『キャッツ』見せ場の歌唱シーンでテイク14回!トム・フーパーと主演女優も手応え

引用元:Movie Walker
『キャッツ』見せ場の歌唱シーンでテイク14回!トム・フーパーと主演女優も手応え

映画『レ・ミゼラブル』(12)に続き、再びミュージカルの金字塔を実写映画化した『キャッツ』公開中)のトム・フーパー監督と、本作のヒロインに大抜擢されたフランチェスカ・ヘイワードが揃って来日。英国ロイヤル・バレエ団のトップ、プリンシパルであるフランチェスカは、本作で映画初出演を果たしたシンデレラガールだ。今回、フランチェスカと彼女を見出した名匠、トム・フーパー監督に話を聞いた。

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映画版の主人公は、ロンドンのゴミ捨て場に迷い込んだ白猫のヴィクトリア(フランチェスカ・ヘイワード)。彼女は、人間に飼いならされることなく自由気ままに生きる“ジェリクルキャッツ”たちと出会い、彼らとの交流を経て、自分の人生を切り開いていく。そしてある満月が輝く夜、長老猫オールド・デュトロノミー(ジュディ・デンチ)により、新しい人生を生きることを許されるたった1匹の猫が選ばれる「ジェリクル舞踏会」が開かれる…。

■ 「映画も人間がライブで身体的に表現しなければいけないと考えた」(監督)

ハイブリッドなVFXによって、猫のモフモフ感をまとったキャスト陣が、心揺さぶる歌と躍動感にあふれたダンスパフォーマンスを見せてくれる本作。トム・フーパー監督は、その手法へのこだわりについて「やっぱり『キャッツ』は、猫ではなく人間が演じるもの、という考え方が人々のDNAに刷り込まれていると思う。それに、元々『キャッツ』は詩人T・S・エリオットの詩集がベースとなったミュージカルだが、それは猫についてよりも、人間について書かれたものだと思っている。僕は舞台版をリスペクトしているので、映画も人間がライブで身体的に表現しなければいけないと考えた。だから、人間のダンスを優先させ、毛皮やメイクなどをすべてVFXにするという手法を選んだんだよ」。

8歳のころに舞台版『キャッツ』を鑑賞し魅了されたという共通点を持つ2人。バレエダンサーであるフランチェスカだが、どうしても『キャッツ』を演じてみたいと思い、自らオーディションを受けた。「8歳のころは、バレエダンサーを夢見ていて、いろいろなミュージカルの舞台をビデオで観たけど、『キャッツ』ほど、ダンスに比重を置いている作品はないと思った。だから私はとても心を惹かれて、何度も観たの。それに、ヴィクトリアには舞踏会の開催を告げるバレエソロのパートがあって、そのダンスにすっかり惚れ込んでよく真似をして踊っていた。だから今回、映画版ができると聞いてオーディションを受けに行ったの」。

バレエダンサーとしては超一流でも、歌の経験は皆無だったフランチェスカ。最初のオーディションで、いきなり歌を歌わされた時は「ちょっと待って!」と戸惑ったそうだが、その後、順調にオーディションを通過していった。「ヴィクトリア役に最終決定した時はびっくりした。まさかこんな大役がいただけるなんて思ってもみなかったから。その後、監督と話し合っていくなかで、プレッシャーと同時にやりがいを感じていったの」。

■ 「フランチェスカは突然彗星のごとく現れ、本物の映画スターになった」(監督)

フーパー監督は、オーディションで見つけたフランチェスカについて「僕の監督人生においても、2度とないと思えるくらいの出会いで、これだけ光り輝くものを持ち合わせている人も珍しいと思った」と、運命的なものを感じたようだ。

さらに、撮影に入っても驚きの連続だった。「フランチェスカは映画女優でもないのに、カメラを前にした時、どう動けばいいのかを自然にわかっていた。それは、ジュディ・デンチかイアン・マッケランなど、ベテランレベルのスキルだと思う。なぜ、新人女優にあんなことができるのだろうとびっくりしたよ」。

さらに「なによりも最高だったのは、撮影が進むにつれ、彼女の才能の底深さがどんどんわかっていったことだ」と絶賛する。「フランチェスカは突然彗星のごとく現れ、本物の映画スターになった。すばらしい演者というのはそういう資質を持ち合わせている。自分の心の奥底に、普段は明かさない特別なものを持っていて、カメラの前で演じている時だけ、それを観客と分かち合うことができるんだ。偉大なスターが持っているその資質を彼女は持っている。ジュディはまさにそういうタイプだったが、フランチェスカも同じく“本物の才能”の持ち主だと思う」。

■ 「逆に私は14テイクもやれて幸せだった」(フランチェスカ)

愛らしいヴィクトリアのハイライトシーンの1つが、本作のために舞台版『キャッツ』の作曲家であるアンドリュー・ロイド=ウェバーと、本作に出演もしているテイラー・スウィフトが共作した新曲「ビューティフル・ゴースツ」を歌い上げるシーンだ。なんと撮影では、14テイクを重ね、最後のテイクが劇中で使用されたそうだ。「自分の芯がしっかりしているフランチェスカだからこそ、内にある脆さや痛みをもっと表現してほしいと思った。だから、毎回歌い終える度に『いまのは素晴らしかった。でも、もう少し痛みを見せてくれ』などとリクエストをしていったら、14テイクになっていた」と言うフーパー監督。

フランチェスカは「逆に私は14テイクもやれて幸せだった」と振り返る。「実は、監督のねらいなのかどうかはわからないけど、収録日がいつになるのか教えてもらえなくて、2日前くらい前に『明後日に撮るよ』と言われたの。通常、バレエの場合は常にベストなコンディションを保つために普段からトレーニングをして、本番に合わせていくけど、私はプロの歌手でもないから、そういうことはできないでしょ。ましてや今回、歌は初挑戦だったから、最初は緊張して、自分を最善のコンディションに持っていけなかった。だからテイクを重ねる度に監督が『もう少しこうすればいいんじゃないか』とアドバイスをくれたことで助かったわ」。

普段のバレエ公演と映画撮影とでは、向き合い方も違うと言うフランチェスカ。「舞台は1幕から始まり、最後に幕を迎えるまで時系列に進んでいくから、自分が徐々に感情を高めていける。でも、映画は順撮りでないかぎりバラバラで撮るでしょ。例えば『はい、この瞬間、すぐ悲しいことを思いだしください』と言われても、私はさっと感情を切り替えることに慣れてないからすごく難しかった。だから今回も何度もテイクを撮っていくうちに、自分自身の緊張もほぐれていき、自信を持って歌を歌えるようになっていけたの」。

また、今後の女優業についても聞くと「本職のバレエには演劇的な側面があり、自分が全身全霊を捧げて、一晩パフォーマンスをしても、一夜限りでなにも残らないというか、残るのは観客の記憶のなかでのみ。でも、映画は遺産として永遠に残っていく。そこはすばらしいことだと思う。そういう意味でもまた機会があれば、ぜひ映画に出演してみたい」と答えてくれた。

バレエダンサーならではの美しいパフォーマンスはもちろん、目をキラキラと輝かせる白猫ヴィクトリアの表情が忘れられない。2人のベストなコラボレーションは、ぜひ音響設備の整った大スクリーンで鑑賞して。(Movie Walker・取材・文/山崎 伸子)