C・イーストウッド監督が最新作「リチャード・ジュエル」で描く“今ここにある危機”

C・イーストウッド監督が最新作「リチャード・ジュエル」で描く“今ここにある危機”

 クリント・イーストウッド(89)の監督40作目となる新作「リチャード・ジュエル」が、いまの日本には実にタイムリーだと話題である。

 舞台は1996年のアトランタ五輪。実際にあった爆弾事件で、爆弾を発見し多くの人命を救った英雄でありながら、容疑者と報じられ、追い詰められていく警備員リチャード・ジュエルを描いた。地元地方紙の女性記者がFBIが調べているとのネタをつかみ、一般論として第一発見者が犯人である可能性があると報じた飛ばし記事によって、全国民が敵になり、人生をメチャクチャにされてしまうのだ。

 イーストウッドは「プロダクション・ノート」でこんなコメントをしている。

「私がこの主人公に興味を持ったのは、彼がどこにでもいる、ごく普通の良い人間だからだ。警官になりたいと願い、人々がよりよい生活を送れるよう献身的に働いて、英雄的な行動をとったことで、こともあろうに、とんでもない被害に遭う。世の中に見捨てられ、全国民が敵になってしまうんだ。そこから逃れる力は何もなかった。24年前の事件だけど、今の時代にも十分起こりうる、伝える必要があると思ったんだ」

 その可能性として、メディアリンチのみならず、SNSによって、デマや臆測でも簡単に拡散し「炎上」してしまうネット社会の普及を挙げ、こう続けている。

「人は情報をきちんとまとめて考えない。事件の6年後に真犯人が現れ、逮捕されたのに、それをリチャードの潔白とつなげない」

 一度疑われたら、それが根も葉もない事実無根であったとしても独り歩きし、名誉挽回されないのが現代社会。四六時中スマホ漬けの現代人をイーストウッドはクレージーと訴えた。

 このほど都内で開かれた一般試写会では、報道被害を考えるイベントもあり、94年の松本サリン事件の第一通報者で報道被害を受けた河野義行氏が「事件の構図も展開も松本サリン事件とまったく一緒」と語っていた。この夏、2度目の東京五輪が開催される日本では、メディアやSNSのみならず、テロ対策に躍起の捜査機関から嫌疑をかけられる可能性も少なくない。その恐怖と、それにリチャード・ジュエルがどう立ち向かったかを描いた物語は実にリアル。今ここにある危機への警鐘のようだ。17日から全国公開。