島崎信長が解放した力とは?「斉木楠雄のΨ難」“修業の場”だったアフレコ現場明かす【インタビュー】

島崎信長が解放した力とは?「斉木楠雄のΨ難」“修業の場”だったアフレコ現場明かす【インタビュー】

包帯を巻いた手で顔を覆い、苦悶の表情を浮かべる男。背後に見えるは、漆黒。そう、彼の名は“漆黒の翼”――。

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2019年12月30日、アニメ『斉木楠雄のΨ難 Ψ始動編』(以下、シリーズ名は『斉木』)がNetflixにて配信スタート。これにあわせて、海藤瞬役を務める島崎信長(崎は「可の上に立」)が「アニメ!アニメ!」のインタビューに応じてくれた。

海藤といえば、主人公・斉木楠雄の友人で「漆黒の翼」の名を持つ中二病男子。今回、役に合わせてコスプレをしていただき写真を撮らせてもらったのだが、見事なハマりぶりだ。本作への愛の深さをにじませる。

『Ψ始動編』への思いや注目エピソードを伺ったインタビューからも、そんな思いが溢れていた。
[取材・構成=松本まゆげ]

■スマホ視聴と相性がいい『斉木』シリーズ
――まずは、『Ψ始動編』が制作されると知ったときのお気持ちから教えてください。

島崎:本当にありがたいと思いました。事務所の先輩で斉木楠雄役の神谷浩史さんもよくおっしゃっているんですが、一旦終了した作品がこんなに何度も復活することなんてそうそうありません。
第2期まで放送したかと思いきや、スペシャル番組(完結編・全2回)で斉木くんが超能力を封印するクライマックスまで描いてくれて、さらにその後のアフターエピソードまでアニメ化してくれるなんて。

――原作で描かれていたのでファンは待ち望んでいたでしょうけれど、アニメ化はそう簡単に実現できるわけではないですからね。

島崎:なので「『斉木』の新しいシリーズをアニメ化したい」とNetflixさんに目をかけてもらえたこと、そのくらいファンの方が『斉木』を楽しんでくれたことを実感しました。とにかく、いろいろと嬉しかったです。

――ちなみに、アニメ化に至った理由をNetflixの方に聞いたりしましたか?

島崎:Netflixの方から直接聞いたわけではないですが、別の方からこんなことを聞いたことがあります。『斉木』って1話4分のフォーマットですよね。

――4分の短編を5編まとめて1χ(回)です。

島崎:そう、なので「移動中に観やすい」と。基本的に30分アニメは配信で観るとCMを除いて約25分。
だから移動中に観ているとどうしても途中で中断せざるを得ないところ、『斉木』は4分ごとに区切れるから相性がいいらしいんです。

――言われてみればそうですね。

島崎:それと、Netflixさんが『斉木』を手がけることに意外性も感じました。僕がNetflixさんでお世話になっている作品って、シリアスなものが多かったんです。
新作アニメ発表会に神谷さんと立たせてもらったときは、『斉木楠雄のΨ難』と『Levius』(島崎が主演)の2作を同時に発表したんですけど、PVの温度差がすごくて!

――片やコメディ、片やシリアスな格闘アニメですからね。

島崎:そこで、カバーされている作品の幅を実感しました。どちらも方向性が違うだけでめちゃくちゃ面白くて、世界の人たちに見てもらいたい作品であることは変わりません。とくに『斉木』はいろんな世代の方が楽しめる作品だと思っていたので、配信されるのが待ち遠しかったです。

■“センシティブ”な灰呂が『Ψ始動編』で活躍
――久々のアフレコはいかがでしたか?

