古谷徹×キティちゃんのアフレコ秘話も! 「ガンダムvsハローキティ」コラボアニメの舞台裏【インタビュー】

古谷徹×キティちゃんのアフレコ秘話も! 「ガンダムvsハローキティ」コラボアニメの舞台裏【インタビュー】

共に日本を代表するキャラクターであるガンダムとハローキティ。それぞれ40周年と45周年を迎え、2019年3月28日に発表されたのが「ガンダムvsハローキティ 対決プロジェクト」だ。

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様々な企業を巻き込み展開を続けてきた同プロジェクトだが、ガンダムとハローキティがアニメ作品として夢の競演を果たす特別PVもまた、プロジェクトの目玉の一つである。
その最終話となる第3話が2020年1月15日、プロジェクト専用のYouTubeチャンネルでついに公開された。

今回は本作のクリエイティブのキーマンであるイム・ガヒ監督、サンライズIP事業本部第1企画制作部デピュティゼネラルマネージャー、第5スタジオプロデューサーの谷口理氏、サンリオライセンス事業本部デザイン部クリエイティブディレクターの山田周平氏の3人にインタビュー。
その見どころと制作背景について伺ったところ、プロジェクト特別PVへの理解がより深まるエピソードに加え、「ガンダム」にまつわる意外な裏話も飛び出した。
[取材・構成=いしじまえいわ]

■驚愕!『機動戦士SDガンダム』登場!
――ついに特別PV第3話が公開されました。驚いたのは懐かしの『機動戦士SDガンダム』(注1)が登場したことなのですが、どういった経緯で生まれたアイデアなんでしょうか?

注1:『機動戦士SDガンダム』は1980年代末期から90年代中頃まで玩具やマンガ、アニメ、ゲーム等で展開した2頭身にディフォルメされたガンダムキャラクターと作品群。ギャグ・パロディを主としており、児童層に熱烈に支持され一時期はガンプラ・玩具の売上の中核を担った。SDはスーパー・ディフォルメの略。

イム:第3話の舞台は、ガンダム世界の戦場のためキティちゃんも何かしらアクションをしないといけないのですが、前回お話しした通りキティちゃんは武器を持ったり誰かを攻撃してはならないという縛りがありました。

イム:バリアを張って敵の攻撃を跳ね返すことも考えたのですが、その跳ね返った弾で相手が破壊されても、結局攻撃と同じ結果になってしまいます。

山田:そうですね。反射でも相手を傷つけてしまうのであればダメです。

イム:「どうやってキティちゃんと友達になろう?」「跳ね返った弾がゲルググに当たった時、傷つくのではなく、どういう変化が起こればファンは喜ぶだろう?」といったことを考えた結果、跳ね返った弾があたったら、SD化してみんな仲良くなる、という表現に至りました。

谷口:このアイデア、よく出てきましたね。これは本当にイムさんならではのものだったと思います。

イム:でも、通常のガンダムとSDガンダムがひとつの画面に同居することは「ガンダムファンの方々に喜んでもらえるのか……」という不安はありました。

――マニアックな例で恐縮なのですが、『夢のマロン社「宇宙の旅」』(注2)という作品でリアルタイプガンダムとSDガンダムが共演していますね。

注2:『機動戦士SDガンダム MK-IV 夢のマロン社「宇宙の旅」』アミノテツロー監督による1990年発売のOVA作品。SDガンダムキャラたちがリアルタイプガンダムの世界の一年戦争に迷い込む。ファーストガンダムのモビルスーツが、当時シリーズ最新だった『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』のテイストにアレンジされて登場することでも有名。

イム:そうですね。実は当時のSDガンダムの作画資料があまり残っておらず、今回の作画では『夢のマロン社「宇宙の旅」』の資料やSDガンダムの商品などを参照しました。

――SDガンダムを作画するにあたって気を付けたことは?

