零戦のエンジンを積んだ改造バイク!? 若者のカリスマだった宮谷一彦の「スーパーバイキング」 マンガ探偵局がゆく

引用元:夕刊フジ

 【マンガ探偵局がゆく】

 厚労省の調査では、余暇・社会参加活動を続けている中高年は心の状態が安定しているとか。今回はそんな方からの調査依頼だ。

 「学生時代に夢中だったバイクに、近頃またはまっています。同世代の仲間と休日ツーリングを楽しむ程度ですが、それがいい刺激になるのか、仕事も順調です。先日、愛車の整備中に、学生時代に読んだマンガのことを思い出しました。零戦のエンジンを積んだ改造バイクが登場するマンガで、描いていたのはよく知らない方でした。探偵局で調べてもらえますか?」(57歳・営業職)

 2018年3月に自動車工業会が発表した「二輪車市場動向調査」では、二輪車の新規免許取得者は2000年度に原付が39万8000人、普通・大型が36万4000人だったものが、16年度にはそれぞれ11万7000人、24万1000人に減少。購入者の世代構成では、07年度に40代以上が61%だったのに対して17年度は83%。若者のバイク離れの一方で、依頼人のように中高年になってバイクに回帰する人が増えているのだろう。

 さて、依頼の件はかなり難航した。ようやくたどり着いたのが、1982年12月から青年誌「ヤングジャンプ」に短期集中連載された宮谷一彦の「スーパーバイキング」だ。

 街の顔役をバックにつけ警察も手を出せない巨大な暴走族集団と、サイドカー付きのハーレーで彼らを狙う「悪霊ライダー」の抗争に、改造バイク・マニアの若者が絡む三つ巴のバイク・アクション作品である。

 主人公は元高校ラグビーの選手で、今はバイクの改造資金を得るために取り立て屋のアルバイトをしている。彼が仲間たちとつくっていたのは、四輪スポーツカーのエンジンを二輪車に積み替えたスーパーバイク。新たに挑戦中なのが、零式艦上戦闘機の星型14気筒エンジンを参考に組んだ星型5気筒エンジンでボアアップしたホンダCB125JX、愛称「ゼロ」の製作だった。

 本物の零戦のエンジンではなく、模したエンジンを積んだわけだ。

 作者の宮谷は67年に月刊誌「COM」で月例新人賞を受賞した「ねむりにつくとき」でデビュー。70年代半ばにかけて青年コミック誌を中心に作品を発表。若者たちからカリスマ的な人気を博したマンガ家だ。

 その後、寡作になっていったため、依頼人が「知らない」のも不思議ではない。ただ、残念なことに、この「ゼロ」は試運転の途中で回転数を上げすぎてエンジンブロックが吹っ飛んでしまうのだが…。

 ■中野晴行(なかの・はるゆき) 1954年生まれ。フリーライター。京都精華大学マンガ学部客員教授。和歌山大卒業後、銀行勤務を経て編集プロダクションを設立。1993年に『手●(=塚のノ二本に「、」を重ねる)治虫と路地裏のマンガたち』(筑摩書房)で単行本デビュー。『謎のマンガ家・酒井七馬伝』(同)で日本漫画家協会特別賞を受賞。著書多数。