チェリスト柏木広樹さん 付いたあだ名「キョードー全日本」のナゼ

チェリスト柏木広樹さん 付いたあだ名「キョードー全日本」のナゼ

【今だから語れる涙と笑いの酒人生】

 柏木広樹(チェリスト・51歳)

 葉加瀬太郎さんらとコンサート活動を続けるチェリストの柏木広樹さん(51)。公演先の食事が何よりの楽しみで、根っからのアルコール党だ。

  ◇  ◇  ◇

「バイオリンを弾く人は案外、一匹狼が多いのですが、チェロ奏者は仲間でワイワイやるのが好きなんです。芸大(東京芸術大学)で夜遅くまで練習していると『おい、いくぞー』って先輩にしょっちゅう連れていってもらいました」

 日本酒、ワイン、ウイスキー……なんでも。とくに日本酒にはこだわりがある。「90年代の地酒ブームの頃は、島根の『王禄』とか愛知の『義侠』、山形の『東北泉』など日本酒好きがうなるような銘柄を選んで飲んだ」という。

「実はご縁があって、今回のアルバムでは日本酒の曲を作りました。『羽根屋』という曲です。富山県の富美菊酒造という酒蔵で丁寧に造られている日本酒で、蔵元まで行って見学して、仕込みの工程も見せてもらいました。すごく手作り感のある酒なんです。創業からある古い蔵で感じたものをメロディーにしました」

「羽根屋」は石高は少ないものの、品質は海外で高く評価されている。日本酒の銘柄を題材にした曲作りとはいかにも酒好きの柏木さんらしく、メロディーも凝っている。

「米が発酵される時の酵母の音を表現するのに工夫しました。それから和を感じさせたくて、尺八の演奏を藤原道山くんに頼んで入れました」

 チェロの音色と日本酒のまろやかさが織り交ざり、一杯やりながら聴いたら、心地よく酔えそうだ。ところで、柏木さんは全国の酒とグルメの情報通でもある。

「デビューして約30年になります。全国のいろんな店といいお付き合いをしています。例えば、金沢のお寿司屋さん。寿司ネタに限りなく触らないという大将の神業に惚れました。大将の仕事ぶりを見ながら飲む地元の『菊姫』がたまらなかった。残念ながら大将は亡くなってしまったのですが。それで今はお弟子さんの店に行ってます。昼も夜もお客さんが一回転しかしない店で、『一人がこなせるのはこの人数が目いっぱい』ととことんこだわっている。予約を取るのが大変な店です」

「鳥取のカニも絶品。境港にあがる松葉ガニですが、食べるとうま過ぎて涙が出ます。凍ったカニ味噌のシャーベットを味わったり、いろんなカニ料理を食べて、最後は鍋です。その店は日本酒も焼酎も充実していて最高です」

 最後に洋風を――。

「西麻布に最後、そばが出てくるワインバーがあります。最初の一杯からそばまで計算して、スパークリング、白、赤と飲むんです。途中で赤ワインとお肉を食べるけど、最後はそばで締めるという変わった店です」

■葉加瀬太郎さんは僕より酒好き

 こんな柏木さんにお店の情報を聞きたがる仲間や知人は多い。夜の食事の手配をするイベンター、「キョードー東京」ならぬ「キョードー全日本」と呼ばれているそうだ。普段、酌み交わすのはやはりミュージシャンが多い。

「ミュージシャン同士で飲むと、結局は音楽の話になりますね。しかも真面目な話。それが尽きないんだ。『人の心に届く音を出すにはどうしたらいいか』とか『いい曲とは』とか。そういう話を延々と。つまり、『音楽やっててよかった』イコール『酒が飲めてよかった』ってことで、楽しいんです(笑い)」

「ミュージシャン仲間といえば、葉加瀬太郎さんは僕より酒好き。明るく楽しい酒でいいですよ」

「舞台で演奏が終わった時にもらう拍手にも音色がある」という。

「今日はどういうふうに思ってもらえたかなって思いながら聴きます」

 そして、お楽しみはコンサートの後で……。

 (取材・文=浦上優)