画の神様がいるなと思いました。スケジュール的にまず僕ら中操のシーンを撮影して、それから吉田所長(渡辺)たちがいる緊対にバトンタッチした。『トラスト・ユー』(信頼している)ですよ。『あとは任せた』ってね」

 渡「実際の吉田さんは中操の様子を見ていないから、僕もあえて見ないようにした。向こうで闘っている伊崎(佐藤)のことを想像することが必要だと思ったから。伊崎と吉田の関係が、僕と佐藤浩市という俳優の関係にマッチした。信頼というか確信だよね。『アイ・トラスト・ユー・トゥー』ですよ」

 ―完成した映画を見たときの感想は。

 佐「試写を見終わって、中操のメンバーたちと、パッと目が合った瞬間に、目が輝いていた。『この映画に参加して良かった』というね。仕事を超えて、参加して良かったなという作品になった。僕自身も、みんなの目を見て感じました」

 渡「想像以上の臨場感でしたね。僕は緊対という、中操よりは安定した場所にいたので、出来上がった映画を見て『外では、こんなことが起こっていたのか!』と初めて知る驚きがありました」

 ―1月23日に地元の福島県からキャンペーンをスタートさせ、復興への思いを再確認した。海外での公開も予定されている。

 佐「福島では実際に被災された方々が、この映画をどう受け止めてくださるのか不安でした。見ていてつらくなるシーンもある。その日のことを後世に語り継いで、風化させないために、痛みを伴いながらも、みなさんに見てもらいたい。まずは日本全国。そして、世界へと広げていきたい」

 渡「熊本や北海道でも地震が起きて、誰もが災害の当事者になる可能性がある。対岸の火事ではない。こういうことを常に考えながら、未来を見据えていかないといけない。その原点にこの映画がきっとなっていくと思う。それくらい、意義のある映画だと思っています」

 ◆「Fukushima 50」 門田隆将氏のノンフィクション「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」(角川文庫刊)が原作。東日本大震災の津波によって福島第1原発は全電源喪失という危機に見舞われる。その時、諦めずに闘った現場作業員たちを海外メディアは「Fukushima 50」と呼んだ。巨大なセットで原発を再現し、米軍の横田基地でも撮影。佐藤、渡辺のほか、吉岡秀隆、緒形直人、安田成美らが出演。「沈まぬ太陽」(09年)などで知られる若松節朗監督がメガホンを執った。エキストラは約2200人。

 ◆佐藤 浩市(さとう・こういち)1960年12月10日、東京都生まれ。59歳。80年NHK「続・続事件」でデビュー。81年「青春の門」でブルーリボン賞新人賞。2002年「KT」などで同主演男優賞を受賞。94年「忠臣蔵外伝四谷怪談」、16年「64―ロクヨン―前編」で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞。15年「起終点駅 ターミナル」「愛を積むひと」で報知映画賞主演男優賞。父の三國連太郎さん、息子の寛一郎と親子3代で俳優。

 ◆渡辺 謙(わたなべ・けん)1959年10月21日、新潟県生まれ。60歳。演劇集団「円」出身。84年「瀬戸内少年野球団」で映画デビュー。87年NHK大河ドラマ「独眼竜政宗」に主演。映画「ラストサムライ」では米アカデミー賞助演男優賞にノミネート。ミュージカル「王様と私」で15年に米トニー賞、19年には英ローレンス・オリビエ賞の主演男優賞にノミネート。新装オープンした東京・パルコ劇場で舞台「ピサロ」(3月13日~4月20日)に主演する。 報知新聞社