島崎:僕、“斉木ロス”があったんです。まず第2期のアフレコが終わった時に1回目のロスがあって、続く『完結編』を経てちょっと和らいだんですが、しばらく経つとまたロスになって。

――アフレコに対してロスになってしまった。

島崎:はい。『斉木』のアフレコ現場って、声優の限界に挑戦するような、まるで修業の場だったんです。
イベントでもよく言っているんですが、桜井弘明監督が追求する面白さに僕らが食らいついていくと、「ここまで出来るなら、これはどうだ」ってどんどんハードルが上がっていくんです。
僕らもプロなので、そのハードルも一生懸命越えていこうとがんばる。その結果「あれ、ここはどこだ?」というところまで到達してしまう(笑)。

――だからセリフスピードがどんどん早くなっていったんでしょうね。

島崎:しかもセリフのスピードだけでなく、そこに面白いニュアンスを入れていくのが『斉木』のアフレコの真骨頂なんです。

さらに3~5人が同時に喋ることもあるので、録っている時はわけがわからないんですが、完成形を観てみると、セリフもしっかり聞き取れるし、何を伝えたいかもわかって面白いものに仕上がっている。大変だけどやりがいがあります。

まわりには素晴らしい方ばかりがいらっしゃったので、そんな場が最終回まで終わってしまったときにはロスになってしまいます。
どこも厳しい現場なので怠けたり甘えたりしているわけではないですが、『斉木』の物理的に厳しい修業の場があったので、それがなくなるとどうしても。

――それを経た今回のアフレコはいかがでしたか?

島崎:もうテンションがあがりました! それに、『斉木』の現場にいるときのみんなの姿も変わらないんですよ。どんどんパワーアップしていくから。

――とてつもないエネルギーが現場に漂っていそうです。

島崎:そんななかでも、僕は灰呂(杵志)の声を聞くと「あ~、『斉木』の現場だな!」って思います。

――日野聡さん演じる並外れた熱血漢ですね。

島崎:原作から熱かったですけど、日野さんが声を吹き込むことでさらに厚みが出ています。お芝居って“距離感”を考えながら演じるものなんです。近くにいるか遠くにいるかで、声の大きさやかけ方が変わるので。

だけど、日野さんが演じる灰呂には距離感がありません。どんなに近くても遠くても、声を張ってセリフを言うんです。だけど、そのなかでちゃんと細かい芝居も入っているのが素晴らしい。

――ただ声を張っているだけでは、作品の中で浮いてしまいそうですからね。

島崎:そうなんです。そのバランスがすごくよくて、そこにみんながついていって相乗効果が生まれています。
しかも今回、灰呂の出番が多いんです。バスケ回や脱出ゲームの回など、できなかった回をピックアップしていったら灰呂の出番が増えたのかもしれません(笑)。

灰呂って、よくお尻を出しますよね。センシティブなキャラクターだから削られやすいのかな?って勝手に思っていたんですが、今になってたくさん出てくれて非常に高まりました。

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■『ぼくのわたしの勇者学』キャラとの対比も楽しんで
――では、灰呂の登場回以外で注目してほしいエピソードは何ですか?

島崎:みんな気になっていたであろう『ぼくのわたしの勇者学』(以下、『勇者学』)とのコラボエピソードです。観てくださった方はわかると思いますが、『斉木』のキャストで『勇者学』のキャラを演じさせていただきました。

――主人公の鋼野剣を神谷さん、火野木望を茅野愛衣さん(『斉木』では照橋心美役)、宗村まさゆきは小野大輔さん(『斉木』では燃堂力役)、そして島崎さんは河野盾を演じていました。

島崎:『斉木』での立ち位置を考えつつキャスティングされたようなんですが、楠雄と鋼野剣は性格が真逆なので、神谷さんはアフレコをすごく楽しみにしていたようです。「俺がこの現場でずっと我慢してきたことをやれる!」って(笑)。

ただ、ギロチンのまさゆき(宗村まさゆきのあだ名)と燃堂はちょっと近いキャラクターです。燃堂はしっかりおバカなので、迷いゼロで「お?」「お?」と言っていれば成立するんですけど、ギロチンのまさゆきも燃堂ほどではないもののおバカではあるので(笑)。

――おバカというジャンルで差を付けなければいけなくなったと。

島崎:小野さんが「ちょっと……どうしようかな……」とキャラを探っている光景は、『斉木』の現場でははじめて見たので新鮮でした。
あとは、才虎芽斗吏役の松風雅也さんが、ブタこと小野石男を演じたのもギャップがあって面白かったです。

