【座談会】ESPエンタテインメント東京に訊いた“音楽街=高田馬場”、「景観は変わらず、行き交う人が変わった」

引用元:BARKS
【座談会】ESPエンタテインメント東京に訊いた“音楽街=高田馬場”、「景観は変わらず、行き交う人が変わった」

高田馬場といえば、各種専門学校や早稲田大学をはじめとする大学の生徒たちで賑わう“学生街”であり、ライブハウスやレンタルスタジオの多い“音楽街”でもある。音楽の街として語る上で欠かすことができない存在が、音楽専門学校「ESPエンタテインメント東京」(通称ESP学園)だ。

◆ESPエンタテインメント東京 画像

1980年代初頭にギタークラフトの学校として創立された同校は、プレイヤーやクラフトマンのみならずクリエイター、メディア関連、PAや照明をはじめとするスタッフなど、様々な人材を音楽業界に輩出し続けており、シーンの第一線で活躍する出身アーティストやスタッフは枚挙に暇がない。座談会では、サウンドクリエイターコースの中野先生、ギターコースの鈴木先生、ドラムコースの滝沢先生といった1990年代から高田馬場をよく知るESP学園の講師陣にお集まりいただき、時代の変化に対応しながら音楽シーンを支え続ける同校の変遷と、高田馬場の街並みや人の流れについて語っていただいた。

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■「高田馬場AREA」は1990年代
■ESP所有のホールだったんです

──ESPエンタテインメント東京は1980年代初頭、ここ高田馬場で前身となるESPミュージカルアカデミーをスタートさせましたが、みなさんは1990年代から講師として、生徒として、この街を熟知してらっしゃるそうですね。設立は遡ること35年~40年前なので、当時の街のムードを知ってる方も少ないと思うのですが、覚えているいちばん古い記憶とは?

滝沢:僕と鈴木先生がESP学園に生徒として入ったのが1990年代前半なんです。学生の頃に僕は、中野先生の授業を受けてました。

鈴木:僕も受けてました(笑)。

中野:じゃあ、僕が一番長いですね。もう25年以上かな。当時から高田馬場という街自体、あんまり変わっているイメージはないんです。お店が変わったりしているものの、大きな都市開発みたいなものはないし、1990年代以降、新しくできた建物って少ないんじゃないかな。駅前のランドマーク「BIGBOX高田馬場」も外見はキレイになったけど、中は全然変わってないですし。

滝沢:渋谷や新宿の景観は当時から全然変わったけど、高田馬場は変わってないと思います。ただ、行き来する人が変わったことが大きいかもしれない。今は“学生街”と言われていると思うんですけど、僕らが学生の頃は、ここまで専門学校や大学はなかったから。語学学校もたくさんできて、それによって外国の方が増えたり。

中野:そういう意味では年齢層がガクっと下がったよね。中国系の留学生や予備校生も多い。中国のアリババグループ(※中国最大のCtoC Eコマースプラットフォーム)に早稲田大学出身の方がたくさんいるようで、その関係もあるのかな。

──変化したのは建物というハコではなく、ここに通う人たちなんですね。それによる街の雰囲気の変遷も感じますか?

鈴木:単純に街並みとか駅前ロータリーあたりはキレイになりましたよね。僕らの学生当時、高田馬場という街に初めて来たときの第一印象は“汚い街だな~”でしたから(笑)。

滝沢:はははは。たしかに、JR高田馬場駅の早稲田口ガード下で寝ている人とかいたからね。

中野:昔は“治安が悪い”と言われていたこともあって。なので、駅付近の家賃も安かったんですよ。

鈴木:昔も今も物価が安いというところも変わってないですね。「さかえ通り商店街」の看板デザインも昔から同じじゃないかな(笑)。

中野:安い居酒屋も多いし。若手のお笑い芸人さんとかサラリーマンの方々とかが、飲みに来るのは高田馬場らしいですから。

滝沢:昔は、お金がないのになぜか毎日のように居酒屋で飲んでましたよね。誰かが一括して払えちゃうぐらい安かったんですよ。今でも安い。

鈴木:ミュージシャンはみんな毎日飲みたいですからね(笑)。

──JR山手線沿いのESP学園の校舎は年々増えていく印象があります。音楽の街といわれる理由のひとつにESP学園があると思うのですが?

滝沢:まず、高田馬場という土地は通勤や通学に便利ですよね。そこも生徒たちに人気の理由のひとつかもしれません。JR、西武線、東京メトロも通ってますから。ESP学園に通っている生徒も先生も、西武線沿線に住んでる人が多いですね。

中野:音楽街という意味では、ライブハウスと音楽スタジオが高田馬場にすごく増えたと思います。「高田馬場AREA」は1990年代、ESPが所有しているホールだったんですよ。「アリノスホール」という名前で、もともと映画館だったところをESPが買い取ったのかな。

滝沢:僕らが学生の頃はESP学園本館B1ホールと同じ扱いで、そこで授業があったり、ライブもやったり。今はその機能が新校舎に移って、ESPが使わなくなった後に「高田馬場AREA」ができたという。

中野:ライブハウスだと、「高田馬場CLUB PHASE」もあるし。

鈴木:早稲田のほうには「ZONE-B」もありますよね。

滝沢:「音楽室DX」もそうですね。

──やはり2000年代に入ってからライブハウスは増えましたよね?

