尾上菊五郎、国立はいつも新しいトライさせてくれる…「菊一座令和仇討」ワンチームで145年ぶり幻の名作

引用元:スポーツ報知
尾上菊五郎、国立はいつも新しいトライさせてくれる…「菊一座令和仇討」ワンチームで145年ぶり幻の名作

 歌舞伎座で見られないものを求めて―。東京・隼町の国立劇場1月公演は、2006年から人間国宝・尾上菊五郎(77)を中心に、音羽屋が新年の幕開けを飾っている。公演中の「通し狂言 菊一座令和仇討(きくいちざれいわのあだうち)」(27日まで)は4世鶴屋南北の幻の名作を大胆にアレンジ。上演は145年ぶりという“激レア物”だ。また菊五郎は歌舞伎俳優を束ねる日本俳優協会の理事長でもある。5月に「13代目市川團十郎白猿」襲名披露、夏に東京五輪を控える。歴史的な年をどのようにとらえているのだろうか。(内野 小百美)

【写真】尾上菊之助の長男・丑之助が初舞台「どうぞ、よろしくお願いします!」…「團菊祭」開幕

 「1月を何度も任されるというのは、そりゃあ、えらいプレッシャーだよ。どこで楽しませてくれるか、お客さんの期待も分かるだけに。毎年12月は生みの苦しみとの闘いだね」。名実と格式を求められる国立劇場の1月興行。「菊五郎劇団」を率いる菊五郎が06年から託されてきた。客層も長年の芝居好きを思わせる常連が目立つ。他の歌舞伎公演より入場料がリーズナブルなのも国立の特徴で、学生は1300円から観劇可能だ。

 8日に楽屋で話を聞いた。初日(3日)を見たことを伝えると「もう一回見てほしいな。さらに良くなって面白くなっているからさ。国立は私たちにとって、なくてはならない非常に貴重な劇場なんだよ」。開口一番、そんな言葉が返ってきた。「菊一座を今回はワンチームと呼ぶようにしている」と話す「―仇討」は、「御国入曽我中村」の題で1825年初演。1875年以来145年ぶりにアレンジされての登場という大変珍しい演目だ。

 お客を確実に呼べるような人気作が増える傾向にある中で「国立はいつも、思い切って新しいことにトライさせてくれる。これが大事でね。復活狂言だけでなく、それを序幕から通し狂言でできるのもうれしい。後世に残れば何十年後かに『やってみようかな』と思ってくれるかもしれないだろ?」。

 今月は東京だけで4劇場で歌舞伎を上演。歴史的に見てもこれほど活況を呈した時期はないといわれる。しかし、菊五郎は冷静だ。厳しかった昭和40年代を振り返ることがあるという。

 「父(7代目尾上梅幸)たちの全盛期。やっているものは素晴らしいのに、どうしても客が入らない。なぜなんだ、どうしてなんだ、と思っていたよ。お客さんに見放されている、と感じた時もあったな。それだけに“いま”を大事にしなくちゃいけない」

 毎年「團菊祭」のある5月に、團十郎襲名披露は行われる。「これは歌舞伎界にとって、大変大きなこと。当然みんなで盛り上げていかないといけない」。そしてそのすぐ後にオリンピック。これまでにないほど多くの外国人が歌舞伎を見に訪れることが予想される。菊五郎は日本俳優協会・理事長でもある。

 「常に歌舞伎界の発展を考えなければならない責任を求められる立場。そのように自覚してますよ。もし何かあれば、矢面に立つ覚悟を持って。でもまだまだ。どうしたら今以上に発展できるか」

 菊五郎は、祖父の6代目菊五郎、父と3代で人間国宝になったのが60歳の時。17年の年月を経て、強く感じるのは歌舞伎の生命線である「味わい」の変化だという。

 「歌舞伎をいかに伝えていくのか。いろんな狂言が出てきて全く構わない。でも大事なのは歌舞伎が持っている味わい。“歌舞伎の味”が薄れること。それが一番怖い。今年は目玉になることが多い。でもそれらが落ち着く秋以降が正念場になってくるんじゃないかな」

 ◆菊之助には干渉せず、何やってもOK

 菊五郎の長男、尾上菊之助(42)は権八と小紫を一人で演じ分けている。昨年12月は新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」に主演し、連ドラではTBS系「グランメゾン東京」でのシェフ役が記憶に新しい。菊五郎は以前よりほとんど干渉しない主義で、本人に任せてきた。最近増えている映像面での活動にも「帰ってくるところは歌舞伎だから。それさえしっかり分かっていれば、基本的に何をやってもいいんじゃないか、と思ってるよ」とのことだった。

 ◆「菊一座令和仇討」

 曽我兄弟の仇討ちを題材にした「曽我物」の時代設定を踏襲。名場面「鈴ケ森」で知られる幡随院長兵衛(菊五郎)や白井権八(尾上菊之助)、浄瑠璃「鑓の権三重帷子」の笹野権三(尾上松緑)らの有名なキャラクターが活躍。出演者の多くが複数の役を演じ分け、展開も奇想天外。8年ぶりに両花道を使用。共演は中村時蔵、坂東彦三郎、坂東亀蔵、中村梅枝、中村萬太郎、尾上右近ら。 報知新聞社