イム:作画監督や原画の方と特に綿密に相談したのは「SDガンダムをどう動かすか?」です。実は同じようにデフォルメされたガンダムでも、メカニカルなものからキャラクター然としたものまで様々な種類があるので。

――そうですね。現行のデフォルメされたガンダムは角ばったメカニカルなものが多い印象です。

イム:モビルスーツ感を残して機械然と動かす案もあったのですが、今回はキティちゃんと仲良しになるのですから、柔らかく可愛らしい動きの方向でディレクションしました。

――それで結果的にゴム風船然とした旧来のSDガンダムテイストの風貌になったのですね。

イム:その通りです。

山田:この落としどころについては、監督に本当に良いアイデアをいただいたなと思っています。

イム:ありがとうございます(笑)。

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■ベテランクリエイターや大手スタジオも参加していた!
――谷口さんは前回の記事の最後で「ハイクオリティアニメとして楽しんでほしい」という旨の発言をされていました。

谷口:たとえば第1話の水彩調のキティちゃんのおうちの背景美術などは、美術スタジオ「青写真」さんにお願いしています。とくに『ひそねとまそたん』や『キルラキル』、『ブレードランナー ブラックアウト 2022』の背景美術を手掛けた金子雄司さんがノリノリでアイデアを出してくれました。

イム:実はキティちゃんの部屋だけでなく、宇宙空間の背景美術もアナログなんですよ。

――えっ、デジタルで描かれたものではないんですか?

谷口:本作の背景美術は、画用紙に絵の具と筆で描いてデジタルでスキャンしたものです。

イム:キティちゃんのキャラクターに合うように、アナログで描くことであたたかみのある絵を目指しました。
あと面白かったのは、金子さんが美打ち(美術の打ち合わせ)の時に「どういう宇宙でいきますか?」と聞いてくださったんです。

――「どういう宇宙」というのはどういう意味ですか?

イム:ガンダムシリーズでは作品毎に宇宙の描き方が異なるんです。『UC』だとリアル寄り、最近の『Twilight AXIS』では宇宙空間のガスなども描いて色鮮やかです。
その中でファーストは青みが強い宇宙なんですが、今回は昔ならではのアナログ作画でその風合いや星の数や形などを再現しています。各宇宙のサンプルを見せていただき、私も大分勉強させていただきました。

谷口:絵の具だと完全に乾くまでスキャンができないので、今その再現をするのはTVアニメでは難しいでしょうね。製作期間が長い特別PVだからこそできました。
なかなか珍しいものができたと思うので、ぜひ背景美術も拡大して筆のタッチまで楽しんでいただきたいです。

谷口:撮影に関しては、いつものガンダムシリーズでは旭プロダクションさんにお願いしているのですが、今回はハートマークのエフェクトなどパーティクル(粒子)の処理に強いマッドハウスさんにお願いしました。
マッドハウスさんでガンダムを作ることもそうそうないので、こちらもまたノリにノってやっていただけました。

イム:サンライズ社内でも同じでしたが、マッドハウスさんでも撮影の際に「一体何の作品をやってるんだ?」「面白そうで羨ましい!」と話題になっていたそうです(笑)。

――撮影にあたって苦労された点はどんなところですか?

イム:今回は全体的なテイストをファーストガンダムに寄せようというコンセプトだったので、最近のアニメのように全体的に撮影処理をかけるのではなく最低限に留める方針でした。
その中でどうキティちゃんらしい可愛らしさを撮影で表現するかには特に悩まれてたようです。特にファーストガンダムは元々作画の爆発がピンク色なので、それに合いつつも個性が際立つハートマークの形などは、何度もマッドハウスさんと相談と修正をして完成させました。

――作画面ではどういった工夫があったのでしょう? やはり方針としてはファースト準拠ということでしょうか。

イム:ファーストの作画の作法を守りつつ、実はところどころ最新版の技術でアップデートしています。たとえばヘルメットの処理ですが、昔の作画では単色だったヘルメットの手前側と奥側の色味の差を出したり、ハイライトに発光処理を加えたりしました。

谷口:アムロの作画は『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』で作画監督をしてくださった、ことぶきつかささんにお願いしました。

イム:ことぶきさんも私たち同様、安彦良和さんの『めぐりあい宇宙編』の作画を軸にする方針に賛同してくれました。そのため影のつけ方などは基本的に安彦さんテイストです。
ただ、線の入れ方や瞳の中の作画などは実は少し変えていて、これもことぶきさんの意見を取り入れたアップデートの一つです。

谷口:細かいねぇ……(笑)。

イム:監督という立場で作品作りに携わるのは今回初めてだったのですが、各セクションのみなさんが意見を出し合って作っていけたのがありがたかったです。
それによりラッシュ時よりずっといいものにできたと思います。作っていても楽しい作品になりました。

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■あの伝説のシーンを再録!? アフレコ・劇伴裏話
――アフレコ現場はどういった雰囲気でしたか? 声を務められたキティちゃんや、古谷徹さんの様子など。

イム:今回の作品は特別版ということでファーストガンダムとはセリフを少し変えていたんですが、古谷さんは「ここ変えてありますよね? 元のにしましょうか?」と気付かれて、全部オリジナル版に直して演じてくださったんです。凄いなと思いました。

――名セリフは全部頭の中に入ってるんですね。

イム:「全部バレてる」と思いました(笑)。音響監督も『機動戦士Zガンダム』以降ガンダムシリーズ作品を数多く手がけている藤野貞義さんだったので、「こっち(オリジナル)の方がいいと思うよ」とアレンジしてくれました。
またそういった相談の流れで、第1話でキティちゃんが見ているTVの中のシーンでは、ララァが亡くなった直後のセリフだけ録り直しをしています。

――あの泣きの演技は新録だったんですね!