滝沢:そうですね。たぶんここ12~13年ぐらいじゃないですか。

──現在は「高田馬場AREA」も「高田馬場CLUB PHASE」も、ヴィジュアル系中心のライブハウスのイメージがありますが?

滝沢:「高田馬場AREA」の運営会社がヴィジュアル系レーベルも運営しているので、ヴィジュアル系の出演バンドが多いんだと思います。「「高田馬場AREA」の楽屋はヨコにずらっと鏡が並んでいるので、メイクも含めて出演前の準備がやりやすい」ということも出演バンドから聞いたことがありますよ。それに、この近辺にはヴィジュアル系の事務所も結構あるんですよ。

──2000年代までは楽器メーカーESPの本拠地が高田馬場だったと思うのですが、ESP製の楽器を使用しているギタリストやベーシストがヴィジュアル系に多いことも関係していますか?

鈴木:1990年代中盤までの楽器メーカーESPのイメージといえば、METALLICAやDOKKENなど海外ハードロック系ミュージシャンだったと思うんです。それが、ヴィジュアル系が日本の音楽シーンを席捲した1990年代中盤以降から、ヴィジュアル系ミュージシャンのほとんどがESPの楽器を使い出したことによって、そのイメージが強くなったことも確かだと思います。自分だけの楽器デザインをオーダーメイドできるESP製の楽器が、ヴィジュアル系ミュージシャンの需要とマッチしたんじゃないでしょうか。

滝沢:だから一時期は、ESP学園にもヴィジュアル系が好きな生徒がめちゃくちゃ多かったですよね。

中野:卒業生もけっこう「高田馬場AREA」でライブをやってましたから。

■地元ではバンドを組めなかった子たちが
■バンドを夢見て全国から高田馬場に集まる

──ESPエンタテインメント東京が輩出したアーティストやスタッフは枚挙に暇がないと思いますが、在学時のエピソードなどがあれば教えてください。やはり当時から光るものがあったのでしょうか?

鈴木:在籍していたことを公表していない有名アーティストも数多くいますし、裏方として音楽業界の各セクションで活躍している人もたくさんいるんです。

中野:劇伴をやっている卒業生もいますね。

滝沢:だからもう、いっぱいいすぎてエピソードだらけなんですよ。ここでは話せないこともありますし(笑)。

鈴木:ただ、“芽が出そうだな”とか“すぐ仕事になりそうだな”っていう生徒はすぐにわかるんです。実際に、そういう生徒は現在も第一線で活躍しています。

──それってどういう生徒さんなんでしょう?

中野:最初から光る才能があるというよりは、まず大人と付き合えるかどうかが重要で。高校を卒業してすぐに入学してくる子ばかりなので、 “大人と会話できる子”と“同世代としか会話できない子”に生徒が分かれるんです。それは学びたいという熱量にも比例するかもしれません。

滝沢:あと、良い意味でサボり方を知ってるというか、すべて全力で向き合うんじゃなくて、抜きどころを知っているやつ。目をかけられる生徒ほどアドバイスも多くなるので、そこで煮詰まっちゃうよりも、上手くかわせる生徒がドラマーとして伸びたり、出世していますね。

鈴木:それって、ある程度自分の中に持論というか、“俺は絶対これ”という信念を持っているということでもあって。

中野:そういう人のほうが他人を守れると思うんです。ついていくんじゃなくて、ついてこさせるのが、やっぱりアーティストなのかなって。真面目すぎると挫折してしまうことも多いでしょうし。

──ちなみに、生徒さんの男女比って?

滝沢:プレイヤー系のコースは男子8:女子2ぐらいですけど、PAや照明とかスタッフ系コースに女子が多いですね。それに、音楽業界全体が女性バンドやミュージシャンをずっと応援してきたという歴史もあって。現在、なかなか音楽業界の売り上げが上がらない中、アイドルとミュージシャンを絡めたりという取り組みなどもあって、女性プレイヤーは増えていると思います。結果、数の男女差はなくなってきたんじゃないでしょうか。

──そういう音楽を取り巻く環境の変化と共に、ESP学園には様々な学科が生まれてきたと思います。昭和、平成、令和と時代は移り変わっていますが、近年、人気の高い学科にも変化はありますか?

