AI美空ひばり どこまでがゆるされ、どこからが冒とくか

引用元:THE PAGE

 昨年のNHK紅白歌合戦で話題を呼んだAI美空ひばりに関する議論がネットを賑わせている。きっかけは山下達郎が19日、自身のラジオ番組「山下達郎のサンデー・ソングブック」(TOKYO FM)でリスナーからの質問に答える形でAI美空ひばりを「一言で申し上げると冒とくです」と語ったこと。これを受けてネット上にはさまざまな意見が噴出している状況だ。

山下達郎のミュージシャンとしての矜持

 “サンソン”として親しまれる同番組は山下が出演する唯一の音楽番組で、92年に放送を開始したという。

 「山下さんの個人コレクションを使って発信される日本最高のオールディーズ・プログラム、というのがウリです。定番のオールディーズからレアな音源まで、最高の選曲と最高な音質で届けることがモットー。そこへのこだわりは半端なく、山下さんが個人で所有するレコードをオンエアに適した音質に調整し直したり、随所にミュージシャンとしての矜持が息づいています。AI美空ひばりに対して山下さんが“冒とく”と一刀両断するのは当然でしょう」と話すのは、音楽情報メディアの40代男性編集者だ。

 AI美空ひばりは、ひばりさんが亡くなって30年ということもあり、AIなど最新技術を駆使してひばりさんの姿をよみがえらせた試み。NHKではその誕生の経緯についても別途、昨年12月にNHKスペシャルとしてドキュメンタリー番組を放送するなど、万全の準備を整えて紅白を迎えた。紅白本番のステージでは大型のスクリーンに白いドレス姿のひばりさんが登場し、新たに作られた楽曲「あれから」を歌いあげた。

涙流し喜んだファンも どこまでが許容範囲か

 また、NHKスペシャルでは長男(養子)の加藤和也氏をはじめ、ひばりさんにあこがれ歌手になった天童よしみ、作詞など楽曲づくりを担当した秋元康氏、衣装を手がけたデザイナーの森英恵氏など生前のひばりさんのクリエイティブに携わっていた人々を中心に数多くの人々が“AI技術で美空ひばりを再現する”ことに情熱を傾けている様子が取り上げられた。

 「Nスペでは試作段階でひばりさんの後援会メンバーから痛烈なダメ出しをされる場面やAI技術の危険性など負の部分についてふれる箇所もあり、NHKでは当初から賛否が起きることは十分予想したうえで、できる限りのお膳立てを整えてきた印象はあります。AIではありませんが、亡くなった俳優の過去の映像を切り貼りして新CMを作ったときも賛否があった。今後ますますAIやCGなどの技術が進歩していくと、どんな問題が起きてくるか予想もできない。この手の議論は今からしておく必要があるのでは」と指摘するのは、スポーツ紙の40代男性記者。

 今回の山下の一刀両断には「こういうことをサラッと言えるのはさすが」「気持ちいいぐらい言い切ってくれた」「情熱があれば何でも許されるわけではない」「セリフまでしゃべらせたのはいかがなものか」といったAI美空ひばり否定派の意見がネット上に続出。しかし一方では、「“大切なあの人にもう一度会いたい”と願う人々に届けるために作るのなら素晴らしいこと」といった賛成意見や「AIで個性まで再現しようとするのは感心できないものの、涙を流して喜んだお年寄りがいるのだから一概に否定もできない」と一定の理解を示す意見などもある。

 芸能界では、故人となった芸能人の姿などをこうした技術で新たなものとして再現することについてどこまで許容されるのか。AI美空ひばりをきっかけに、今後さまざまな議論が出てきそうだ。

(文・志和浩司)