長谷川博己、『麒麟がくる』で“新しい”明智光秀を生きる

引用元:TOKYO HEADLINE WEB
長谷川博己、『麒麟がくる』で“新しい”明智光秀を生きる

 新しい大河ドラマ『麒麟(きりん)がくる』が1月19日からスタートする。主人公は明智光秀。本能寺の変で織田信長を討った反逆者として、あまたの歴史上の人物のなかでも、多くの人に色濃く認識されている人物のひとりだ。のちに知将としてその名を知らしめることになる光秀を演じるのは、長谷川博己。2020年は全身全霊をかけ、“明智光秀”を生きる。

『光秀は選択を強いられることが多い』

   

 長谷川博己が大河ドラマ『麒麟がくる』で主演することが発表されたのは、2018年の4月のことだった。記者発表の場で、長谷川はたくさんのフラッシュを浴びながら言っていた。「これを乗り越えたあとに、人が見られない景色が見られるのではないかな」と。
 明智光秀は、歴史上のたくさんの有名人のなかでも、もっとも強烈な印象を残している人物のひとり。とはいえ、そのイメージは「本能寺の変」の周辺のみで、どのように育ち、どんな人と出会い、明智光秀となっていったのかは「知られている」とは言い難い。

■明智光秀は、今の時代に必要な新しいヒーローだと思う

「明智光秀というのは、今の時代に必要な新しいヒーローなのかなと思うんです」と、長谷川は言う。「ヒーローって言うと違和感を持つ人がいるかもしれないですが、そういう部分がある。上司に対してズバッと言うときは言うし、知性と品性で突き進むところも、今の世の中にこういう人がいたらいいなと思う人。僕はそういうつもりで演じています」。

 光秀=「本能寺の変」、光秀=反逆者。『麒麟がくる』ではそのイメージとは異なる光秀を描く。知らなかった光秀の姿は、池端俊策によって脚本のなかに描かれ、長谷川が演じる。

 長谷川は、ていねいに、そしてち密に役を作っていく印象が強いが……。

「いろんな資料や本は読みました。池端先生とご一緒した『夏目漱石の妻』の時のようにリサーチもたくさんしましたが、調べれば調べるほど分からないんです。いろんな人がいろんなことを言っていて、またそれを否定する人もいて。わからなくなってきたので、基本的に現場にはそれは持ち込まずに、池端先生の本のなかでの光秀をやっていこうと」

「最初入った時は、どうしても逆算してしまうところがあった」と、長谷川。本能寺の変のあたりのやりとり、宣教師のルイス・フロイスの書き残したものなどから、「こういう人間なのに、どうしてこういうことを言うのかと思ったりしていた」という。でも、池端に「みんなが知っている、本能寺の変を起こした明智光秀から逆算して考えないでほしい」と言われた。

 それゆえに、読んだことや調べたことを忘れて、一切考えないで、「無の状態」で臨んでいるという。

「子どもの頃からものすごく頭がいいという光秀像で描かれますが、普通の、ひとりの青年なんです。自分が生まれた美濃という国を守りたいという気持ちが根本にあって、明智荘(あけちのしょう)を出て違う国を見たら、国はもっと大きいんだと感じて、美濃から尾張や堺に行き、守りたいと思う場所がどんどん広がっていった。それと、明智の家系には男があまりいなかったと聞きますから、明智の血を絶やしてはいけないという責任感もあった。そういう気持ちって、今の人間も同じで、今にも通じるものですし、普通に共感します」

 撮影は昨年6月にスタート。それ以前の準備段階からそうだろうが、ずっと光秀と向かい合っている。「とにかくヘビーな撮影」と長谷川。そして「すごく難しい」。

「光秀というのは、いつも黙っているので、台本に“……”がものすごく多いんです。斎藤道三(光秀の主君)に無茶なことを言われても、帰蝶(後の、濃姫)に何かを言われても“……”。そこを自分で埋めなければいけないのは楽しくもあるんですけど、すごく難しいんです。今こういうことになっているからこの感情だろうというのも正解とは限らないし、分かりやすくしてもいけない気もしますし……」。

 この“……”の多さは、光秀が「選択を強いられることが多い」ことに由来するという。

「光秀は選択を強いられることが多いんです。彼が土岐源氏の流れだと考えれば選択するのはこちらだと思っていても、歴史の流れでは矛盾していることもある。そのときにまた“……”です。どんな感情だったのだろうかと池端先生にお聞きしたことがあるんですが、たぶんその選択をした時は五分五分、どっちの可能性もあったんだろう、と。光秀も瞬発的に決めている可能性があるとおっしゃっていて……。ただ、(埋めることは)難しいですが面白くもなってきています。例えば、道三とのシーンで、(道三を演じる)本木(雅弘)さんを見て、私も表現を変えてみようとか。現場での感覚を大事にして、瞬発力で決めるようにしています」