中野:サウンドクリエイターコースは、今、まさに増え続けていますね。たとえば、留学生が特にそう。DAWによる作曲を日本で学びたいという留学生が多いんです。それは、PCが“一家に一台”から“一人一台”になってからの大きな変化だと思います。昔はMIDIデータのやり取りしかできなかったDTMが、今はPC上で録音できるようになった。実際、自分で録音するボーカリストやギタリストが増えていますから。

鈴木:昔は「バンドでデビューしよう!」って考えている学生がESP学園に集まっていたと思うんですけど、PCの普及と共に、動画をはじめ、人と一緒に音を出さないで、ひとりで完結出来ちゃう音楽が普通になってきた。時代や環境の移り変わりと共に、生徒もわりとオタク気質な子が増えているのも事実だと思います。ただ逆に、バンド経験がないから、音楽好きが集まる場に身を置いて、メンバーを探したい、バンド活動をしてみたい、って入学してくる生徒も少なくないんです。

滝沢:そういう意味では、ドラムコースは一番変わっていないんじゃないかな。楽器自体が昔と変わっていないので、気質もそんなに変わらない。1日中校舎にいる子が結構いますね(笑)。ESP学園では、空いている教室を生徒にレンタルしているので、街の音楽スタジオに行かなくても学校の施設で賄えちゃう。ドラマーにとってはパラダイスだと思います(笑)。

──各学科によって、キャラクターもさまざまなようですね。

中野:僕らの若い頃は、人と関わらないと情報が得られない時代でしたけど、今はネット社会なので、ひとりでも情報を受け取ることができるという意味で、個人主義になってきているのかな。ただ、時代が5Gへ移行することでの変化もあると思うんです。たとえば全世界とか離れた場所にいても同時演奏ができるとか。コミュニケーションが必要なコンテンツが出来れば、それによって、また新たな価値観が生まれるでしょうし。

──ツールが進化することで、また別の未来が広がっていくわけですね。一方で、ESP学園に通う学生ならではの変わらぬ特徴ってありますか?

滝沢:僕らの若い頃は、全国から社会不適合者が高田馬場に集まってたんですよ(笑)。

鈴木:そうですね(笑)。「もう、この道しかない」っていう人間ばかり(笑)。

滝沢:音楽しか行き場がないっていうね。でも今の子って、めちゃくちゃ真面目で良い子なので、僕のつまらない講義をちゃんと聞いてくれる(笑)。昔は、授業の途中で教室を出て行っちゃうやつとかいましたし、講師が泣かされてましたから。ロン毛で金髪、ピアスだらけなんて当たり前だったし、いわゆる一般的な格好をしている人が探せないぐらい。今は普通の人が多いので、環境的にはすごく良いと思います(笑)。

鈴木:伝統的な特徴としては、少なくはなりましたけど、時代が変わってもバンドをやりたい人が集まるのがESP学園なのかなっていう印象はあります。さっきも言いましたが、バンドをやりたくても地元ではやれなかった子たちが、全国からバンドを夢見て高田馬場に集まるという。

──ESP学園本館の入り口にギター/ベース弦の自動販売機がありますよね? あれは“ならではだな”と思ったんですが?

滝沢:近くに楽器店がないから、というのもあるんです。昔は、駅前ロータリーの近くに、CDと楽器の「ムトウ楽器店」があったんですけど、それが残念ながら最近閉店してしまって。今は楽器店まで行かなくとも消耗品もネットで買えますしね。昔はESP学園にも購買部があって、弦もスティックも買うこともできたんですが、さらに時代が進んで弦の自動販売機(笑)。

■世界に通用する飲食店が
■高田馬場にはたくさんあります

──20数年の間、高田馬場に通い続けているみなさんに、とっておきのオススメ飲食店があれば教えていただきたいのですが?

鈴木:「キッチンニュー早苗」ですね。昔ながらの洋食の店です。なかでもオススメなのは毎日変わる定食。100円追加すると、ごはんがカレーライスになっちゃうし。

滝沢:まさに、さっき行ってきました、「キッチンニュー早苗」に(笑)。テレビでもよく紹介されている店で、もう30年以上営業しているんじゃないかな。一時期は「ESP学園の学食」と呼ばれてました(笑)。留学生もみんな美味しいって言いますから、世界に通用するお店です。「世界中で一番美味いから、自分の国に支店を作りたい」って留学生が宣伝してるらしい(笑)。

中野:僕がよく行くのは、「ザ・ハンバーグ 高田馬場店」ですね。ここも留学生たちが、「また日本に来たら、食べに行きたい」って言ってます(笑)。日本で唯一、5000gのハンバーグを焼けるオーブンがあるとかで、テレビにもよく出てますね。メニューがシンプルで美味しいです。

──では最後に、高田馬場を訪れた一般の方々が参加可能なESPエンタテインメント東京のイベントがあれば教えてください。

中野:サウンドクリエイターコースでは、イベント『monochrome』を2020年2月16日(日)に開催します。これは一般の方に向けたものでして、各ブースで作曲作品や映像作品を発表して、お客さんが気に入ってくれたらCD等の作品を受け取ってもらうというイベントなんです。ステージでの演奏もありますのでぜひ。

鈴木:ギターコースでは、『ギターリストコンテスト』のグランプリを決めるファイナルイベントが3月9日(月)に開催されます。この週は月~金まで“ファイナルウィーク”として全コースがイベントを行います。今、そこに向かってみんな頑張っているところですね。

滝沢:ドラムコースは、3月13日(金)に『ドラマーコンテスト』のファイナルイベントを行います。あとは、毎月オープンキャンパスもやってますし、ぜひ一般の方々にも観に来てほしいですね。ESP学園は環境が整っているし、面白い講師がいっぱいいますから。

取材・文◎岡本貴之
撮影◎西角郁哉