イム:はい。愛しい人を失った悲しみの演技が、1カットの収録のためだけにパッと出てきました。昔の映像に合わせる演技としても全く違和感がなく、その表現力には本当に驚きます。

――キティちゃんの収録はいかがでしたか? こういう作品の収録はレアケースだったと思いますが。

イム:キティちゃんは、アニメーションに声を当てるのは慣れていないようで、戸惑われていましたね。最初はもっと真剣な感じで、特に戦場ではアムロに対しても“キティ先輩”という感じの落ち着いた演技だったのですが、藤野さんから「いつものキティちゃんでいいと思うよ」とディレクションがあって、完成版のようになりました。

――キティ先輩、確かにキャラクターとしては5年先輩ですもんね。

イム:特に第3話のアムロと対峙するシーンは物語の肝になる部分なので悩んだのですが、リハーサルではオリジナルのララァのイメージに寄せた真剣な感じで演じられていたので、印象が大きく変わりました。
本作はガンダムとキティちゃんのコラボだからキティちゃんらしさを出すべきだし、「どこに行ってもブレないキティちゃん」らしさを出せていいものに仕上がったと思います。

――楽曲面でも、そのシーンでは『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』で印象的だった「ビギニング」を使われていますね。

イム:実はそこにも苦労がありまして……。

――というのは?

イム:今回1話あたり2分程度×3本というフォーマットだったのですが、「ビギニング」は本来、たっぷり聴かせる曲なんですよね。その良さを活かそうとするとどうしても2分には収まらない。

――確かに、名曲が変なところで切られてしまうとファンのテンションが下がってしまいかねません。そこでどういう工夫をされたんですか?

イム:他の曲を使うことなども考えたのですが、結局作品自体の尺を伸ばしてもらいました。だから第3話は他2話より少し長いんです。

――なるほど、歌詞が最後まで切られず流れることで余韻のある終わり方になっていますね。改めて意識して聞かないと、最後がかなりタイトなのにも気が付きませんね。

■アムロとキティ、その後の2人は?
――一見奇抜なコラボ作品という印象だった本作ですが、多くの人が協力し意見を出し合うことで完成したハイクオリティアニメだということが分かりました。

谷口:今回のプロジェクトではクリエイティブ面でも様々な人や企業を巻き込んでコラボレーションできたのが本当によかったです。
懐の深いサンリオさんだからこそのコラボ作品でもあるので、その成果をぜひ繰り返し見て確認していただきたいです。

山田:これまでサンリオキャラでコラボ映像というと1話完結のものがほとんどだったので、全3話でストーリー性のある作品にできたのが新鮮でした。ぜひまた1話目から通しで見ていただきたいですね。

――最後の質問です。アムロとキティちゃんはこの後ア・バオア・クーに乗り込むわけですが、もしこの続編が作られるとしたらどんな話になるでしょう?

谷口:うーん……身も蓋もないですが、続けようがないような気がします。だってキティちゃんが活躍したら、みんな平和になって歴史が変わっちゃいそう(笑)。でも作らせていただける機会があるならぜひ作りたいです。

山田:じゃあ5年後のハローキティ50周年と、ガンダム45周年の際にまたぜひ!

谷口:それはぜひ! でもその時はまた別のキャラクターとコラボしてるんじゃないですか?(笑)

山田:じゃあそのときは3キャラクターみんなで仲良くでいきましょう。サンリオは「みんなで仲良く!」の精神なので!

イム:そうですね、それがいいですね!

◆◆◆
なお、対決プロジェクトの新章「2020年 愛と平和のガンダム&ハローキティプロジェクト」も始動。戦いのない平和な世界を願うガンダムとハローキティは“LOVE&PEACE”というテーマを掲げ、各種コラボやTwitterでのキャンペーンなどで“みんななかよく”の平和な世界を共創していく。今後の展開については、公式サイトやTwitterにて情報が発信される予定だ。

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