クロちゃんは視聴者に軽蔑と憧れの感情を起こさせるモンスター

クロちゃんは視聴者に軽蔑と憧れの感情を起こさせるモンスター

【2020 新春「笑」芸人解体新書】#4

「憎まれっ子世にはばかる」をこれほど体現している人物もほかにいないだろう。甲高い声に不似合いなスキンヘッドとヒゲの巨漢。「モンスター」の異名を取る安田大サーカスのクロちゃん(43)が、ここ数年、なぜか空前の大ブレークを果たしているのだ。

 そのきっかけになったのは「水曜日のダウンタウン」だ。この番組では、彼に対するドッキリ企画がたびたび行われてきた。クロちゃんは毎回、視聴者の予想をはるかに上回るリアクションを示して爆笑をさらってきた。そのため、ドッキリ企画はどんどん大がかりになっていった。

 クロちゃんブームの決定打になったのが2018年、この番組で行われた「モンスターハウス」という企画だ。フジテレビの恋愛バラエティー「テラスハウス」を真似た恋愛企画の中で、クロちゃんは次々に問題行動を連発。自撮りのふりをして女性を盗撮したり、女性が座っていたクッションに顔をうずめたり、2人同時に口説こうとしたり、気持ち悪い言動の数々で視聴者を凍りつかせた。

 さらに、2019年の新企画「モンスターアイドル」では、アイドル好きで知られるクロちゃんが女性アイドルグループをプロデュースした。16人の候補者の中から彼が独断でメンバーを選抜した。プロデューサーの権力を利用して、女の子の手を握ったり、抱きついたり、口説こうとしたり、傍若無人な振る舞いを見せた。最後にはCD購入による一般投票によってクロちゃんの解任が決まり、一件落着となった。

 テレビの中では好き勝手に行動しているだけのように見えるクロちゃんだが、そんな彼が何かにつけて話題になり、面白がられているのは事実だ。

 彼の強みは、人として裏表が一切なく、欲望に忠実であることだ。他人にどう見られるかという視点が欠落しているので、カメラが回っていてもお構いなしにのびのびと行動することができる。

 そんなクロちゃんを見ながら、視聴者は軽蔑と憧れの入り交じった複雑な感情を抱くことになる。やっていることは人として最低だが、そこまで他人の目を気にせずに生きていられるのはうらやましい、というふうにも思えてくるのだ。

 最低ゆえに最強。クロちゃんの暴走は今年も止まりそうにない。

(ラリー遠田)