 これまでにもいろいろな時代でさまざまな人物を演じ、その姿から、多くの視聴者がその時代やその時代に生きている人たちの息遣いを感じてきた。『麒麟がくる』にもまた、それを期待してしまう。

「写真もないですし、いろんなことで嘘もつける。甲冑であるとか、そういう動きはしなかったとかというのもありますが、それらをどう乗り越えて説得力があるようにできるかが楽しいです。『国盗り物語』、『黄金の日日』も好きなので見直したりと、参考にしたものもあります。でもそれはそれで別の作品。振り回されたくないなというのもあるんです。何か同時代性みたいなものを見つけたいというのがあるなかで、少し気楽に見られるところも欲しいですし、バランスを考えながら演じています」

 明智光秀を突き詰める一方で、主演として、そして座長としても、役割を課されている。

「主演として、座長として、全体をちゃんと見通しておかないといけないということを感じています。でも私は座長らしいことはできないんですよね……。基本的には役に入り込みたいというか、それ以外のことは考えたくないんです(笑)。改めて、主演というのは重いポジションだな、と思います。助演はある程度自由にやれる部分もあると思うんですけど、主演はいろんなボールをもらってまた次に渡していくということを、流れるようにやらなければいけないと感じています。……でもまあ、主役から見える景色というのは、なかなか気分がいいものですね(笑)」

 改めて“助演”陣を見てみると、確かに一筋縄では行かないようなメンバーが名を連ね、好き勝手なボールばかりを投げてきそうだ。例えば、松永久秀を演じる吉田鋼太郎。長谷川は「(松永と光秀が)若くして出会っていたかもしれないということになると、歴史ファンからするとすごく楽しいというか、たまらないんじゃないかなと思う」。

 吉田はキャスト発表の際「やりたい放題ができるのでは」と話していた。

 織田信長は染谷将太。親との関係とか家族の関係、どこか孤独を感じさせるような信長像になっているといい、「全然違う感じで、すごい素敵。今までの信長像とは違うんじゃないですかね」と、長谷川。

 少し距離感のある言い方は、役の関係性に近づけて「あまり近づかない感じにしている」せいかもしれない。

「まだ最初のほうなのでこの人は何者なんだろうという気持ちです。染谷さんの持つ独特な雰囲気というかムードが、今作での信長の“こいつ何かあるな”という部分とうまくマッチしているんです。表面はさらっとしているんだけど、何か内に秘めたマグマのようなものを持っている。染谷さんもこいつなんかあるなっていう感じで私を見ている感じがしています。そのあたりは、やっていて面白いです」

 そのほかにも、光秀の叔父・明智光安を演じる西村まさ彦、母の牧を演じる石川さゆり、門脇麦、岡村隆史、堺正章のオリジナルキャラクター陣など、強力なキャストが揃う。今後どのように物語が展開していくのか、楽しみだ。

 初回放送は19日。明智光秀としての約1年間の旅が始まる。

「撮影中はどういうふうになっているのかわからなかったんですが、みんなが期待しているような戦国時代の大河ドラマができているのではないかなと思っています。王道でありながらも新しさもある。2020年の俳優たちが戦国時代を演じることで、同時代性を感じる作品になっていると思っています。なぜ今、明智光秀というドラマが必要だったのかも感じられると思います」

 1年後、長谷川はどんな景色を見ているのだろうか。    
 
(TOKYO HEADLINE・酒井紫野)

■『麒麟がくる』1月19日スタート!初回は75分の拡大放送

 斎藤道三に見いだされ、たぐいまれなる知識と勇猛果敢な性格で戦場を駆け抜けた明智光秀。織田信長の盟友となり、多くの群雄と戦うようになった。謎めいた光秀の前半生にも光をあて、光秀の生涯を中心に戦国時代の英傑たちの運命の行く末を描く。タイトルにある麒麟は、王が仁のある政治を行う時に必ず現れるという聖獣。麒麟は一体、いつ、誰のもとに「くる」のか。毎週日曜【総合】午後8時、【BSプレミアム】午後6時(初回のみ午後5時30分)、【BS4K】午前9時。再放送もある。