89歳母の女優デビュー作を原田美枝子が初監督

 女優・原田美枝子が初監督を務めたドキュメンタリー短編映画『女優 原田ヒサ子』が、先ごろ山形市内で開催された第15回山形国際ムービーフェスティバルで初披露された。原田は主演映画『ミスター・ミセス・ミス・ロンリー』(1980・神代辰巳監督)で「刹那」の名義で原案・脚本を手掛けているが、監督は初めて。今回はさらに制作・撮影・編集・出演と5役を務めており、女優デビュー45年にしての新たな挑戦が注目されそうだ。

 主演は、89歳になる原田監督の実母・ヒサ子さん。昭和4年生まれのヒサ子さんは第2次世界大戦を経験し、結婚後はパートで働きながら原田監督をはじめ3人の子どもを育てた。原田監督が1974年に15歳で女優デビューし、結婚してからは孫の世話もし、原田監督の芸能活動をサポートしてきたという。だが近年、認知症が進み入退院を繰り返すように。そして突然、「わたしね、15歳の時から女優をやっているの」と語るようになったという。


89歳母の女優デビュー作を原田美枝子が初監督


原田美枝子の母・ヒサ子さん(写真左)。劇中には、シンガーソングライターの優河(写真右)ほか、女優・石橋静河、VFXデザイナーの石橋大河も出演している(映画『女優 原田ヒサ子』より)。

 それはまさに原田監督自身の人生。当初は驚き、戸惑った原田監督だったが、「一度もそんなことを言ったことがないのに、薄れていく記憶の中でほろっと。わたしを育て、孫の面倒の面倒をみる中で、ずっとそういう(原田監督と自分の人生を同化させるような)思いでいてくれたのかな? と初めて知りました。ならば母をワンカットでも撮って、映画として公開すれば“女優”が現実になる。それでこの映画を作ろうと思いました」と制作への思いを語った。

 今回の企画にはVFXアーティストの石橋大河と夫人のエマニュエルさん、シンガーソングライターの優河、女優・石橋静河と言った原田監督の子どもたちも参加。彼らが、祖母の女優デビューと母の初監督の両方を支える頼もしき姿も映し出されており、貴重な一家そろっての“共演”シーンとなった。


89歳母の女優デビュー作を原田美枝子が初監督


“監督”として映画祭に初参加した原田美枝子。(撮影:中山治美)

 何より、家族での映画制作は思わぬ発見もあったようだ。原田監督の助監督を務めたのは、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017)でブルーリボン賞新人賞を受賞するなど女優として成長著しい静河。中でも原田監督は、ヒサ子さんのアップシーンを撮る時の静河のカチンコの鳴らし方に感銘を受けたという。

 原田監督は「静河さんの打ったカチンコが非常に良いのです。祖母の顔の前にカチンコを出す時『お顔の前で失礼します』と言うんですね。カチンコを打つのって意外に難しくて、顔の近くで大きく打たれると耳元に音が響くのです。静河さんもさまざまな現場を踏んで来ているんだなと思うと、面白いと言うか、なんとも不思議な体験でした」と目を細めた。