本物のレースと生身のドラマ――『フォードvsフェラーリ』を爆速させる“ツインエンジン”

引用元:CINEMORE
本物のレースと生身のドラマ――『フォードvsフェラーリ』を爆速させる“ツインエンジン”

走行音が、音楽のように響き渡る。汗の一滴までもが、雄弁に物語る。
熱く気高く、愚直に「生きた」人間を描いた真実の物語だ。

 『フォードvsフェラーリ』(19)は、その名の通りフォード社とフェラーリ社の戦いをテーマとした作品だ。といっても、マイクロソフト社のビル・ゲイツとアップル社のスティーブ・ジョブズの競争を描いた『バトル・オブ・シリコンバレー』(99)のようなビジネス面でのバトルとはひと味違う。本作で行われるのは、一種の「代理戦争」。ライバル関係にある2社が、意地と威信をかけ、レースという場でぶつかり合うさまを活写している。

 舞台は、1960年代。自動車業界で勢いづくフェラーリ社(イタリア)を買収しようとしたフォード社(アメリカ)だったが、土壇場で決裂。さらにフェラーリの会長からは屈辱的なメッセージがフォード側に寄せられ、遺恨を残す結果となってしまう。コケにされたと感じたフォードの会長は、フェラーリが「絶対王者」として君臨するル・マン24時間レースに参加し、鼻を明かしてやろうといきり立つ。然して、最強のメンバー探しが始まった……。

 そこで白羽の矢が立ったのが、元レーサーで気鋭のカー・デザイナーとして売り出し中のキャロル・シェルビー(マット・デイモン)。フォードの期待を一身に背負ったシェルビーは、手に負えない問題児ながら超一流のレーサー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)を“切り札”として招聘し、最強のマシン作りとレースの攻略に挑むのだった。

 以上が、ざっくりとした本作のあらすじだ。先に作品の評価を伝えると、全米最大の批評サイト「Rotten Tomatoes」では、総合評価92%、オーディエンススコア98%と非常に高い。批評家・観客双方から愛されている作品であることがわかる。また、153分とそれなりに長い上映時間だが、全世界興行収入は1月6日時点で2億ドル突破の大ヒットを記録している。

 単純計算だが、上映時間が長くなれば、1スクリーンにおいて1日に回せる上映回数はその分減る。2時間弱の作品に比べて、『フォードvsフェラーリ』はやや分が悪い。だが、全米では初登場1位を記録し、2週目も『アナと雪の女王2』(19)に続く2位をキープ。その後も約1ヶ月間ベスト3に踏みとどまり、劇中さながらに逆境を跳ね返す健闘ぶりを見せつけている。惜しくもゴールデングローブ賞の受賞は逃してしまったが、アカデミー賞のノミネート(特にクリスチャン・ベール)は確実視されている。