――才虎は大金持ちですけど、ブタは典型的なオタクでしたからね。

島崎:ヒエラルキーの違いみたいなものを感じました。『勇者学』単体で観るのももちろん面白いんですが、『斉木』のキャラとの対比を見るのも面白かったです。もともと『勇者学』を本誌で読んでいて好きだった僕としては、感慨深くもありました。

なので今後の麻生先生には『勇者学』のアニメをやって、その間に先生に『斉木』の続きを描いてもらって、また『斉木』のアニメをやって、『勇者学』を連載してもらって……という無限ループを生み出してもらいたいくらいです。

――それくらい両方やり続けたいと。

島崎:本当に! 先生のご都合もあると思うのであくまで願望ですが、そんな夢も広がる『勇者学』のコラボでした。
あと、『Ψ始動編』で印象に残っているのは、楠雄が動揺しているシーンです。「最強の超能力者なのに、うろたえている姿も見られるなんて……!」と、グッと来るものがありました。
感情を出す場面やテレパシーでなくかけ合う場面もあって、今までにはない人間らしい楠雄が見られるのも嬉しかったです。ここまで積み重ねてきたからこそだなと思います。

■手紙から『斉木』の魅力を痛感
――Netflixでの全世界配信ということで、字幕28カ国/吹き替え8カ国に展開。日本でも一部の言語には切り替えられます。

島崎:Netflixさんって、ローカライズがすごく丁寧な印象なんです。だから、たとえセリフ量が多くてスピードが速い『斉木』であっても、ちゃんと各国の方に楽しんでもらえると思います。

――ともあれ、言語によってはセリフで画面が埋まりそうだなと思うこともあります。

島崎:そうなんですよね!(笑) 以前、各国の『斉木』のタイトルロゴを見させてもらったんですが、日本だとふりがなが書いてある部分が言語によって全然違うんですよ。サブタイトルでも入っているのかなと思うくらい。

でも、何より注目は吹き替えです。言語によっては圧縮しているのかもしれないですが、喋りやすい言語なら「あれ、俺らより……」ってなるかもしれない(笑)。それがすごく楽しみです。
これを読んでくださったみなさん、興味本位でいいので、ぜひ世界各国の言語に切り替えてみてください。面白い体験ができると思います。

あと、翻訳の内容で文化の違いもわかるから面白いですよね。「日本でしか通じないネタは何に置き換えられているんだろう?」と。

――『斉木』は初詣やクリスマスなどの行事を描いていますからね。

島崎:そうそう、どんなふうになっているんでしょうね? バレンタインなんて、海外から入ってきたイベントだけど日本独自の文化になっていますよね。「なんかよくわからないけど、海外からもらっためでたい日だぞ、フゥーー!!」って(笑)。

――本当ですね(笑)。

島崎:アメリカの人が見たら、何をしているのかわからないと思います。どう表現されているのか気になりますね。
食べ物もそう。「SUSHI(寿司)」は、今でこそ海外でも通じるワードですが、そのほか通じないものもあるはずで、そのあたりどうなっているか僕も確認してみたいです。

スマホで観るのは我慢できない気がするんですけど(笑)。

――というと、笑ってしまうから?

島崎:そうです。さっき「スマホと相性がいい」とか言いましたけど、僕個人は外で観るのがちょっと怖いです。アフレコの記憶が蘇って、マスクをしていたとしても声が出ちゃうと思います。「ハッハーー!」みたいな声が。職業柄、とっさに出た声がめちゃくちゃデカかったりするので危険ですね(笑)。

自分が演じたキャラに入り込んで、気づいたら同じ表情をして観ていることもありますし。

――外では観ないほうがいいかもしれません(笑)。じゃあ、観るなら家ですね。

島崎:そうですね。外だとしても、誰の邪魔にもならないところで落ち着いて観たいです。家なら、TV画面で楽しみたいですね。僕、アンドロイドTVを使っているのでTVでNetflixが観られるんですよ。

――じゃあ、ご自身が出た作品もそれでチェックしたりするんですか?

