ジャーナリズムの不良チャンピオン! ハンター・S・トンプソン はみだしバッドボーイズ

引用元:夕刊フジ

 【はみだしバッドボーイズ】

 「幌を外したオープンカーは時速一五〇キロで、ラスベガスへの道をまっしぐら…そうだ、クスリが効き始めたのはあのあたりだった」

 1971年、「ローリング・ストーン」誌の100号に掲載され、すぐに「ラスベガスをやっつけろ!」の題で出版された本は、これまで誰も読んだことのないような不思議さがあった。

 書いたのはジャーナリスト、ハンター・S・トンプソン。日本での知名度は低いが「時代が怪しくなるとき、怪しい奴がプロになるのだ」と、あの悪名高いバイク集団と生活をともにして「ヘルズ・エンジェルス」を発表。たちまち新聞王ハーストやプレイボーイ紙のヒュー・へフナーから仕事の依頼が舞い込む売れっ子作家になった。そのキャラは人気コミック「ドゥーンズベリー」にも登場し、アメリカでは知らぬ者はいない。

 取材費でスポーツカーを借り、ありとあらゆる幻覚剤を入手。砂漠の道をぶっ飛ばし、全国警察官の麻薬会議に潜入。あげくは取材はそっちのけでホテルのカジノでらんちき騒ぎしたかと思うと、たまったホテル代を踏み倒してドロン…。

 どこまでがリアルで、どこからが妄想か。虚実ないまぜのスラップスティック・ルポだが「鋭い洞察力、聡明(そうめい)で爆発力のある文体は文学のキュービズムだ」と人気作家、カート・ヴォネガットも大絶賛。

 折から大統領選挙で候補者を追いかけ、全米をまわり、旧来の記者をあぜんとさせる数々の大スクープをやってのけたことも。客観性などクソくらえと自らがストーリーの参加者になり、時には気にくわないタカ派候補の乗った列車の連結器を外してしまい、プラットホームに集まった支持者の目の前で、哀れ候補者は線路のかなたに…。

 ゴンゾー(不良)ジャーナリズムの旗手として一世を風靡。当然コロラドの山奥のすみかはキース・リチャーズやジョン・ベルーシら不良たちのたまり場に。だが反体制派の文学チャンピオンと持ち上げられることも嫌い、80~90年代のアメリカ文化を“財布を太らせることしか考えない豚たちの時代だ”と一蹴。尊敬するヘミングウェイのように2005年、銃で自死した。

 最近、YouTubeでハンターの映像のヒット数が急増しているのは、大統領選挙が近いせいか? (ロックランナー・室矢憲治)