伊藤蘭、キャンディーズ解散から41年「歌とヨリを戻すと決めました」

引用元:スポーツ報知
伊藤蘭、キャンディーズ解散から41年「歌とヨリを戻すと決めました」

 1970年代に一世を風靡(ふうび)した伝説のアイドルグループ「キャンディーズ」の元メンバーで女優の伊藤蘭(65)が、15日から全国ツアー「~My Bouquet&My Dear Candies!~」(東京・新宿文化センターほか全9公演)を行う。昨年、グループ解散以来41年ぶりに音楽活動を再開した今の心境とキャンディーズへの思いを聞いた。(加茂 伸太郎)

 「これまでで一番激動だったかもしれない。ただ、昔のような慌ただしさはなかった。スタッフの方と一つ一つ確認しながら、進めてこられましたから。こういう音楽作りは初めて。収穫といいますか、実りある1年になりました」

 満足感からか、表情はすがすがしい。柔らかい口調で時折、笑みがこぼれた。

 昨年3月にソロデビューを発表した伊藤は、芸能生活48年目にして新たな一歩を踏み出した。5月にアルバム「My Bouquet」を発表し、6月に東名阪のコンサートツアーを行った。ファンの大反響を受け、15日からアンコールツアーが始まる。「こういう展開は予想外」と驚きの声を上げつつ「人生って何が起こるかは分からない。自分の気持ち一つで世界が広がる―というのを身をもって体験させてもらっています」と幸せを口にした。

 78年4月、後楽園球場での伝説の解散コンサート以来、レコーディングもステージに立つことも41年ぶりだった。「赤ちゃんが41歳になるわけですもんね…。すごい(月日)ですよ。芝居をやりながら、結婚もし、子育てもし、気づいたらそれだけの時間がたっていた感じがします」

 過去にも所属事務所の社長から「もう一度、歌をやりませんか?」と打診されたことがあったが、「自分が歌う想像がつかない」と断ってきた。しかし、解散から40年を迎えた2018年頃から心境が大きく変化したという。「歌がきっかけでこの世界に入ったのに、このまま歌と疎遠な感じで終わるのは寂しい気がして。キャンディーズの世界観とは違う、自分の歌の世界を持ちたいと思ったんです。60代に入って、年齢的にもできそうなことはやろうと思うようになり、歌とヨリを戻すと決めました」

 アルバム制作では「今の伊藤蘭に歌わせたい曲」をテーマに募集した。110曲が集まり、その中から11曲を厳選。井上陽水(71)、宇崎竜童(73)×阿木燿子(74)夫妻、森雪之丞(66)ら豪華な顔ぶれがそろった。収録曲のうち「Wink Wink」など3曲では作詞にも挑戦した。

 「当時はマネジャーの大里(洋吉)さん(当時・渡辺プロダクション、現アミューズ会長)に『何でもいい。身の回りのことから書いていくんだ』と示唆がありました(笑い)。昔は詞が先だったけど、今回はメロディーから広がるイメージで言葉を紡ぎ出せました。女性を励ます、共感してもらえたらうれしい―という世界観を生み出せたと思います」

 ソロの活動が決まると、当時の記憶を頼りに準備を始めた。40年以上のブランクは想像以上。「マイナスからのスタートだった」と笑う。「歌も振りも体が覚えているから大丈夫と、高をくくっていた。でも、41年の月日はそれさえも消し去り、何も身についていなくて(笑い)。声もすぐには戻らないですし。長い間、好きでいてくださる方たちのために何とか(という思い)。楽しくもあり、苦しくもありという感じでした」

 励みになったのは家族の存在。夫の水谷豊(67)の後押しも大きかった。「『歌ってみて』なんて言って、(家で)レッスンをしてくれました。心配してくれていたんですかね。コンサートを見に来た時は、同じように喜んでくれました」

 今回のツアーから、サブタイトルに「My Dear Candies!」と加えた。前回よりキャンディーズナンバーも増やし、「春一番」「ハートのエースが出てこない」「哀愁のシンフォニー」「やさしい悪魔」「暑中お見舞い申し上げます」などを披露する。「おかげさまで、一瞬にして青春時代にタイムスリップできる楽曲がある。応援してくださる方々に『ささげる』ぐらいの気持ちで歌いたい」

 ツアーを控え、ミキこと藤村美樹さん(64)が力を貸してくれた。過去の映像を見ながら2人で振り付けを確認。「1人じゃ思い出せなくて、美樹さんに言ったら『一緒に思い出そう』って。この間集まって、やってみたけど、2人で落ち込んだの(笑い)。『蘭さん、大変ね』なんて言いながら」。スーこと田中好子さん(享年55)が11年に天国に旅立った今、かけがえのない存在。伊藤は「素の自分に戻れるんです。年を重ねても、当時の自分に戻ることができる。美樹さんが頼りです」と感謝する。

 キャンディーズは73年9月に「あなたに夢中」でレコードデビュー。78年4月までの約4年半、アイドルシーンをけん引し、芸能界をすい星のごとく駆け抜けた。

 「グループだから支え合って乗り切れたと思う。1人だったら波にのまれていたかもしれない。(仲の良さが力になったのは)間違いないです。協調性がある3人だったので、楽しい思い出しかない。自由時間がないとかはあったけど、恵まれていたと思う。日本中が熱い時代。私たちもその熱気に引っ張られて、声援を追い風にして上っていけたんだと思います」

 人気絶頂の77年7月、日比谷野外音楽堂のコンサート中に突如、解散を宣言した。当時22歳。「普通の女の子に戻りたい!」は流行語にもなった。「人生の岐路に立つ年齢。若かったですけど、自分の人生、今後の生き方を、3人それぞれが見つめていたのかもしれない。(周りの大人たちは)まさかと思ったと思うけど、不思議と否定されることはなかったです。『そうだろうね』と、納得する声も多かった。大里さんは『有終の美を飾ろう』と言ってくれました」

 ソロ歌手になって1年に満たないが、伊藤は「音楽が生きていくエネルギーの源になっている」。同時に「キャンディーズは本当に愛されているグループなんだなと、こうして取材を通して確認させてもらっています」としみじみ語った。

 「楽曲と共に皆さんが愛してくださるので、大事にしていこうという気持ちが強くなりました。1人で背負うのは勇気がいることですけど、私が歌うことで、喜んでくださる方が1人でもいるならば、この先も歌っていこうと思います。(ソロ歌手としての)自分の世界観があるからできること。きちんとその両方をやっていきたいです」

 ◆娘・趣里の活躍「逆に学んでる」

 まな娘の趣里(29)は主演映画「生きてるだけで、愛。」(18年)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞するなど女優として着実にキャリアアップしている。1月も舞台「風博士」に出演するなど活動の幅を広げてきた。伊藤は「向き合い方がマジメなんです。仕事や人に対する思いが真っすぐなので、このまま成長を続けてほしい」とエール。「若い人の感性は素晴らしい。『こういう表現するんだ』と逆に学ばせてもらっている」とたたえた。

 ◆伊藤 蘭(いとう・らん)1955年1月13日、東京都生まれ。65歳。72年NHK「歌謡グランドショー」のマスコットガールオーディションに合格し、キャンディーズ結成。解散後、一時芸能活動を引退。80年映画「ヒポクラテスたち」に主演し、女優活動復帰。89年にドラマ共演した水谷豊と結婚し、90年に長女・趣里を出産。出演作にNHK連続テレビ小説「こころ」、フジ系「風のガーデン」、映画「少年H」など。 報知新聞社