島崎:はい。配信文化に触れたのが2年前なので割と最近なんですけど。「そういえばリモコンにNetflixボタンがあるな」と思って、つけてみてはじめて「観られるじゃん!」と気づきました。
それまでは、家でお酒を飲まなかった僕も晩酌をはじめて。最近は、めっちゃ楽しんでいますね! ビール飲んでつまみを食べながら『斉木』を観てゲラゲラ笑ってます(笑)。

――なんと幸せな(笑)。『斉木』自体、そういうふうに気兼ねなく笑える作品だからいいですよね。

島崎:本当に。家族で観るという方が多いらしいんですが、それも納得です。そういえば、視聴者のおじいちゃんから『斉木』の番組宛てに手紙が届いたんですって。「『斉木』を、孫と観ています。正直、私には時折何を言っているか聞き取れない部分もあるのですが、そういうときは孫が教えてくれます。おかげで交流の時間になっています」という、丁寧な内容の手紙が。

――まさに家族で楽しんでいる方ですね!

島崎:それを聞いて、「『斉木』ってすげーな!」と思いました。「速すぎて聞き取れない」というのも『斉木』らしくて(笑)。
本来ならご年配の方でも聞き取れるようにしたい思いがあるんですが、これはこれで素敵だなとも思います。嬉しかったですね。

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■ダークリユニオンは青二プロダクション?
――アフレコのお話で、『斉木』は修行の場だとおっしゃっていました。海藤のキャラにちなんで伺いたいのですが、そんな修行を経て“解放”された力はありますか?

島崎:名言を借りる形になってしまいますが「考えるな、感じろ」というフィーリングが解放されたように思います。
『斉木』のアフレコ現場は本当に勢いなんです。「ここで区切ろう」とか「こういう節で言おう」と頭で考えてしまうと間に合わないんです。

――そこまでハイレベルなんですね。

島崎:アフレコ時のVTRには、喋るタイミングでマークが出るんですが、あれも「このタイミングでマークが出るな」と考えていたら遅れてしまう。だから頭で考えるのではなく、“感じたら出る”ということをしないといけないんです。

――「考えるな、感じろ」だと。

島崎:4~5人でわちゃわちゃしているシーンは、スタッフさんも僕らも「なんでかわからないけど、尺に収まったな」と思うことがよくあります。それくらい感覚的なんです。

いろいろなことを感じとらなければいけないぶん、感性は研ぎ澄まされたと思います。あと、バッ!とやる「勢い」と「度胸」も解放されました。
アフレコでは、「ここまではギリギリ許されるぞ」というラインがなんとなくあるんですが、それも広げることができましたね。「ギリギリセウト!」みたいなところを出せるようになりました(笑)。

――では最後にもうひとつ海藤に引っ掛けて、島崎さんにとってのダークリユニオン的存在も聞いてみたいです。仕事でもプライベートでも構いません、島崎さんのなかで大きな存在というか……引っかかるものというか。

島崎:難しいですが……組織という意味では青二プロダクションは僕にとってのダークリユニオンかもしれないです。

――島崎さんの所属事務所が。

島崎:はい。とにかく構成員が強いですからね! だって、何回も世界を救ったり滅ぼしたりしている人たちが何人もいるんですよ? 同じ人が滅ぼしたり救ったりしているパターンだってありますから。

――確かに! いろんな世界で超人的なことをしていますね。

島崎:それに現実世界では超有名で海外にも知られている。意識しなくてもTVから声を聴いていることもあります。それだけ強大な力があるんだから、きっと世界を統べられますよね!
自分はそこに所属していて、海藤は1回抜けて追われている身という違いはありますけど、「自分が常に意識している組織」「自分に影響を与える組織」といえば事務所なのかなと思います。

あとは、それぞれの作品がダークリユニオンかもしれないです。どの作品も、確かな座組で面白いものを作っていますからね。大きな影響を与えるという意味でも意識すべき組織です。

◆◆◆

最後に、「『Ψ始動編』も終わり、またロスになってしまいましたか?」と聞くと、顔の前で手を組み、「失われたものは戻ってこない……。だが再び刻の歯車が回り始めることを俺は信じている……」と、海藤節で再会を願った。『斉木楠雄のΨ難』シリーズは彼にとって特別な作品になっていた。 アニメ!アニメ! 松本まゆげ