演技も物語も動き続ける――『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』が導く、虚空の「二人芝居」

引用元:CINEMORE
演技も物語も動き続ける――『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』が導く、虚空の「二人芝居」

たった数時間の冒険。ただただ、気球で空へと昇るだけ。
だが2人はこの旅に、過去も今も未来も、人生の全てをかけた。
天命に抗い、切り拓く不屈の意志。蒼く清く、澄み切った「生」のドラマ。

 夢の共演、は映画における大いなるロマンだ。近作であれば『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)のレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの顔合わせは、映画ファンを沸かせた。しかも2人ともアカデミー賞に主演男優賞と助演男優賞でノミネートされ、人気的にも評価的にも昨年の「顔」の映画と相成った。『フォードvsフェラーリ』(19)では、マット・デイモンとクリスチャン・ベールが初共演。『マリッジ・ストーリー』(19)では、アダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンが夫婦役を務めた。

 スター同士が個性を出し合い、その映画だけの化学変化が生まれる――その瞬間を見届けられるのは眼福だが、別の役どころで相対する「再共演」もまた、味わい深い。オスカー関連作でいえば、『アイリッシュマン』(19)がそれにあたる。クリストファー・ノーラン監督が『ダークナイト』(08)の参考にしたという傑作『ヒート』(95)のロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが正真正銘同じ画面に映る興奮と感慨――映画好きだけに許された贅沢な悦びといえよう。

 そしてまた、ここにビッグな「再共演」が実現した。アカデミー賞に輝く『博士と彼女のセオリー』(14)のエディ・レッドメインとフェリシティ・ジョーンズが、再び「空」に想いを馳せる『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』(19)だ。『博士と彼女のセオリー』を観た者ならば皆、快哉を叫んでしまうのではないだろうか。それほどまでに同作で2人が見せた相性は出色で、アカデミー賞にダブルノミネート(レッドメインは受賞)という結果も物語っている。

 『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』は『博士と彼女のセオリー』と同じく実話ベースで、エディとフェリシティがナイーブな男性と芯の強い女性をそれぞれ演じ、エディの役どころは研究者、2人に訪れる試練、そして先ほど述べたように「空(宇宙)」がテーマと、ファンには嬉しい符合が満載。

 さらに注目すべきは、今回は全くの「二人芝居」という点だ。本作は気球で空を目指す男女を描いた作品であり、ひとたび空に出れば、回想シーン以外は完全な二人芝居。再共演作の面白さは、前作から年月を経て経験を積んだ両者が、円熟味を増した演技をかけ合わせる部分にある。そういった意味で、主要な登場人物が2人きりで進む本作は、実に適した舞台を用意したといえよう。

 『リリーのすべて』(15)や『ファンタスティック・ビースト』シリーズを経験したエディと、『怪物はささやく』(16)や『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)で存在感を発揮したフェリシティ。2人の成長の証が、本作には十二分に詰まっている。